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五夜目

 お化けの女の子は、夜毎にさまようことに少し疲れていました。自分で出向くより、おびき寄せたほうがいいわ、と思いました。

 そこであなたに電話をかけました。


「ねえ、こっちに遊びに来ない?」


 あなたが遊びに来てくれたので、女の子はあなたに、聞きました。


「ねえ、私のすがたが見える?」



「あー電波悪い! ごめん! 全然聞こえない!」


 いつかやると思ってた二人称。今やるか。

 さすがに切ってやろうかと思ったけど、切れない。焦って、初、メリーさんの話を遮ってみた。けど、ぜんっぜん話を止める気配がない。両手で掴んだ画面に映って、背後から何かが近づいて来るのが見える。見なきゃ良かった。


 肩に手が置かれた。恐る恐る振り向いた。


「鹿島!?」


 そこにいたのは平然と立っている同級生だった。


「何を騒いでるの?」

「お前こそ何してたんだ?」

「調べてたよ。色々と。ここ繋がる? 私、圏外だけど」


 はっとして見れば、通話はいつのまにか切れていた。圏外になっている。

 どこにいた? こんな遅くまで? 気になることはあった。しかし、今はそれどころではないので、細かいことは流した。


「人がいてよかった!」


 ともかく、帰りが遅くなりすぎた。お互いの家に連絡をしたくとも電話が繋がらない。一刻も早く帰ろうということになった。


「トイレ寄っていい?」


 このひと正気かな。

 明かりもつかないトイレの中に入っていった鹿島を待っていた。早く帰りたかった。しばらくして、ようやく外に出てきたと思えば、この場から動こうとしない。


「落し物したみたいだから、一緒に探してくれない?」

「明るくなってから、また来ない?」

「駄目。そんなこと言って、明日になったら面倒がって来ない気でしょ?」


 なんで、そんな決めつけられるのかわからない。ゴネても喧嘩になりそうなので、しかたなく手伝うことにした。こんな状況で、もめて別行動やら、時間が長引くのは嫌だった。


「いったい、何を探せばいいんだ?」


「土の中かもしれない。壁の中かもしれない」


「いや、落としたんだよね? なんで埋まってる設定なんだよ」


 言いながら、トイレの壁を蹴ると、相当にもろくなっていたのか、たいした力もかけていないのに、あっさりと崩れた。


 そして、どう見ても人骨と思えるものが出てきた。二度見した。


「おい! ちょっとこれ」


 それを見た途端、場にそぐわない、明るい声で鹿島が話しかけてきた。


「夏って外に出るだけで、気持ちが弾むわよね。夏祭り、夏休み、どこに行っても楽しいことばかり。海でしょ。花火でしょ。遊園地なんて最たるものじゃない? カップルやら親子連れやら、だからこそ、余計に惨めになる。そこに混ざれない異物となってしまったら」


「リア充しねという話? 今それどころじゃ・・・・・・」


「私の話じゃないの。遊園地で働いていたおばあさんのおはなし」


「は?」


「おばあさんは清掃員、おじいさんは警備員。トイレの前にピンクのベビーカー。おばあさん、ちょっと頭がおかしかった」


 鹿島の顔を見ると、黒目が妙に大きく見えた。それぐらいしか違和感がないといえばない。ふと思いついて、尋ねてみる。


「お話に出てきた登場人物の数、正解って何人?」

「何人でも」

「何人でも?」

「だって殺人犯が何人殺したのかわからないもの。何人でもいいの。少なくては駄目だけど」


 いい加減なことを言いながら、口の端を上げて笑っている。

 わからないってことでいいのか・・・・・・


「息子夫婦と孫を亡くしたおばあさん。心を病んでいたけど、気の毒に思った親戚の資産家が、自身の経営する遊園地で働かせてあげていたの。明るく楽しげな場所で過ごしていれば、心身の健康にもよいだろうと。でも、頭のいかれたおばあさん。孫と似た年の子供をしょっちゅう連れ去っていた。そのたびに資産家は頭を下げて、時にはお金で解決して、全てもみ消していたのよ。最後に、簡単にはもみ消せないような事件が起きてしまったけどね」


「その事件ってなんだよ。まさか、これが被害者だって言うのか? それをわざわざ見つけさせたのか?」


「ふふっ」


 なぜか笑う。


「夏だから。遊んでみたくなっただけ」


 目を覚ますと、廃遊園地にいた。混乱しかない。着信履歴を見ると、2:22に電話があったことは確かだ。

 夢だったのかもしれない。色々と起こりすぎて、さすがにそうかもしれないと考えた。つじつまを合わせるなら、メリーさんからの電話までが現実で、そのあとが夢かもしれないと思った。メリーさんの電話のあとはいつも気を失ってしまうから。

 メリーさんの存在自体、現実と認めていいものか怪しいものだけど。鹿島がここにいないから、よくわからなかった。すっきりしないまま、朝日の中、家に帰る。

 見つけてしまったものについて、警察に連絡するべきかと迷ったが、誰かに相談してからにすることにした。


 個人的に一番怖いというか、気になっていることは、たぶんメリーさんの最後の話のどこにも、メリーさんが登場していないことだ。

 怪談のセオリーに従って、無念を晴らしたくて化けて出たのなら、亡骸を発見してもらいたくて、俺に協力させたのなら、きっと今頃は、成仏してくれていることだろう。もう安眠妨害の迷惑電話がかかってくる心配はない。

 しかし、彼女は言っていた「私の話じゃないの」「夏だから。遊んでみたくなっただけ」結局、何だったのか、そのことが気にかかっている。


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