一夜目
むかぁしむかし、あるところに、大きな遊園地がありました。
遊園地には、おじいさんと、おばあさんが、住んでいました。
おじいさんと、おばあさんには、子供がいませんでした。
おしいさんと、おばあさんは
「どうか子供を授けてください」
と、毎日毎日、神様にお祈りしていました。
ある日、いつものように、おばあさんが、川で洗濯をしていると、
大きな桃のようなものが、どんぶらこぉどんぶらこ、と流れてきます。
おばあさんは、桃を家に持ち帰りました。
おばあさんが、出刃包丁で桃を割ってみると、赤ちゃんの、泣き叫ぶ声が響きました。
おじいさんと、おばあさんは、たいそう喜んで、授かった子供を、大切に大切に、しました。
あんなにも、大切にしていたのに、ある日、子供はいなくなってしまいました。
めでたしめでたし。
「おしまい」
メリーさん? の話が終わった。
「……おしまい?」
あんまりなラストに、思わずオウム返ししてしまった。
声がかすれた。なんだか喉が渇いていた。
メリーさん? が淡々と、ゆっくりと話すのを黙って聞いていた。この通話で俺が声を出したのは、これが始めてだ。
「怖かった?」
「いや……怖くはなかった」
話の内容は。
ただ、いまだ後ろに何かがいる。それが怖い。窓越しに確認できる。直視を避けている視界の端に、蛍光灯の明かりを遮るように、ぴたりと背後に影がいる。恐ろしくて振り向けない。いっそ振り向いて確認してしまえば楽になるかとも思ったが、嫌な予感しかしなくて、とてもできない。
話を聞いてくれ、と言われたときは、てっきり身の上話でもするのかと思ったが、ただの「おはなし」だった。しかもつっこみどころが多すぎてコメントしづらい。
「……メリーさんが作った話?」
「どうして?」
「どうしてって……」
あまりに不出来だったから。とは言いづらい。
「これは都市伝説。これから流行る、怖い話のひとつ」
流行らないんじゃないかな……意味のわからない話だったし。
「都市伝説とか怪談って雰囲気じゃなかったよ。むかしむかしから始まって、めでたしめでたして終わっちゃ駄目でしょ」
話の内容は全然めでたくなかったし。
「どうして?」
「どうしてって……ほのぼのしちゃうじゃん。たとえば……」
いい例はないかと考え、即興でひとつお話を作ってあげた。
むかしむかし、あるところに一人の女の子がおりました。
女の子は病気で死んでしまいました。
女の子は世の中を恨みながら死んだので、おばけになって夜毎に街をさまよいました。
そして、夜中歩く人の後ろに立っては、呪い殺しましたとさ。
めでたしめでたし。
「あ、思ったより怖いね」
自分の口から出た話に脅えて呻く。どれほど凄惨な話でもほのぼのしてしまうよ、という例にしたかったのだが、あんまりほのぼのしなかった。おばけが後ろに立つというシチュエーションが、今の自分の状況と被ってるのが洒落にならない。どんなつまらない怪談でも、夜にするものじゃない。まして得体の知れないものを相手に。
携帯から返事がない。ふと気づくと窓ガラスに映っているのは、酷い表情の俺だけだった。その後ろには見慣れた部屋が見えるだけだ。
背後の何かは消えていた。
振り返り、部屋の中を確かめる。
どっと疲れてへたり込んだ。息を吐く。
自分の部屋にお化けがいないってのは、いいもんだ。
安心するのは早すぎだろうか。
暗い窓ガラスに、いないはずの何か、見えてはいけないものが映ってしまったら、という一抹の不安を感じて、カーテンを引き、窓ガラスが見えないようにした。
時計を見ると3時33分だった。思ったより時間が経っている。
ふと気づくと朝だった。カーテン越しの朝日が部屋に差し込んでいる。つけっぱなしの蛍光灯も部屋を照らしている。
ものすごく疲れているときなんか、寝たと思ったらもう朝だったってことがあるけど、そんな感じだ。寝た記憶がない。3のゾロ目を見たのが最後の記憶だ。
体がやたらと疲れていて重い。ベッドではなく、座り込んだ姿勢のまま寝ていたようだから無理もない。痛む体を伸ばしてベッドに転がった。
夢だったとは思わなかった。あまりに記憶が鮮明で、夢特有の記憶がぼやけていく感じがない。
携帯を見ると、ちゃんと履歴が残っていた。
ぐずぐずしているうちに遅刻しそうな時間になってきたので、準備をすることにした。
着替えたり、朝食を食べたりしていても、メリーさんのことはずっと頭から離れなかった。




