気になるあの娘は手裏剣マニア
「タケル、いよいよ完成したぞ。我々の悲願のアイテムが」
「じいちゃん、何? 今、忙しいんだけど。」
「何で?」
「見てわからない? 勉強だよ。来年は高校受験だし、そろそろがんばらないとね。」
「そんなことはどうでもいい。とにかくこれを見てくれ。」
「そんなことって、孫の人生においては一大事だろうに・・・。何、コレ?」
「よくぞ聞いてくれた。」
「そんなに胸を張らなくてもいいよ。後ろに倒れそうじゃん。そりすぎだって!」
「連続手裏剣発射機、『狙い撃ち君』」
「って何? 何で急に名前を宣言!」
「これはな、この上のボックス内に手裏剣を30枚格納できて、」
「ごめん。じいちゃん。勝手に説明をしはじめないで。」
「すまんすまん。ついテンションが。こんなにテンションが上がるのは、小学校の時、隣に住んでいた未亡人の湯あみ姿を覗いた時以来なんだもん。」
「なんだもんって・・・、おい。そしてこれまでの人生で一番テンションが上がったのが、子供の頃の覗きなのか?」
「まあ、そうですね。ぶっちゃけ。」
「だからちょいちょいと、若者言葉を使わないように。逆にさむいから。おじいちゃん、今の年齢は?」
「72歳・・・。」
「そうだね。で、これは何の機械なの?」
「手裏剣を連続で発射する機械。」
「それはさっきの名前のくだりでわかったよ。俺が聞きたいのは、何でこんなものを作ったのってこと。」
「こんなものとはどういうことだ?」
「だって実生活で役に立たないでしょ。・・・普通、一般人は手裏剣を投げないんだから。」
「これがあれば、今まで歴史の影に隠れるしかなかった我が一族、が日の当たる部分に出てくることが可能になるかもしれないじゃないか。」
「またその話?」
「お前がその使命に目覚めるまでは、何度でもこの話を繰り返すぞ。」
「何度繰り返されても、そんなヘンテコ使命には目覚められません。勉強も忙しいのでそろそろ自分の部屋に戻ってもらえない?」
「お前は・・・、老い先短い老人であり、何より実の祖父をそんな邪険に扱うのか?」
「おじいちゃんは絶対に長生きするよ。うちの父さんよりも、・・・ひょっとしたら俺よりも。」
「当たり前だ。お前らがそんなだったら、こっちは死んでも死にきれん。」
「大体、変な健康食品を摂取しすぎだよ。通販番組を見るたびに新しいアイテムを試してるでしょ?」
「だって1ヶ月分、無料でもらえるんだぞ!」
「商品代は無料でも別に運賃とかはかかるわけでしょ、それに個人情報が漏れる可能性もあるし。」
「むぅ。口ばっかり達者になりおって。」
「大体、この機械、大きくない?」
「色々なギミックを組み込むとどうしてもこの大きさになるな。」
「1m×1.5mくらいあるじゃん。持って運べないでしょ? ちなみに重さは?」
「30㎏。」
「絶対に運べないって。となると、これを持って戦うこともできないでしょ?」
「そう言われると思ったので、下にタイヤを付けてある。」
「何で自慢げ? もはや問題がずれてるから!」
「まあ試作1号機だからな。ここから改良していこう。」
「まあおじいちゃんが自分の年金でやってることだから、邪魔はしないけど。」
「それが・・・年金だけでは足りなくなったので、金融会社からいくらか・・・つまんで。」
「お金、借りてるの?」
「そう・・・。」
「明細を見せて。」
「はい・・・。」
「うわっ! 何、この金額。あとこの会社は闇金ギリギリのところじゃん。」
「闇金なんてとんでもない。とっても対応のいい会社だったぞ。受付の女の子も綺麗だったし。失礼なことを言うな!」
「そりゃあカモに対しては最初は優しくするんだよ。相手もプロなんだから。」
「すぐに全額は返せないっていったら、とりあえず利子の分だけ先に入れるだけで良いって言ってくれたし。」
「馬鹿! それじゃ一生、利子を払わなきゃいけなくなるでしょうに。」
「あ・・・、本当だ。お前、頭いいな。」
「最悪だ・・・。父さんに相談しようよ。」
「それは勘弁してくれ。あいつはうちの一族の伝統を心底嫌っているし。」
「どっかのニンジャだったってやつでしょ? 聞いてるよ。子供の頃からおじいちゃんに強制的に忍術の修行をさせられて、何度か死にかけたって。」
「それはお前の父親に才能がなかったから・・・。」
「違うでしょ。おじいちゃんが漫画で読んだ忍術を、色々と習得させようとしたってのは聞いてるんだけど。」
「そのくらいできないと、今どきインパクトがないだろう? 昔ながらの『水蜘蛛の術』とかやってもなぁ。」
「今どき、ニンジャっていう存在自体がおかしいんだよ! じゃあ聞くけど、その父さんに練習させた忍術でおじいちゃんがマスターしているのはあるの?」
「ないよ。」
「サラッと否定しやがったな!」
「その当時、おじいちゃんはすでにだいぶ年を取ってたからな。新しい技術の習得にはあまり興味が持てなかったんだよ。」
「それで父さんを実験台にしたんだね?」
「若いころのほうが何事においても柔軟性があるしな。」
「ちなみにどんな忍術を。」
「人毛を鋼のように固くするとかな。」
「無理だよ! それは忍術じゃなくって超能力の部類でしょ!」
「ワシの尊敬する、」
「山田風太郎先生でしょ! その忍術については『バジリスク』で読んだよ。」
「何だその横文字は!」
「甲賀忍法帳を元にした漫画だよ。」
「そんなものがあったのか・・・、後で探しにいかねば。」
「僕の部屋に全巻揃ってるから、後で持っていきなよ。」
「タケル・・・、あの作品はその、」
「何よ?」
「結構、煽情的というか、今風に言えばエロチックというか、」
「エロチックって言い回しは古いよ!」
「まあそういう濡れ場があるが、そこもきちんと再現されているのか?」
「そこ? 興味があるのはそこなの? 忍術じゃないの?」
「勿論、一番興味があるのは各人物の忍術がきちんと描かれているかだが、その次にはやはりお色気の部分だな。」
「あるよ。大丈夫。結構あるよ。」
「そうか。それは楽しみだ。」
「ちなみにアニメにもなったよ。」
「後で一緒にツタヤに行こう。」
「付き合うけどさ。・・・それで父さんはその過酷な忍術修行が嫌になったんでしょ?」
「あいつが17歳のときか・・・、かなりの大喧嘩になってな。」
「その忍術を巡って?」
「あいつも忍術修行を嫌々やってた割になかなか学べていたとみて、倒すのに苦労した。」
「おじいちゃんが勝ったんだ・・・。」
「その後にこう言ってやった。」
「何て?」
「儂にも勝てぬくらいなら忍術なんてやめてしまえと。」
「渡りに船じゃん・・・。やめるでしょ。」
「あいつは修行を即やめた。」
「そりゃあそうでしょ。続ける意味ないもの。」
「親心というのは子供のほうからは理解してもらえないものだな・・・。」
「親の優しさっていうかエゴの押し付けに感じるけど。」
「その後あいつは普通に、学生生活を送り、商社に就職した。」
「おかげで僕らは生活できてるんだし。」
「あそこで忍術をやめてなければな・・・。」
「どうなってたの?」
「今頃は日本かぶれの外国人をたくさん生徒にしてウハウハしていただろうに。」
「現実は厳しいね。それより早く借金を返しにいかなきゃ。」
「待て待て。とりあえずこの連続手裏剣発射機、『狙い撃ち君』の威力を見てくれ。」
「だからさ、この機械はデカすぎるよ。手裏剣のいいところは携帯性に優れているところでしょ?」
「その通りだ。ただ普通の手裏剣は、連射はできないだろ?」
「そんな勝ち誇られても・・・。確か30発を連射出来るって話だよね?」
「そう。わずか5秒で30発を発射する。」
「・・・・・5秒って結構遅くない?」
「いやいや。現在流通している連続手裏剣発射機は5秒で10発しか打てないぞ!」
「普通に流通しているの? 連続手裏剣発射機」
「まあ銃刀法違反だがな。」
「多分ね!」
「手裏剣マニアの家に遊びにいくと、そこには大体あるんだがな。」
「手裏剣マニアってどのくらいいるの?」
「この町内だと儂以外に3人かな。」
「意外といるね。」
「お前のクラスメートの女の子もいるぞ。」
「そうなの? 誰?」
「林さん家の娘、わかるか?」
「バスケ部の子? ショートカットの?」
「そうそう。あの子も手裏剣愛好家だ。」
「・・・意外にいるもんだね。」
「お前も少しは興味を持ってくれたか。こんなに嬉しいことはない。」
「いや。手裏剣には全然。むしろ興味失せた。林さんの娘には興味あるけど。」
「お前たち親子は本当に!」