四夜目
とある潰れた遊園地での話。観覧車に乗っていると、殺人事件を目撃してしまった。
殺人犯と目撃者の目が合うと、殺人犯は目撃者を指差した。目撃者は慌てて逃げようとしたが、扉が開かず出ることができない。そうこうしているうちに、殺人犯は目撃者のところまで辿り着き、口封じに目撃者を殺してしまった。そのあと、殺人犯は他にも目撃者がいないかと、遊園地内を探し回った。
さて、わたしがこれまでに話したお話の、登場人物は全部で何人?
「おしまい」
「それ聞いたことあるような、ないような……いや、怖いね」
怖がらせる気が、もはや感じられない。クイズになっちゃった。こういう場合も『怖い』って言えばいいのか、わからないけど、言ってみた……が、通話が切れる気配がない。耳をすませば、かすかな雑音が聞こえる。
アレー? 鹿島の嘘つきめ。今回は、クイズだったし、答えないと駄目なのか? えーっと……あてずっぽうじゃ駄目だろうか……面倒だったが、記憶をたよりに、なんとか数えた。
「九人」
「ほかには?」
「十人?」
「ほかには?」
駄目だ。わからないし、とりあえず怖い話を聞かせてみようか。せっかくだから、昼間に聞いた話をしてみよう。
「友達の鹿島っていうやつの話だけど……」
登場人物が多い場合、固有名詞を使わないと、話がわかりにくくなる。Kが……とか使って話せば、怪談ぽくなりそうだなとは思ったが、メリーさん相手に匿名性に気を使っても、自己満足でしかない。そのまま鹿島の名前を出した。
鹿島が小学生だったころ、夏休みに家族で遊園地に出掛けたそうだ。その遊園地のアトラクションで、お城の地下を探検するというものがあった。
「可愛いお子様をさらわれないようにご注意してください!」
「誰か、力を貸していただけますか!」
二十名くらいの団体ごとに、アトラクション内部を徒歩で移動する。案内するスタッフがストーリーを盛り上げる。
鹿島は可愛いと言われ、ご機嫌だったらしいが、スタッフが「赤いスカートのお嬢さん、道を外れないで」と呼びかけていたのが気になっていた。そんな服の子供はいないのに、と思いながら、薄暗いし見間違いなのだろうと、あまり気にしなかった。
やがて、アトラクションの佳境で、スタッフが、何人かの子供を選び、出口を守る魔物を倒すというシーンになった。鹿島たち家族が立っている場所の、隣あたりに向かってスタッフが手招きをした。しかし、そこには子供はいなかった。鹿島は次の瞬間には青ざめた。何を勘違いしたのか、そこで前に進み出たのが、自分の父親だったからだ。スタッフが戸惑うなか、子供達に混じって、一人だけの大人が剣を構える。それは鹿島にとって、いまだにトラウマらしい。
「ふふっ」
……メリーさんが笑った!
「ありがとう」
――!?――
お礼まで言われた!?
鈴を転がすような笑い声だった。
通話が切れた後も、呆然としていた。
一夜明けて眠りから覚めて、床の上でまだ、驚いた気持ちを引きずっていた。
メリーさんの電話の後は、なぜか気を失うみたいに寝てしまう。床で寝るのは一日目で懲りた。通話が切れたらすぐに布団に入るように気をつけないといけない。最初から寝床に入っていればいいのかもしれないが、背後にメリーさんがいるかもしれないと思うと、それも嫌だった。窓の前といい、自分の部屋でデッドスペースが増えていく。
昨晩は、びっくりして行動停止していたら、布団に入る前に気を失ってしまった。
いい加減、夜更かしが続いてきつくなってきたが、いつも通り、学校へ行く。寝る姿勢が悪かったせいで、体のあちこちは痛いし、クーラーをつけっぱなしにしていたせいか、寒気がする。しかし、気持ちは温かい、と言ったら言いすぎだろうか。得体の知れないもの相手におかしな話だけど、ちょっと面白かった。
昨日の話は、怖いとみせかけ、笑える話だったから、反応を見ようと思って実験的に話してみた。しかし、まさか笑うとは思わなかった。お話を語る以外の会話では、録音された音声みたいに、同じセリフしか言えないのかとも疑っていた。
席に着くと、教室の隅で話し込んでいた鹿島がやってきて、神妙な顔をして言った。
「メリーさん。私のとこにも来たんだけど」




