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オルシア帝国の動乱  作者: 北の旅人
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バルド城占拠(1)

セルス軍によるエニス地方制圧の報が入り、数日が経った頃。


帝国大元帥に任命されたハウロスは、執務室で報告を受けていた。


「何、ラティアで反乱だと?」


「はっ。兵力は1500ほどとのこと」


「指揮を執っているのは?」


「ワルド家のオーリン、ハーヴス家のギリウス、トラバ家のメネラオスにございます」


ハウロスは舌打ちした。


オーリン、ギリウス、メネラオス。彼らはそれぞれ、オスワン・ワルド、ギルム・ハーヴス、メムノン・トラバの長男である。すなわち、ギリア総督軍に所属する3人の宿将の息子たちだ。さらに、彼らはセルスの親友でもある。ハウロスとしても無論警戒はしており、監視をつけていた。だが彼らはそれを掻い潜り、一族を連れてウルヴァーンから姿を消していたのだ。


「この反乱、早々に潰さねばならぬな」


反乱軍は今は1500兵である。だがオーリンは若手の武将たちの間で人望があり、これに呼応する者が現れる危険性は大いにあった。可及的速やかに、かつ徹底的に叩き潰す必要があった。


「討伐の役目、私に任せていただけないでしょうか?」


どこから話を聞いたのか、ダブリット家のハーランという武将がハウロスの執務室を訪れた。28歳の若手武将であり、いかにも武人という精悍な顔つきをしていた。そしてまた、彼はハウロスの嫡男でもあった。


「陛下の、また父上のお役に立ちたいのです」


ハウロスとハーランの親子関係は、良好であるとは言い難かった。数年前、ハーランは父に愛し合う女との結婚の許可を求めた。しかしハウロスは難色を示した。その女の身分は低く、由緒あるダブリット家の跡継ぎの配偶者として相応しいとは思われなかったのである。ハーランは言葉を尽くして父の説得を試みたが、良くも悪くも昔気質の武人であるハウロスは首を縦には振らなかった。しびれを切らしたハーランは、父に無断で女と結婚した。ハウロスは激怒し、一時は決闘寸前にまで親子の関係は悪化した。結局、当時は存命だった第一皇子セルバドスが仲介し、形の上では和解した。だがそれ以来、親子の間には気まずい空気が流れていた。


その息子が今、父の役に立ちたいという。ハウロスにはそれが、息子からの歩み寄りと感じられた。その頑固さ故に態度には出さないが、嬉しくないわけがない。ハウロスはハーランにラティア反乱軍の鎮圧を命じ、6000の兵を預けた。幕僚として、ナリア家のボールス、モーガン家のウェイン、ロート家のガヘリス、サラミス家のアイアス、ロッシュ家のサームをつけた。皆若手の武将であり、ハーランのたっての希望に特別に計らったのである。


だが直後、新たな反乱の報がもたらされた。今度はランテル家の小シーワード、ペリノア家のライアンを首謀者とする1000兵の反乱である。こちらに対しては、フォロール家のユージーンを指揮官とし、リメル家のペレウス、ペルセウスの兄弟、ヨスア家のミレウスを幕僚とした4000の討伐軍を送った。いずれも4倍の兵力を派遣しており、反乱鎮圧はすぐに終わると思われた。


だが事態は思わぬ展開を見せた。


「何、バルド城が占領されただと…?」


報告に、ハウロスの思考は停止した。


同じ頃、サーリアも宰相ガインから報告を受けていた。


「バルド城が占拠された…?」


バルド城はオルシア、カラニア、エニスの国境に位置する城である。オルシアと他の中原諸国を隔てる大山脈の切れ目に築かれたバルド城は、長くカラニア、エニスの侵攻から防壁としてオルシアを守ってきた。また、セリオン帝の時代には中原諸国征服の拠点として使用された。現在においては破竹の勢いで迫るセルス軍に対する防衛の要であり、バルド城で敵を食い止めつつ援軍の到来を待つというのがサイアン派陣営の基本戦略であった。既にエニスやカラニアの軍勢の一部はバルド城を通過してオルシア本国内にいるが、ソランディア総督軍は未だ出発すらしていなかった。


その重要極まりないバルド城が奪われたという。だが、誰に?


「暴挙に出たのは、若手の武将たちにございます」


ガインは書類を差し出した。そこには、バルド城占拠に加わった者たちの名が現在わかっている範囲で書かれていた。


「ワルド家のオーリン、ハーヴス家のギリウス、トラバ家のメネラオス、ランテル家の小シーワード…」


書かれた名は15人。オルシア譜代の家臣も多く含まれていた。しかし多くの者は、反乱に加わったのがむしろ当然と言えた。何故なら、彼らはセルス軍諸将の親族であったのだから。それどころか、オーリンやギリウスは先に反乱を起こした者たちだった。


しかし、名簿にあったのは反乱軍首脳の名だけではなかった。


「ダブリット家のハーラン、フォロール家のユージーン?彼らは反乱軍を討伐しにいったのではないのか?」


バルド城を占拠した者たちの中には、オーリンらの反乱を鎮圧するために向かった者たちも含まれていた。それも、全員が参加したようだ。


特に予想外だったのは、ナリア家のボールスとダブリット家のハーランである。ボールスはエニアン陥落時に戦死したボルドフの嫡男であり、父の仇であるセルスに与することはないと思われていた。ハーランもまた、妻に関してハウロスと対立していることは知っていたが、まさか寝返るほどとは思わなかった。


(ハウロスの次くらいには信頼できると思っていたのだがな)


ボールスは30歳、ハーランは28歳とともに若い将である。ゼフィリスやアランよりは年長であり、戦場経験も比較的多い。パルケスやレニードら宿将たちより経験こそ少ないが、忠誠心を期待できる要素は大いにあった。能力、忠誠心のどちらかに不安のある者が大半のサイアン陣営において、そこそことはいえ信頼のおける貴重な存在だった。


それが今、2人とも寝返った。信頼していた者すら裏切るとなれば、他の者はどうか。


サーリアの心には、臣下に対する猜疑心が頭をもたげ始めていた。

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