表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/152

01 ステータス:アンノウン

 この世界は、何もかもがくすんでいる。

 ボクは物心つく前からそう感じていたし、13歳になった今でもそう思っていた。


 でも……まわりにいるクラスメイトたちは、つゆほども思っていないようだ。

 いまボクら詰め込まれている、この灰色一色の聖堂にも荘厳さを感じているようで、いつもは騒がしいお喋りなヤツも大人しくしている。


 人が大勢いるのに衣擦れの音すらしない堂内に、澄んだ声が響きわたった。



「では、次の子羊さん……!」



 灰色の女神像を背にし、教壇に立つ聖堂主様の声だ。



「……アンノウン君……!」



 聖堂主様の呼びかけに続いて、ボクらのいる会衆席からどっと笑い声がおこる。



「あっはっはっは! アンノウンだって!」



「おいアンノウン! 聖堂主様がお呼びだぞ!」



「聖堂主様からもアンノウン呼ばわりされるなんて、超ウケるんですけど!」



「でもあたし、一瞬何がおかしいのか気づかなかった! もう違和感ゼロだよね!」



 まわりから冷やかされ、ボクは気まずい思いをしながら立ち上がった。



「は……はい、聖堂主様! でもボクは、アンノウンじゃありません! 安野(ヤスノ)(ウン)です!」



 訂正しつつ会衆席から出て、聖堂主様の元へと向かう。

 聖堂内の壁に溶け込むような、灰色のローブをまとう聖堂主様。


 彼女はとてもキレイなお姉さんだ。

 そんなネズミみたいな色のローブじゃなくて、真っ白いローブのほうが似合うのにな、とボクは思う。


 お姉さんはおっとりした様子で、手元の身分証とボクの顔を交互に見ている。



「あら、そうだったの……きっと女神様がお間違いになられたのね。はいこれ、身分証」



 そう言いながら手渡されたのは、飾り気のない木の板きれ。

 手のひらサイズのそれにはたしかに『アンノウン』と彫られている。



「あの……これって、修正できないんですか?」



 すると聖堂主様は、困ったように唸った。



「うぅん……この身分証は女神様が発行されているものなの。修正はできないわ」



 「ええっ……そんな……!」と口をついて出そうになったけど、これ以上何か言って彼女を困らせるのは嫌だったので、渋々ながらも黙って身分証をズボンのポケットにしまう。



「じゃあ次は、ステータスオープンね。女神様にお祈りなさい」



 聖堂主様に言われて、ボクはヒザを折って祈りのポーズをとった。


 ボクのいるこの『第108世界』では……あ、『第108世界』ってのは、ボクの想像で勝手につけた名前ね。


 この『第108世界』では13歳で成人とみなされ、聖堂で大人になるための儀式を受ける。

 会衆席にいるのは学校のクラスメイトたちで、今日みんな揃って成人の儀式を受けているんだ。


 成人の儀式ではひとりひとり名前を呼ばれ、身分証をもらったあと、『ステータスオープン』を受ける。


 『ステータスオープン』というのは、その人の能力が数値化されたものが浮かび上がるという、女神様からの魔法をかけてもらうこと。

 浮かび上がった『ステータス』には体力や力の強さ、精神力や運の強さまで書かれてあって、しかも職業まで書いてあるんだ。


 なお、書かれている職業には従わなくちゃいけない。

 『農夫』だったら農業をやらなきゃいけないし、『商人』だったら商売をやらなきゃいけないんだ。


 ボクは冒険者の職業ひとつである『魔法使い』を志望している。

 だからボクは跪いたまま、女神様に「魔法使いになりたい……魔法使いになりたい……」と何度も祈っていた。



「では……アンノウン君のステータス……オープン!」



 聖堂主様が魔法触媒である、石の護符(タリスマン)をかざすと……ボクの身体が光に包まれる。

 まばゆい光はボクの右肩に集まると、ポンッと玉みたいになって飛び出す。


 そしてパーンと砕け散ったかと思うと……ついにボクのステータスが、白日の元に晒されたんだ……!



□■□□■■□■□□□■□□■■

□□■□■□■■■■■■□■■□

□■□■□■■□□■■□□■■□

■■■□■□□■■□□■□■■■

■■■■■■■□■□■□■■■■

□■■□■■□□■■□■■□□□

■■■□□□■■■□□□■■■□

□□■□□■□□■□□■□□■■

■■■□□□■□■□□■■■■□



「えええええーーーーーーーっ!?!?」



 聖堂じゅうを、ざわめきが駆け抜ける。



「なんだよあのステータスウインドウ!?」



「何アレ何アレーーーっ!? ぐっちゃぐちゃになってる!?」



「ええっ、なにあの黒いの!? 虫みたい……超キモいんですけど!」



「おいアンノウン! お前、名前どころかステータスまでアンノウンになってどうすんだよっ!?」



 クラスメイトだけじゃない、聖堂主様までうろたえている。



「こ……こんなステータスウインドウ、見たことがありません……!」



 まるでオバケでも見るみたいに聖堂主様もドン引きしていたので、ボクは慌てた。



「お……落ち着いてください聖堂主様! これは『第38世界』にある、『シリンダー』っていう言語なんです! 『第38世界』は異星人との冷戦が続いている世界で、内容を読み取られないように暗号化された言語が発達してて……!」



 そこでボクはハッとなる。



 『第38世界』ってのは、ボクの空想の産物……。

 『シリンダー』もボクが考えた、ボクの頭の中だけにある言語なのに……。


 なぜ……なぜステータスウインドウが、ボクの空想の言語になっちゃってるんだ……!?


 背後からどわっ! と爆笑が起こる。



「あっはっはっはっはっ! あーっはっはっは! 出たよ! アンノウンの『第ナントカ世界』!」



「たしかこの世界は『第108世界』だったっけ!? ぎゃーっはっはっは!」



「おかしいのはステータスウインドウじゃねぇ! アンノウン、お前の頭だよ!」



「やだぁ、超キモいんですけどぉーーーっ!」



 ……嘲笑を浴びていたボクの身体は、いつの間にか勝手に動いていた。


 聖堂主様に背を向け、聖堂内から飛び出す。

 外に出てもなお、背後では笑い声がこだましている。


 その声が聞こえなくなるまで……ボクはどこまでもどこまでも走った。



  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 ボクは河原の土手に寝っ転がりながら、空を見上げていた。


 遥か上空には、グレーの空……じゃなくて、天井が広がっている。

 この『第108世界』には何もかもくすんだ色をしているんだけど、空も鉛みたいな天井で覆われているんだ。


 世界の中心には『太陽の塔』という巨大な塔がある。

 その名のとおり塔のてっぺん……天井との境目には、『太陽』と呼ばれる光があって、この世界を照らしているんだ。


 24時間で一回転する、ただ強いだけの光のことを、みんなは『恵みの太陽』なんて呼んで有難がっている。


 でもボクは、ちっともそうは思わない。

 だってあれは太陽なんかじゃない……。太陽はもっとスゴいもののはずなんだ。


 もっと眩しくて、あたたかくて……光を浴びているだけで元気になれるような、ものすごいエネルギーに満ちあふれている……それがホンモノの太陽のはずなんだ……!


 そのホンモノの太陽はどこにあるのかというと、ボクはあのスッキリしない色の天井の向こうにあるんじゃないかと睨んでいる。


 だからボクは、冒険者になりたいと思った。

 冒険者になって、あの太陽の塔のてっぺんまで昇りつめて……一度でいいからホンモノの太陽を見てやるんだ、って……!



「……それなのにこんな、みんなから引かれるステータスになっちゃうだなんて……」



 ボクは寝っころがったまま、宙にステータスウインドウを開く。


 ステータスウインドウは普段は消えていて、「見たい」という意識を持つと出現する。

 だから実生活では邪魔にならないんだ。


 ぼんやりと透けている、グレーのステータスウインドウは……相変わらずの市松模様。


 少し時間を置いたから、もしかしたらこの世界の言葉に直ってるんじゃないかと期待したんだけど……相変わらず、よくわからないまんまだ。


 あ……でもよく考えたら、ボクは読もうと思えば読めるんだった。

 だって、ボクが想像した言語だしね。


 いったい、何て書いてあるんだろう……?

 せっかくなので解読してみることにした。


 『第38世界』の暗号言語、『シリンダー』は □ と ■ を組み合わせて表現する言語。


 これまたボクの想像の産物である『第1世界』には 0 と 1 を組み合わせて表現する『2進数』という数字がある。

 それの言語版みたいなものといえば、わかりやすいだろうか。


 ……ってそんなボクだけの頭にしかないものを例えにしても、わかりにくいだけか。


 『シリンダー』は書かれた日付や曜日によって、文字が変化する。

 異星人にはない文化を暗号に取り入れることによって、敵である異星人から解読されにくくしてあるんだ


 ボクは小一時間かけて、ステータスウインドウをこの『第108世界』の言語に置き換えてみた。

挿絵(By みてみん)

 ……うーん、名前はやっぱり『アンノウン』かぁ。

 それに職業『リバイバー』って何だろう。初めて見た。


 ステータスのほうは……5。13歳の男子としては……低いほうだ。

 男子は『筋力』や『強靭』が高くて、女子は『器用』や『精神』が高い傾向になるらしい。


 たとえば『筋力』や『強靭』だと男子の平均は7から8、力自慢だと10を越えるヤツもいるらしい。

 女子の平均は6から7……だからボクの筋力は女子以下ということになる。


 『器用』や『精神』となると男子と女子の平均は逆転するらしいんだけど……ここでもボクの数値は5だ。


 だから……ボクのステータスは、同年代のヤツらより何もかも劣る『悪いとこ取り』といえる。

 しかも『魅力』と『運』にいたっては1かぁ……。


 『魅力』がないのはわかるよ。

 ボクはたまに空想と現実がごっちゃになって、『第ナントカ世界』なんて口走っちゃって……みんなをドン引きさせてるんだから。


 しかし『運』だけは納得いかないなぁ……。

 安野運って名前なのに、『運』が1だなんて……。


 でも……ボクという人間が、勉強でもスポーツでも、何をやってもみんなより劣っている理由がわかったよ。


 実をいうと、ちょっと期待してたんだ。

 ステータスオープンしたら、もしかしたらすごい能力を持ってるんじゃないか、って……。



「すごい……! 全ステータスが10だなんて……!? こんなすごいステータス、初めて見たわ!」



「安野くんって今まで本気を出してなかっただけで、本当はスゴい人だったのね……!」



「安野くん、今までバカにしてゴメン! もう二度とアンノウンなんか言わないよ!」



「よぉし、クラスのヒーロー、安野くんを胴上げしようぜ!」



 なんて聖堂主様も驚いてくれて、クラスのヤツらも見返してやれるかも、なんて思ってたのに……。


 はぁ……この調子じゃ、スキルもロクなのが揃ってなさそうだなぁ……魔法使い志望なのに、魔法すらなかったらどうしよう……。


 ボクはへこみつつも、次はスキルのほうを見てみた。



「え……ええっ!?」



 すると……見たこともないようなスキルが……いや、違う……!

 ボクが空想でさんざん思いを馳せてきたスキルたちが、いっぱい並んでいたんだ……!



※※※ 次回予告 ※※※


異世界のスキル、発動! クラスメイトに使ってみると…!?

□■□■スキルツリー■□■□


今回は割り振ったポイントはありません。

未使用ポイントが5あります。


括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。


●彩魔法

 灰

  (0) LV1  … フリントストーン

  (0) LV2  … プラシーボ

  (0) LV3  … ウイッシュ


●サイキック

 ニュートラル

  (0) LV1  … テレキネシス

  (0) LV2  … クロスレイ

  (0) LV3  … テレパシー


●潜在能力

 必殺技

  (0) LV1  … 波動弾

  (0) LV2  … 烈蹴斬

  (0) LV3  … 龍昇撃


●錬金術

 風錬

  (0) LV1  … 抽出

  (0) LV2  … 風薬

  (0) LV3  … 旋風

 火錬

  (0) LV1  … 変形

  (0) LV2  … 火薬

  (0) LV3  … 噴火

 地錬

  (0) LV1  … 隆起

  (0) LV2  … 地薬

  (0) LV3  … 地震

 水錬

  (0) LV1  … 陥没

  (0) LV2  … 水薬

  (0) LV3  … 奔流

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★新作小説
『駄犬』と呼ばれパーティも職場も追放されたオッサン、『金狼』となって勇者一族に牙を剥く!!
追放されたオッサンが、冒険者として、商売人として、勇者一族を見返す話です!


★クリックして、この小説を応援していただけると助かります!
小説家になろう 勝手にランキング
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=369162275&s script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ