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104 秘策中の秘策

関連小説の紹介 ※本作の最後に、小説へのリンクがあります。


★『…マジで消すよ? 俺の愧術がチートすぎて、クラスのヤツらを一方的に縛ったり消したりします!』


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女の子を緊縛して奴隷にする、嫌なヤツを消す、お金を出す…これ全て、異世界最強の、愧術…!



★『チートゴーレムに引きこもった俺は、急に美少女たちから懐かれはじめました。キスしながら一緒に風呂やベッドに入るって聞かないんです!』


https://ncode.syosetu.com/n0930eq/


引きこもれば引きこもるほど、チヤホヤされる…チートゴーレムのお話!

「アンノウン、俺は幾度となく言ってきたはずだ、ふしだらな行為は慎めと……! お前の行為は、度を越えてしまった……! もう許さんぞ……!」



 マニーはいつになく怒っていた。目の色が明らかにいつもと違う。

 静電気を受けたように髪は逆立ち、肩は興奮で荒い息とともに上下している。


 頭にはすっかり血が上っていて、額には稲妻の形をした青筋。

 煮えたぎる溶岩に落雷が落ちているかのような、世にも恐ろしい形相だったんだ……!


 こんなに怒っているマニーを見るのは初めてだ。

 その本気度の高さを示すように、抜かれたレイピアの切っ先がじりじりと迫ってくる。



「え、えっと、これは、その……わ、訳があって……げふんげふん」



 ボクはなんと言っていいのかわからず、喉を詰まらせていると、



「ねー、マニーってさぁ、なんでそんなにアンノウンにうっさいわけー? マジウザいんですけどぉー?」



 背後にいたキャルルが立ち上がった。

 ボクをかばうように前に出て、マニーと対峙する。



「マニーだって、しょっちゅうクラスの子とキスしてたじゃん。いまでもたまにウサギっちにキスしたりしてるし。なのになんでアンノウンのキスにはそんな厳しいの? ふしだらふしだら言ってっけどさー、マニーのほうがよっぽどふしだらじゃん」



「全然違う! 俺のキスはスキンシップのようなもの……挨拶と同じだ! だがアンノウンのキスはなんというか……そう、淫靡なのだ!」



「なにが淫靡だよ! そんなこと言ってっから陰で男の腐ったのなんて言われんだよ! このオカマ野郎!」



「このっ……! 言わせておけば……!」



 そしてボクは、さらなる衝撃を目にする。



 ……パシィィィーーーンッ!



 マニーがキャルルの頬を、平手で打ったんだ……!

 ぶたれて横にふれていたキャルルの顔が、ゆっくりと向き直る。



「テメェ……やりやがったな……! お姉ちゃんにだって、ぶたれたことないのに……! しかもパーでだなんて……! こんの激マジオカマ野郎ぉぉぉぉーーーーっ!!」



 拳を振りかぶって殴りかかるキャルル。

 数倍のお返しを受けたマニーは、キャルルともつれ合うようにして倒れた。


 ステージ上はパニックに包まれる。

 お互い罵り合いながらマウントを取り合うふたりと、それを慌てて止めようとする観客で大騒ぎになってしまった。


 ……ボクも止めようと思ったんだけど、身体が動かなかった。


 怖いとか、そういうんじゃない……。

 確かな違和感を、『エレファント』のスキルが捉えていたからだ。



 ……かさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさ……。



 最初、厨房にいる黒い虫が這い回っている音だと思った。



 ……かさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさ……。



 しかし、なんか変だ。

 いくら姿形が不気味なヤツとはいえ、這う音までこんなに不気味だろうか。



 ……かさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさ……。



 なんというか、その……心の中にある根源的な嫌悪感というか、遺伝子に刻み込まれた恐怖をくすぐられているような感じ……。


 ボクは喧噪の中、音の発生源を辿った。


 振り向くと、そこには……対局が始まってから少しも変わらぬ姿勢で佇む、ゴールドの姿があった。


 ボクは気づく。

 ヤツの唇がスズムシの羽根のように、僅かに左右に震えていることに……!


 『イーグル』のスキルを発動していなければ……キャルルとキスしてMP(マジック・ポイント)を補充していなければ……気づかなかったほどに、ほんのかすかに……!



 ……かさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさ……!



 乾いた唇のシワどうしがこすり合わされ、たしかにおぞましい音がしていたんだ……!


 ヤツを食い入るように見ていると、ステータスウインドウが開く。

 そしてボクは、さらなる衝撃に打ちのめされる。



 職業:塔賊(カジノのオーナーとして偽装中)



 塔賊……!?

 ゴールドは、塔賊だったのか……!


 そしてボクは、とめどなく湧き上がる不穏さが、ヤツの仕業であることを突き止めた。


 これは一種の『マインド・コントロール』……!

 でも、サイキックのダークサイドスキルとは違うタイプのやつだ。


 たぶん、塔賊のスキルのひとつなんだろう。


 ためしにボクは『ダークチョーカー』を使ってゴールドの唇を止めてみた。



 ……かさっ……!



 連動するように、例の音もやんだ。

 そしてボクの心の中を覆っていた覚束ないカンジも、モヤが晴れるように消えていく。


 ……やっぱり……!

 アイツはああやって、人心を操っていたんだ……!


 でも、わかったぞ……!

 マニーがあんなに怒っていた理由が……!


 ボクのキスに、彼女はもともと不快感を感じてはいたんだろうけど……ゴールドのマインドコントロールによって不安感をあおられ、激怒するまでに至ったんだ……!


 それに、ボクがゴールドと対局したばかりの頃、気が抜けていた理由もわかった……!

 ヤツは対局開始時にもあの技を使って、ボクの気勢を削いでいたんだ……!


 なんてヤツだ……!

 マインドコントロールまで勝負に持ち出すなんて……!


 でも、正体がわかった以上、怖くはないぞ……!

 こうやってダークチョーカーで口を封じていればいいんだから……!


 ボクの見えない力によって唇をつままれ、ゴールドはキツネにつままれたみたいな表情を浮かべている。


 こっちはコレでなんとかなるとして……問題は、アッチのほうだ……。


 ボクはゴールドに背を向け、煙幕の中で戦っているようなキャルルとマニーのほうに視線を移す。

 あのふたりが本気でケンカをすると、大人でも止められないようだ。


 仲裁しようとして巻き込まれたのか、ボロボロになったウサギが這い出てきた。



『ふたりをとめてぇ……!』



 ボクにスケッチブックを向けたあと、力尽きたようにがっくりと動かなくなる。


 仲間ひとりの精魂を持ってしても止められず、さらに激しさを増すマニーとキャルルの掴み合い。


 ……まだゴールドのマインドコントロールの影響が続いているようだ。

 でも手段を選ばなければ、ふたりを止めるのはそれほど難しくない。


 ボクも『マインドコントロール』を習得して、それで正気に戻せばいいんだから。

 しかし……『マインドコントロール』はダークサイドのスキルのなかでも、いちばん後ろめたいスキル……。


 『ダークチョーカー』と『エナジードレイン』は使いようによって善にも悪にもなる。

 だけど『マインドコントロール』は人の心を操るスキル。


 誰かを好きにさせたり、誰かと誰かをケンカさせたりもできる。

 本人の意思とは無関係な感情を植え付けて、無理やり心変わりさせるんだ。


 敵だったらまだしも、仲間にそれを使うのは……どうにも気が引ける……。


 でも実を言うと、他の方法もないわけじゃないんだ。

 そっちは上手くいくかわからないうえに、やり終えた後がどうなるのか、ぜんぜんわからない……。


 でも、マインドコントロールを使わないとなると、それしかなさそうなんだよね……。


 しかし、そうも言ってられない。

 悩んでいるこの間にも、ふたりは傷つけ合っているんだ。


 まさかケルパー勝負に来て、対局で悩むのとは比較にならないほど思い切らなきゃいけないだなんて……想像もしなかったけど、やるしかないっ!


 ボクは背水の陣の一手を打つような覚悟で、自分を奮い立たせる。


 よぉし、いくぞ……!

 待っててね、キャルル……! そして、マニーっ!


 ボクはモンスターに立ち向かうような気持ちで、床を蹴った。


 黄色い怒声が飛び交う中、戦場を駆け抜けるように姿勢を低くして突っ込む。

 ナワバリ争いをする野良猫のように、絶え間なく上になり下になる女の子たちを、まとめてガッとハグする。


 そしてふたりまとめて抱き起こしたあと、肩をつかんで引き剥がす。

 誰がやっても決して離れなかったふたりは、マジックテープのようにバリッと剥がれた。


 筋力が高くてよかったことを、これほどまでに実感したことはない。

 でも、その筋力をこんなことに使うのは、気が引けるけど……しょうがないっ!


 突然の乱入者に、目と口をあんぐりと開いている女の子たち。

 そのひとりに、すかさず襲いかかる。


 精悍さと秀麗さを兼ね備えた、クラスメイトいちの美貌の持ち主……。

 その唇を、ボクは奪った。

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