103 とっておきの秘策
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引きこもれば引きこもるほど、チヤホヤされる…チートゴーレムのお話!
ボクはスキルの節約をやめた。
ゴールドが駒のすり替えというインチキをしてきた以上、それ以外の仕掛けもしているんじゃないかと思ったからだ。
駒の記憶も意味がないから、『クロスレイ』で常に透視。
『イーグル』も追加してさらに鮮明な画像を得る。
それに視覚だけじゃない。『ドルフィン』でかすかな音にも注意を配り、『エレファント』で嗅覚をも鋭敏にする。
思考と心理だけじゃない。
ボクは五感をも総動員して、チャンピオンと対峙したんだ……!
『スライハンド』の宣言の時には、ヤツより早く駒に手を伸ばしてめくった。
こうすることにより、少なくともいいように攻められるのだけは防げる。
しかし、問題なのはそれだけじゃなかった。
ヤツはなんと、裏返った『心』を動かすフリをしてすり替え、袖の中にしまったんだ……!
このケルパーでは『心』を詰ませれば勝ちになるんだけど、その際に『ハートブレイク』と相手に伝える必要がある。
ブラインドで裏返っている時にはその宣言は不要で、いきなり取ってもかまわない。
ボクはヤツの不意をついて『心』を取る作戦を考えていたんだけど……それもできなくなってしまった……!
ヤツに『心』を取り戻させる……袖に隠した『心』を盤上に戻させるためには、ひとつしか方法がない……!
それは、全駒……!
ヤツの場にある駒を、ひとつ残らず取ってしまうんだ……!
そうと決めたボクは、敵陣の殲滅作戦に入った。
「おおーっ!?」と驚きも入る。
「少年が打ち手を変えてから、また盛り返してきたぞ……!」
「そうだな、『鉄の砦』のまわりの駒に狙いを定めたようだ」
「やっぱり、あの陣形を崩すのは無理だったんだろう」
「しかし、攻め込まれているような状況で、手を無駄にしているヒマはあるのか……?」
外野はアレコレ言ってるけど、今はしょうがない。
王のいない砦を攻めたところで、兵が疲弊するだけ……!
たぶんゴールドはボクに勝利したあとに、ガラ空きの場所にあった駒と『心』をすり替え、無人の砦を攻めていたことを嘲るつもりでいるんだろう。
しかし……そうはさせない……!
兵だけに戦わせて、自分は安全な場所にいて、いいところだけ持って行く王様なんて……!
ボクがなんとしても、引きずり出してやるっ!
……バシィィィィィィーーーーーーーーンッ!!
「おおおっ!?」
「また、押し返した……!
「『手』と『足』の使い方がすさまじいな……!」
「ああ、攻めていたと思っていたら、守りに戻って敵の攻勢を崩したあと、再び攻めに戻る……!」
「いつもピンポイントに陣取って、敵全体に睨みを効かせている……!」
「しかもなにかもわからねぇ敵の駒に囲まれてるのに、全然取られねぇ……!」
「あんな大胆な位置に大駒を置くなんて、度胸あるなぁ……!」
「一度はスライハンドを外しちまったけど、もう外さなくなったってことは、やっぱりあの少年には裏返った駒がわかるのか……!?」
耳に挟んでいた観客の声が突然、水の中にいるかのようにこもった。
それまではカジノの隣にある洋裁店の、生地に針を通す音まで聴こえていたのに……。
パノラマのようだった視界が急にすぼまり、ぼんやりと紗がかかったようになった。
頭の中でひっきりなしに飛び交っていた駒たちが、墜落してバラバラと落ちる。
万能感が消え去るのも三度目だったので、ボクの身に何がおこったのかすぐにわかった。
MPが、切れたんだ……!
もちろんこうなることは予想していた。
元々節約しようって決めていたスキルを一度にたくさん使ったんだから。
そして、一応なんだけど……このMP切れの対策も、考えてはあるんだ。
とっておきのヤツなんだけど……でも……でも、いざとなると……ちょっと、勇気がいるなぁ……。
「どったのアンノウン? また元気ないよ?」
ボクの肘置きになってくれているキャルルが、ひょこっと覗き込んできた。
「ご……ごめん、キャルルっ!」
心配してくれている彼女の肩を抱き寄せ、ボクは……!
……コツン。
柔らかい感触のあと、前歯どうしがぶつかりあった。
「ん……!?」
いきなりのことに、言葉を奪われるキャルル。
それはそうだ、だって今はボクは、彼女の唇を塞いでいるんだから……!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?」
大事件を目撃したような驚愕が、ボクとキャルルのまわりで噴出した。
「つ、ついにやった……!」
「た、対局中に、ギャルとキスするなんて……!」
「しかも、前世界チャンピオンを前にしてるってのに……!」
「神をも恐れぬ所業……あの少年に、怖いものなどないのか!?」
「公衆の面前で、あんなかわいい子と……! ああっ、う、うらや……いや、なんてことを……!」
キャルルは最初は目をぱちくりさせて固まってたけど、まどろむような瞳になったあとはむしろ積極的に求めてくる。
これだけ大勢の前なのに気にする様子もない。むしろ頬を寄せるように顔を傾け、舌が絡み合うのを見せつけていた。
生唾を飲む音が聴こえてきそうなほどに、観客たちの喉が一斉に動く。
いや、確かに聞こえていた。
彼らの心臓が、早鐘のように激しく脈動する音までも……!
枯れた大地に雨が降るように、身体が潤っていくのを感じる。
ボクのMPが、メーターが振り切れるような勢いでぎゅんぎゅんと回復していく。
そう、ボクのとっておき……それは、キャルルからMPを分けてもらうこと……!
キャルルはかき揚げうどんのほうを食べていたから、MPはいまの2倍ある。
しかも自動回復もついているから、時間をあければ何度でも分けてもらうことができるはずなんだ……!
でもこれ以上やると、さっきみたいに腰砕けになっちゃうから……途中で唇を離す。
キャルルは「ふぁ……」と満足そうなため息をついたあと、ボクの肩を枕にするようにしてコテンと身体を預けてきた。
「やっと……やっとアンノウンからキスしてくれた……んふふ……嬉しい……」
嬉しさが滲む、しっとりとした言葉が熱い吐息となって耳元にかかる。
ボクは二重の意味でゾクゾクしてしまった。
思わずこっちまでとろけちゃいそうになったけど、自分を律しながら、しなだれかかっているキャルルの方を見た。
またコツンとぶつかる。
今度は前歯じゃなくて、額どうしが。
「ご……ごめんねキャルル。急にキスなんかしたりして……でもこの対局中だけ、いいかな?」
間近で見るキャルルの瞳は潤んでいて、頬はさくらんぼみたいに染まっていた。
こうしてると、なんだか風邪で熱を測ってるみたいだ。
さっきまでボクと触れあい、艶が増した唇がゆっくりと動く。
「……ヤダ」
「や、やっぱり嫌?」
「うん、ヤダ……この対局中だけなんて……。ずっとしてくんなきゃ……ヤダ……」
甘えるようなその声に、ボクの『心』に王手をかかる。
「これからもずっと、ウチに……してくれるんなら……いいよ」
「う……」
「くぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!」
陥落寸前だった『心』は、横から割り込んできた怒号にわしづかみにされてしまった。
間近にあったキャルルの顔が一気に遠ざかる。
マニーだ。マニーがキャルルの襟首をつかんでぐいと引き離したんだ。
「ま、待って、マニー! これには訳が……! うわあっ!?」
ボクは立ち上がってマニーをなだめようとしたんだけど、鋭い切っ先で遮られてしまった。
「……度重なるふしだらな行為……! 許さん……! もう許さんぞ……! いまここで、その性根を叩き直して……! いや、この場で叩き斬ってやる……!」
マニーは般若のような顔で、ボクにレイピアを突きつけていたんだ……!