101 新たなる敵
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★『…マジで消すよ? 俺の愧術がチートすぎて、クラスのヤツらを一方的に縛ったり消したりします!』
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女の子を緊縛して奴隷にする、嫌なヤツを消す、お金を出す…これ全て、異世界最強の、愧術…!
★『チートゴーレムに引きこもった俺は、急に美少女たちから懐かれはじめました。キスしながら一緒に風呂やベッドに入るって聞かないんです!』
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引きこもれば引きこもるほど、チヤホヤされる…チートゴーレムのお話!
『野菜ダシの塩たぬきうどん』は確かにおいしかった。
麺はつるつるシコシコで喉越しもよく、野菜ダシのスープとよく絡んで、この世界にはない新しい食感と味を生み出していたんだ。
MPは限界突破して、最大値の1.5倍……203まで回復した。
でも……惜しかったなぁ。
『野菜ダシの塩かき揚げうどん』を食べていれば、MP自動回復のBuff効果がついたのに……。
しかし、ボクは悩んでいるどころじゃなかった。
なにせ、このカジノじゅうにいるみんながうどんを食べ終えたあと、なぜかボクに土下座をしてきたからだ。
コック長はボクと土下座を賭けて勝負をしていたからいいんだけど、する必要のない他のコックや仲間たち、観客どこからシルバーまで床に伏していた。
この場の代表であるかのように、コック長さんがよく通る声で叫んだ。
「俺は……人生50年、料理人生40年やってきて、こんな料理に出会ったのは生まれて初めてだ……! どこまでも新しく、刺激的だけど……その芯にあるのはやさしさと、あたたかさ……! まるでべっぴんの母ちゃんから、横っ面を張り倒されたような気分になったぜ……! いままでの料理は、この『うどん』に比べたら、おままごとのようなもの……! そしてこの世界の料理人はすべて、ガキがただ遊んでいるだけに過ぎなかった……! アンノウン先生……! あなたこそがこの世界唯一にして、真の料理人……! この世界にはじめて本物の『料理』をもたらした、希望の光……! そうとも知らず、俺はなんてことをしちまったんだ……! 先生っ! いままでの無礼……どうか、どうか、許してほしい……!」
「ははーっ!」と後につづくみんな。
……ボクの持っている『料理』スキルは、この世界のものじゃなくて……『第59世界』のもの。
その世界では料理は絶対的なモノで、大量破壊兵器なんて比べ物にならないほどの威力を持っている。
冗談みたいな話だけど、料理で世界征服ができてしまうんだ。
普通だと、偉い人になればなるほど自分では料理を作らなくなり、コックとかに任せるようになるよね?
でも『第59世界』ではその逆で、偉い人ほど厨房に立ち、自らが腕を振るうんだ。
なぜならば、食べた人たちを虜にするため。
美味しい料理を食べた人は、作ってくれた人に忠誠を誓うようになるんだ。
だから『第59世界』において、権力者に必要な能力は人格や聡明さではない。
いかに珍しく驚きにあふれ、人々を唸らせる料理を作れるかがすべてなんだ。
政治や軍事、そして経済においても重要な、人心掌握という要素。
それを料理でやってのけるというわけだ。
そして人々の想像を凌駕するほどの晴らしい料理を作る人は、尊敬から崇拝の対象となっていく。
『凌理人』と呼ばれ、神様同然に崇められるようになるんだ。
その『凌理人』が成し得たような光景が……今のボクの前には広がっている。
ボクの料理の腕前はまだそこまでじゃないけど、この『第108世界』の人たちは舌が肥えてないから『うどん』くらいでもこんなになっちゃうんだろう。
ちょっと、大げさな気もするけど……まぁ、もう少ししたら正気に戻ってくれるだろう。
ボクは気にしないことにして、対局の続きをするべくステージへ戻ろうとする。
しかしコックたちが這い寄ってきて、圧政に苦しむ農民みたいにボクにすがってきたんだ。
「アンノウン様……! どうか、どうか、あの『うどん』のレシピを、我々にお授けくださいっ……!」
「いいけど、対局が終わってからね」とボクはなだめたんだけど、駄々っ子のようにイヤイヤをして離してくれない。
しょうがないので少しだけシルバーに待ってもらって、レシピを伝授する。
食べた人がこんなになっちゃうのは危険だと思ったので、少しだけ手を抜いた『ライトうどん』のレシピを。
コックたちは「ありがとうございます! ありがとうございます!」と額をゴツゴツ床にぶつけて感謝してくれた。
そして、ようやく対局台へと戻る。
するとシルバーは跪いたままボクを待っていて、まるで王様に献上するみたいに、このカジノの盾を差し出してきたんだ。
「えーっと、シルバー? まだケルパーの勝負はついてないよね?」
「いいえ……! 私の心はすでに、全駒されてしまいました……! 完敗、感服、歓声であります……! この盾は、あなた様にこそふさわしい……!」
「……そうなの? でもせっかくだから続きをやろうよ。初めてのケルパーだし、最後までやりたくって」
「ありがたき幸せ……! この不肖シルバー、喜んでアンノウン様のお相手をさせていただきます……!」
午前中にシルバーに対局を申し込んだときは、ずっと上から目線だったのに……いまでは手のひらを返したような真逆の対応。
まるで王子様の相手するじいやように、完全なる下から目線で嬉々として応じてくれた。
対局再開と知り、仲間と観客たちは土下座から立ち上がって再びステージ上に集まってくる。
みんなはすっかりボクの味方のような態度で、緊張感にあふれていたはずの空気は微塵も残っていなかった。
シルバーも明らかに本気じゃない感じがしたんだけど、やってるうちに元に戻るだろうと思い、気にせず対局を再開する。
しかし、手番を指そうとした直前、
「……待て」
木枯らしのような一言が、ステージを通り抜けていったんだ。
それは小さな声なのにハッキリと聞こえて、しかも背筋がゾクッとするほど冷たい。
和やかだった場の空気が、一気に引き締まる。
観客たちの顔はすでに青ざめていて、シルバーに至っては紙みたいに白くなっていた。
声のした方向に立っていたのは……いかにも神経質そうな、細身のおじいさんだったんだ……!
「ごっ……ごごご、ゴールド様っ……!?」
シルバーは失態を見つかった部下のようにしどろもどろ、観客は暗い海のようにざわめきはじめた。
「あ、あのお方が……このカジノのオーナ、ゴールド……!?」
「無敗で引退した、ケルパーの前世界チャンピオン……!」
「シルバーの師匠でもあり、シルバーに『石の砦』を教えた人物なんだろ……!?」
「ああ、シルバー自身、一度もゴールドには勝ったことがないらしいぜ……! 毎回、全駒されるそうだ……!」
その話から察するに、ゴールドはケルパー界においては伝説級の人物のようだ。
人生すべてをケルパーに捧げてきたのか、両側にいる用心棒に支えられていないと歩けないほどガリガリにやせ細っている。
今にも倒れそうな老木みたいなんだけど……青白い顔から飛び出たギョロ目は異様に力があって、それで睨みつけられるとなんだか寒気がした。
ゴールドは枯れ草が転がるような足取りでステージにあがってくる。
彼がまとう負のオーラに気圧され、観客たちは潮が引くように後ずさった。
そして対局テーブルの側まで来ると、余命宣告に訪れた死神のようにシルバーを見下ろす。
シルバーの顔は難病で寝たきりの人のように、すっかり生気を失っていた。
これから下される運命を、すべて受け入れるかのように……。
「フヌケめ……こんな子供相手に、裸の王で、ここまでいいようにやられるとはのう。しかもまだ勝負はついておらぬのに、媚びへつらうなど……ケルパー打ちの風上にもおけぬヤツよ……」
ゴールドの声はささやくように小さく、そしてしわがれ掠れていた。
「……去ねぃ」
そのボソリとした一言を合図として、ゴールドを支えていた用心棒のひとりがシルバーの襟首を乱暴にひっつかむと、泥棒猫のように放り捨てる。
「はうあああああっ……!?」
シルバーはステージから転落、下にあったテーブルを壊しながら床に叩きつけられてしまった。
……ガッシャァァァァァァーーーンッ!!
ゴールドは弟子の安否がまったく気にならない様子で、いつの間にかボクの対面に腰を降ろしていた。
「ここからは、ワシが相手をしよう……」
目の前にいるはずなのに、耳元でささやきかけられるような声。
ボクはぞわりとするような不気味さを覚えた。
まわりにいた女の子たちは怯えてしまい、ギュッとボクにしがみついてくる。
「ちょ、ちょっと待て! 打ち手の交代はダメだろう!?」
少し気後れしながらマニーが割り込んできた。
しかし、ボクは彼女を遮る。
「いや、いいんだマニー。このカジノの盾を賭けた勝負の続きは、このゴールドとやる……!」
「や、やめたほうがいい! アンノウンは知らないだろうが、ゴールドは強すぎて対戦する者がいなくなったから引退したんだぞっ!? 前半はシルバー相手に盛り返したとはいえ、まだこちらの状況のほうが不利だっ! 勝てるわけがないっ!」
「いいや、ボクは勝つ……! ボクはコイツに勝たなきゃいけないんだ……!」
ボクは、いままで溜め込んでいた怒りを露わにする。
……シルバーは狡猾で、フェイクを織り交ぜたりもしてきたけど、あくまで対局中の駆け引きとしてやっているだけだった。
しかしこのゴールドは、対局外から汚いことを仕掛けてきた……!
トイレで用心棒に襲わせたり、食事に薬を混ぜようとしたり……!
そんなヤツがオーナーなんだったら、きっとシルバーに勝ったところで何かに理由をつけて盾を渡さないに違いない……!
だからここで、コイツをコテンパンにのしておく必要があるんだ……!
ボクはゴールドを睨み返す。
するとヤツはシワの刻まれた口元をほんの少しだけ歪めた。
「……では、決まりだな……」
そして、対局は再開される……!