氷の刃
【 0 】
そこには何もない空虚な闇が広がっている。
自分の姿さえ見えない。
そもそも自分はどんな形をしていたのだろうか、とまで思えてくる。
人間の形?獣の形?
もしくは闇に意識だけが浮かんでいるのか。
暗闇に感情だけが浮いているのか。
分離した感触。
混沌とした感情。
自分でも理由の分からない浮遊感。
暗闇。
どこまでも果てしなく、それは続いていく。
光の一切差さない、この空間が。
【 1 】
人前ではいつも皮を被って生きてきた。
仕事場でも、友達の前でも。
いつも彼らとの間には薄い皮が存在し、円滑に、事を荒立てることなく生活してきた。
彼らは僕の本当の姿に気付いてはいない。
『獣』とか『人間』なんて形に表すことのできない『闇』が、僕の正体だ。
果てのない、完全な暗闇で、僕は覆い尽くされている。
星も塵も何もかもがその世界からは排除される。
感情でさえ、僕には無用だった。
憎いとか、辛いとか、そんな感情はいつの間にかどこかに置き忘れてきたらしい。
ふと視線を上げて窓をみれば、空虚な瞳をした少年が映り込む。
それはどこか射るような目をして、窓ガラスに映った別の顔へと向けられている。
別に恨んでいるとか、そんなことはない。
ただ制裁を加えてやらねば、と思っているだけだ。
ひしひしと心を支配していく氷のつぶてを感じながら、僕は顔をいつも通りの表情へと戻した。
冷たい。
いつか彼女に言われた一言が頭によみがえる。
冷たいよね。
そうかもしれない。
僕は頭の中で返答しながら。彼女の顔を思い出そうとした。
しかし中々出てこない。
彼女の顔も頭から削除されたみたいだ。
僕は忌々しく窓に映る自分を睨みつけた。
【 2 】
自分から好んでこんな性格になったのではない。
むしろそれはこの世に生まれ出るときに親を選べないのと同じで、仕方のないことなのだ、と諦めてさえいる。
いつだろう。自分の中に存在する暗闇に気付いたのは。
他人に向ける顔が本当の自分ではないと気付いたのは。
学校ではそこそこに友達もいたし、誰かに恨みをかうこともなく極普通の生活をしていて、なのにいつからか自分と他人の間に別のものが存在していた。
それからだ。
何もかもが偽善にしか思えなくなって、何もかもがバカらしくなったのは。
友達という存在も、彼女という存在も、自分にとって何の得があるのか。
ただ僕を見下したくて、自分なりの勝手な理屈や愛で縛り付けたくて、だから僕の前にこうして存在しているんじゃないのか。
そう感じ始めたら、もうどうにも収まりが利かなくなっていた。
むしゃくしゃした心が次第に闇に変わっていって、僕を覆い始めた。
制裁を加えなくてはならない。
そう思った。
僕を見下す者、僕を縛り付ける者、僕を…
毎晩僕の周りの人間が減っていく。
彼女とか友達とか親とか。
僕はそいつらを無感情に、手際よく殺すのだ。
背後からではなく、正面から。
相手によく見えるように。
自分の犯した過ちを、認識させるように。
あの世で後悔するように。
僕は殺す。
血が自分にかかっても、相手が何かを請うても、僕は眉一つ動かさず、無駄な体力を使うこと
なく、あの世に送る。
氷の刃のような性格。
冷たくて、鋭くて、感情の一切ない。
僕はそれを振りかざして、相手の肉を食いちぎり、引き裂く。
己を恥じるがいい。
そう思いながら。
読んでいただきましてありがとうございました(つω`*)テヘ
ここに出てくる『僕』にはモデルがいます。
しかしながら勝手なイメージですので、誤解されないでいただきたいな、と(苦笑
この作品は確か…高校2年生のときに書いた気がします。
数えること…2年前?
あの頃はとにかく暗い作品ばかり書いていました…
まぁ今も変わりませんけれどもw
これからも少しずつ執筆を重ねていくつもりですので、今後ともよろしくお願いします
今作品で少しでも楽しめていただいていたら幸いです( *´艸`)クスッ♪
それでは…
本当にありがとうございました!