105 マニーの気持ち
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マニーはいつもキザったらしくて、嫌いな権力を批判するときには辛辣になる。
しかし……そんな厳しい言葉を出しているのがウソみたいに、唇はやさしかった。
ボクはすぐにマニーから突き飛ばされるだろうと思っていた。
それでもゴールドによって煽られた、怒りの気勢だけは削げるはず……とも思っていた。
でもマニーは身体を強ばらせたまま、ボクの服の袖をギュッと握り返してくるだけで……抵抗らしい抵抗はしてこない。
むしろまわりで見ていた人たちのほうが大騒ぎだった。
「な、なんでアンノウン……マニーとキスしちゃってんの……!?」
「キャルルのあとにしてもらおうと思ってたのに、マジありえねぇ……!?」
「だ、男性の方どうしの口づけなんて、初めて見ました……!」
そろって青天の霹靂に打たれたようなキャルル、ルルン、アリマ。
ウサギは芸術家がインスピレーションを受けたかのように、ボロボロの姿で這いつくばったまま無我夢中でスケッチをしている。
ケンカを止めようとしていた観客たちも、浮世離れしたモノを目に映すかのようだった。
「す、すげえ……男とキスしてるよ……!?」
「ほ、本当にあの少年は、なにからなにまで破天荒だな……!」
「いくらケンカを止めるためだからって、ここまでするとは……!」
「でも、俺たちがあれだけやってもダメだったのが、一瞬にして止まったぞ……!」
「そりゃ、いきなりキスされたらビックリするさぁ!」
「でもよぉ、なんで相手の少年は嫌がってないんだ……!?」
「それがわからんよなぁ、まるで恋人みたいにじっとしてる……!」
「恋人って、お前なに言ってんだよ……!」
「でも、そういう風に見えないか? 気持ち悪いっていうより、なんというかその、美しいっていうか……」
「うっ……! 実をいうと、俺も少し、そう思ってた……!」
「お前もか? 実は俺も……」
「ど、どうしちまったんだろうな、俺たち……」
マニーは最初は目を見開いていたんだけど、今は瞼を閉じている。
どうでもいいけど、睫毛、長いなぁ……と思っていたら、ついに身体の緊張までほどけた。
そして感情までもが流れ込んでくる。
『……ああ……! これが夢にまで思い描いた、アンノウンの唇……! 雌犬どもに奪われるのを、ハラワタが煮えくり返るような思いで見ていたのだが……ついに願いが叶ったというのか……!? いや……これもきっと、いつもの夢……! 夢というのは追い続ければ、叶わなくとも真実になるというのは本当だったんだな……! ああっ、このまま醒めないでいてくれ……!』
ボクはおそるおそる、テレパシーで念を送ってみた。
『あの……マニー、これは夢じゃないよ? ごめんね、いきなりキスしたりして……マニーにも、わかってもらいたかったから……。こうやってキスすると、ボクはMPが回復できるんだ……。キャルルとキスをしていたのも、MPを回復するためで……』
するとマニーの瞼がピクリと震え、微笑むように垂れた。
『……ふふっ、気にするなアンノウン。ただし、責任はとってもらうぞ』
『責任って?』
『貴族の唇というのは何よりも尊い……それを合わせるということは、一生添い遂げることを意味するんだ』
『一生を、添い遂げる……?』
『単純にいえば、結婚だな』
『えっ』
ボクはキスしているあいだ、相手のステータスウインドウが見えるんだけど……マニーのステータスに変化が起こりはじめる。
たしかキャルルとキスしたときは『モデル』から『白魔法使い』に変わった。
ルルンのときは『モデル』から『パン屋』だった。
マニーの場合はなんと……『貴族』から『花嫁』へ……!
ボクはブッと吹き出しそうになってしまう。
『ちょちょ、ちょっと! マニー! マニーって女の子であることを隠してるんじゃなかったの!? それなのに職業が花嫁になんてなったら、女の子であることがバレちゃうよ!?』
しかしマニーは動じることなく、
『かまわん、夢の中くらい好きにさせろ。俺はなるぞ、アンノウンの花嫁に』
堂々とボクの嫁宣言をしてきたんだ……!
『いや、夢じゃないんだけど……本当にバレちゃうよ!? ボクは別にいいけど、本当にいいの!?』
『やれやれ、実にリアルな夢だな……。しょうがない、じゃあ、これでどうだ』
マニーが肩をすくめると、『花嫁』は『騎士』に変わった。
『まぁ、それなら……って、そんな風に自由に変えられるもんなの!?』
『夢なのだから当然だろう。俺は花嫁になるのが夢だったが、同じくらい騎士にもなりたかったんだ』
『だから、夢じゃないってば!』
『ふふっ、いくら言っても無駄だ。これが夢だという証拠は、ちゃんとあがってるんだからな』
『証拠、って……?』
『まず第一に、アンノウンが俺にキスをするわけがない。俺はしたいと思っていたが、俺からするわけにもいかないからな』
『……なんでそう思うの?』
『当然だろう、アンノウンは俺のことを男だと思っているんだから。するわけはないし、されたくもないだろう。ま、俺は寝ているアンノウンに何回かしかけたが……騎士道精神に反すると思ってやめたんだ』
マニーは本当に夢だと思っているようで、さらっととんでもないことを白状する。
でも今はそれに突っ込んでる場合じゃない。
『あの、それについてだけど……実をいうとボク、マニーが女の子だって知ってたんだ……!』
『ほら、それが第二の証拠だ。俺は貴族の跡取りになるべく、長女ではなく長男として13年間育てられてきた。俺が女だというのは、両親とじいやのみが知る事実だ。毎日いっしょにいた使用人たちにすらバレなかったものを、数日いっしょにいるだけのアンノウンにバレるわけがないだろう』
『いや、意外とわかりやすかったけど……』
もしかしたら使用人もボクと同じで、本当は気づいてたけど黙ってたんじゃ……なんて思っていると、急にマニーの身体に異変がおこりはじめた。
『な……なんにしても、弟が生まれてからは、おっ、俺が男でいる意味なんてなにひとつなくなったんだ。いいっ……いまさら女として生きていくつもりはないが、んんっ……! 夢のなかであるならば、べ、別の人生を歩むのも、よかろう……!』
はじめての喜びを知るように、声と身体をゾクゾクと打ち震わせるマニー。
『……ううっ、キャルルもルルンも、アンノウンとのキスのあとは腰砕けになっていたが……まさか、ここまでとは……! えもいわれぬ快楽というのは、こういうことを言うんだろうな……! いつもなら夢のなかでキスを交わしたあとは、俺はすました顔をしてて……それでアンノウンがさらに惚れるんだ……! で、でも、こ、ここまでリアルだと……うううっ! ほ、本当に……! ああっ、もう、我慢の限界だ……! ん……んんっ!! んうぅぅぅぅぅぅぅぅ~~~っ!!!』
くぐもった悲鳴とともに、マニーの身体が激しく波打つ。
唇を離すと、色っぽい悲鳴が少しだけ尾を引いた。
瞼がぷるぷると震え、白目が覗く。
背筋をピーンと弓なりに反らしたかと思うと、大往生のようにカクンと力が抜ける。
ボクの腕の中でふぅ、ふぅ、と荒い息を繰り返したあと……はふぅ、と満足そうなため息。
そのまま眠ってしまった。
……結局マニーは夢だと誤解したままだった。
でもまぁ、いっか。
大人しくさせるという目的は達成したんだから。
ボクはマニーの身体をお姫様だっこで抱えあげると、カジノのスタッフに声をかけた。
「どこか、静かな場所で寝かせておいてくれる?」
キスに見とれていたスタッフは雷に打たれたように我に返る。
数人がかりでやってきて、マニーを引き取ってくれた。
言葉を失っているみんなをよそに、ボクはケルパー勝負へと戻る。
その途中、ウサギのスケッチが目に入ったんだけど……ボクは今度こそついに吹き出してしまった。
マニーとボクが、バラの花畑で手をつなぎ、唇を交わしている絵だったんだ。
マニーはともかく、ボクは恐ろしく美化されている。
「ねぇ、ウサギっち……その絵、『キャルルルン』に飾ってもいい?」
とキャルルが尋ねていたので、ボクは慌てて止めた。