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五日目

「メリーさんが浮気するなんて……」


 見せられた携帯の3:33の着信履歴を見る。非通知だ。


「え? メリーさんとそういう関係だったの?」


 鹿島がとまどっている。


「いや、冗談だけど」


 けど、やっとなついた猫が、他の人のところに、あっさり行ったような気持ちだ。


「正直なとこ、今まで嘘だと思ってた。嘘ついているつもりがないとしても、誰かに騙されているとか、寝ぼけているとか、そんなところだと思ってた。普通の人ならありえないような勘違いも、佐々木ならありえると思ってた。本当に時々、話が通じないくらい、発想がおかしいから」


 嘘だと思われていたことより、色々といらないことを言われたのが酷い。傷つく。


「なんで鹿島のとこ行ったんだ?」

「こっちが聞きたいよ」


 考えてもわからないので、黙っていると、鹿島が言いづらそうに口を開いた。


「これってさ、怪談によくある、感染するやつじゃないの?」

「どういう意味だ?」

「この話を聞いた人のところに現れる。怪談と同じ目に会う。そういう類のもの。今回の場合は、メリーさんの話を、他の人に教えても何も変わらなかったけど、メリーさんに、他の人の話をすると、その人のところにやってくる」


 な……なるほどー。メリーさんがお礼言ってたのって、そういうわけかあ。


「別にメリーさんに鹿島の番号、教えてないけど」

「相手はそういうの関係ないんじゃないの。お化けだし」


 そういうものだろうか。


「じゃあ俺のとこにメリーさんが来たのも、誰かがメリーさんに俺のことを話したからってこと?」


「お~。佐々木にしては頭がいいなあ。そうかもしれない。誰かに恨まれる覚えは?」


 確かに嫌がらせに使うなら、効果は抜群だ。


「まあ、人に恨みを買いそうではないけど……悪いやつじゃないもんね。むしろいいやつだよね」


 褒められてほっとする。さっきから酷いことばかり言われて、嫌われているのかと思っていたところにこれだから癒される。


「でも、相手をすっごく怒らせているのに鈍感すぎて気づいていないってことはあるかもしれないね」


 また言われた。傷がうずく。


 

 放課後に、鹿島と海近くまで歩いて行った。


「メリーさんのこと調べてみようか。これから受験も始まるし、夜更かしは美容によくないから」


 そう鹿島が言ったからだ。

 そっちこそ、なんでそんな発想になるんだ。手がかりもないのに、と聞いたら、手がかりはある、と言われた。


「花火」

「ビーチバレー」

「レモンカキ氷」

「りー……涼風」

「うきわ」

「わたぐも」

「もも」

「ももアイス」

「スイカ」

「カキ氷」

「さっきから汚くないか?」

「夏の言葉って、楽しいものばっかりだねー」


 アスファルトからの熱気に、溢れる汗が止まらない。セミが鳴いている。

 鹿島は右手にうちわ、左手にアイスで、鞄はなんとか肩に引っ掛けている。歩きがてら、夏縛りでしりとりをしていた。


「ほんとにぼんやりしてるなあ。知らないなんて。遊園地あったんだよ」

 

 鹿島が言うには、メリーさんの話に何回も遊園地が出てくるのだから、何か意味があるだろうということだ。とはいえ、この近くに遊園地なんかない、と言い返したが、俺が知らないだけだったらしい。


「もう二十年以上前に廃園になってるけどね。当時のお金持ちが、海近くの土地買って作った小さな遊園地だよ」

「メリーさんは広いテーマパークみたいに言ってたけどなあ」

「それは、なんでか、わかんないけど」

「見栄はったのかなあ。自分の家だから」

「……家なの?」

「住んでるって言ってたよ」


 二日目に、遊園地の話を聞かされたときに。正確にはさまよっている、だったかな。どっちでもいいか。


「ここだよ」


 辿り着いた場所にはほとんど何も残っていなかった。錆びて、鍵もついていない鉄柵の奥は、廃墟という趣もなかった。小高い山を丸ごと遊園地にしたものだったらしく、アスファルトで舗装されていない地面に草が生い茂っていた。


「私有地だよな?」

「立ち入り禁止の看板あるね」


 幸い、人の気配はあたりになかった。それでも入るのに勇気がいった。廃遊園地というよりは、ジャングルに入るという雰囲気だった。


 草を掻き分ける俺の後ろを、鹿島がついてきた。しりとりは辛くなってきたので、古今東西にした。あいかわらず夏縛りで。


「ひと夏の恋」

「夏祭り」

「白い壁」

「カブトムシ」

「土の下」

「花火」

「病院」

「さっきから夏と関係なくないか?」


 白い壁……さわやか? 土の下……カブトムシの幼虫? 暇つぶしに適当にやっていることだしと、褒められていいくらいの発想力で大目にみていたけど、さすがに酷いと思った。

 考え込んでいるらしく、後ろから返事がない。しばらく無言で進んだ。ようやく奥に建物や、アトラクションらしきものが見えてきた。


「それで、調べるって具体的に何を……」


 振り向くと、誰もいない。身長ほどの草があるので、視界も悪い。若干、途方にくれた。少し進めば開けた場所に出るので、そこまで進んだ。草むらから出ると、目の前に池が広がっていた。意外と綺麗な水だった。鹿島に連絡をしようと、携帯を取り出したところで、水音が気になった。池のそばに公衆トイレがあって、そこから水音が聞こえる。蛇口の水が出しっぱなしになっているような音だった。鹿島がいるのか、もしくは他の人なのか。後者なら会いたくはない。不法侵入を咎められる。

 考えあぐねて、電話をかけることにした。


「はい」


 鹿島はすぐに出た。


「どこにいるんだ?」


 電話ごしに水音が聞こえた。


「そこのトイレにいるのか?……子供?」


 子供の泣き声や、叫び声が聞こえた。尋常じゃない様子だったので、トイレに走った。


「おい!」


 しかし、誰もいなかった。




 トイレの入口で目を覚ました。あたりは真っ暗だった。混乱しかない。気を失っていたのか。手に持ったままの携帯画面を見れば、時間は2:22だった。着信音が鳴った。


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