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外道王女の行く末は  作者: 不明
7/20

笑いが止まらないわー!

 あれからラウルからの接触もなく、そしてワンコを落とせないまま、運命の三日目を迎えてしまった。私の超ヒロインを持ってしても、落とせないとはワンコめ……。まあいいだろう。ワンコ一人いなくてもなんとかなる。

 それよりも、今日は大切な日。そちらに意識を集中しなければ。




 開け放たれた窓から、人々の賑やかなざわめきが聞こえる。今頃我が王家自慢の庭には、一般市民たちがひしめき合っていることだろう。何故なら祭りの最後の日には、宮殿の庭が一般にも公開されるからだ。そして宮殿のバルコニーから、お父さまと私が彼らに手を振り、それで祭りは締めくくられる。

 お父さまのお言葉を近侍が言い終えれば、ようやく私たちの出番。お父さまと私は、バルコニーへと静々と歩み出る。習いに従い手を振ると、民衆達の様々な歓声が沸き起こった。お父さまを称える声の他に、何て美しい、とか女神のようだという私への賛辞がそこかしこから聞こえてくる。ふふ、そうだろうとも。王女がいかに清楚で優しく、勤勉で慎ましやかであるという事実を広めてあるからね。それに加えてこの美貌とくれば、私に対する民衆の好感度は鰻上り間違いなし。その証拠に、私が微笑めば歓声は増し、バルコニー付近の民衆はうっとりと魅入っている。

 そんな調子で、場の興奮が最高潮に達した時、悲劇は起こった。

 どこからともなく、お父さまと私目掛けて紅い閃光が――

 

「きゃあっ!!」


 私とお父さまは魔法をその身に受け、衝撃で倒れ伏してしまった。


「うう……」


 お父さまの苦しげな呻きが聞こえる。私は衝撃の抜けきらない身体を無理やり動かし、父に取りすがった。


「お父さま……! お父さま、しっかりして下さい!」

「グ、グリザベラ、お前…………」


 しかしお父さまはその言葉を最後に息を引き取った。辺りは一気に物々しい雰囲気になり、民衆達は大混乱。暗殺未遂で終わるはずの事件が、とんだ大事になったものね……。

 とりあえずはこの混乱を収めなくては。私は声を張り上げ、近衛兵に指示を出した。


「皆、落ち着きなさい! まずは民衆の避難を!」

「殿下も奥に避難を!」

「……ええ。後は任せます」


 ここで私がでしゃばっても、護衛のために余計な労力が割かれてしまうだけだろう。少し躊躇ったものの、私は大人しく頷いた。そして震える右手をぎゅっと握り締め、力なく呟く。


「下手人を捕らえ次第、報告をお願い……」


 私の気落ちした様子に、近衛兵は一瞬痛ましそうな表情を見せたが、すぐさま決意を固めた顔で礼を取る。


「はい! 必ずや捕らえて、殿下の御前に……!」


 それから私はお父さまの遺体と供に、宮殿の一室に引きこもった。


 部屋にはお父さまを偲びたいと我侭を言って、二人きりにしてもらった。

 寝台に横たわるお父さまの傍に立ち、顔に掛けられた面布を取る。私は食い入るように、父の死に顔を見つめた。カッと驚愕に見開かれたこの目はもう瞬きすることもない。生前のような目で私を見つめることもないのだ。


「お父さま、昔話した不思議な世界のお話、お聞き下さいませんか……?」


 美しく整えられた髭の下にある唇は、当然のように動かない。彼が生きていれば、すぐさま反応を返してくれたことだろう。

 私は目を閉じ、お父さまと過ごした日々を思い返した。



 気味悪そうに私を見つめる目。影で近侍にこぼした言葉、悪魔の娘……。それを隠れて聞いてしまう幼い私。


 私たちは仲の良い親子ではなかった。一度前世の記憶を語ってからだろうか。彼は私を不気味なものを見るような目でしか見なくなったのだ。信心深い彼は、奇妙なことを語る娘を悪魔憑きだと思ってしまったらしい。思い込みの激しい親父って嫌だね。

 そうは思っていても、私に彼を恨む気持ちはない。だってここまで育ててくれたしね。何より、この世に私をつくりだしてくれたのは、他ならぬ彼なのだ。そして、ランシュテールを更なる大国にするためのきっかけにもなるのだから。


「……ふふふ、あはは、アーッハッハッハッハ!」


 私は今最高の気分よ、お父さま! ほとんど私の思い通りに事が運ぶなんて、何て素敵なんでしょう! ううん、当然のことよね。だってこの世界は私のものなんだから。

 あんなチンケな魔法で人は殺せやしない。だからお父さまに取りすがる振りをして、私が手を下したのだ。仰向けになったお父さまの胸にさりげなく手を添え、魔力の衝撃を流し込む。そうすれば、加齢で弱っていた心臓はあっけなく鼓動を止めた。お父さまは驚いていたようだけれど、今はあの世で重大な役目を果たしたことに気付き、自らを誇りに思っているに違いない。ランシュテールのために死ねて本望だとね。

 笑いを収め、成功の余韻に浸っていると、不意にノックの音が聞こえた。多分犯人を捕まえたんだろうね。


「入りなさい」


 しかし入ってきたのは、待ち望んでいた知らせではなく、セレスたんだった。


「グリザ、まさか、こんな方法を取るなんて……」


 青ざめた顔に憂いを浮かべた彼が、震える声で私を詰る。はっきりとは言ってないけど、彼の声音は明らかに私を責めていた。私に協力しているくせに、この態度はちょっと腹が立つ。でもここで内部分裂なんてしたくない。

 私は悲しげな顔を作って、俯き加減にお父さまを見つめた。


「お父さま同意あってのことよ。私たちの思想をお父さまに何度もお話したわ。そうしたら、お父さまはようやく分かってくださった。しかもね、ランシュテールの……ううん、民衆すべての為ならば、そのための布石となろうって言ってくださったのよ」

「本当に? それは本当のことなのか? 自分の命を投げ出してまで?」


 普段私は、他人の前ではお父さまのことを褒め称えている。お父さまも人前では、いい父親の振りをしている。傍目には仲のいい親子ってね。だからこう言えば納得するだろうと思ったのに、疑り深いなあ……。しかし私には奥の手がある。秘技、乙女の涙!


「ええ。そのための価値があると思ってくださったのよ。そして後は私たちにこの国を任せる、とまで言って下さったわ……。だから、私、お父さまの命を無駄にはしたくない。もう私たちの計画は始まったのよ。後戻りは出来ないわ……!」


 私は涙を交えて滔々と語り、セレスたんの反応を待った。しばらくは私のすすり泣く声が聞こえるのみだったけれど、私の身体は暖かい手に引き寄せられ、セレスたんに抱きとめられた。


「疑ってごめん。実の父親が死んだんだ。まずはグリザを思いやらなきゃいけなかったのに……」


 セレスたん、相変わらず優しいな。昔も私が泣くとこうやって慰めてくれたっけ。でもちょろすぎるね……。そんなんで外交できるの? ちょっと心配だわ……。


「ううん、いいの。事前に話しておくべきだったわね」


 絶対言わないけどね。セレスたん、わかりやすいから。きっと動揺しまくって挙動不審になるよ。


「ところで、最後の一人は捕らえてある?」


 『前世の記憶:忘れてはならない重要メモ』で暗殺者の配置はあらかじめ把握していた。暗殺者三人のうち、二人は実行直前に捕縛済み。残る一人も、捕らえるのにそう時間はかかっていないだろう。


「ああ、捕らえてあるが……」

「では尋問をしに行きましょう」


 暗殺トリオを、我が家のテーマパーク(拷問部屋)にご招待してあげようではないか。出所は分かってるけど、新情報が彼らから掘り出されるかもしれないから一応ね。決して私が楽しみたいだけってわけじゃないから。


「いや、しかし彼らには温情ある措置を」

「速やかに処刑しろと? 大衆の前であんなことをしておいて、それだけでは済まされないわ。示しがつかないでしょ」

「しかし彼らを利用したんだぞ?」


 もー、面倒くさいなあ。セレスたん相変わらず温いんだから。


「実行しようとしなければ、利用されることもなかったわね。ねえ、セレスたん。(まつりごと)って時には汚いことも必要だと思う。綺麗なことだけでは成り立たないわ」


 私がそう言えば、セレスたんは苦悩の表情で俯いてしまった。自らの理想のために、人を殺してもいいのか? 何て事を考えてるのかな。じゃあその苦悩を私が取りはらってあげるわよ。


「大丈夫よ、セレスたん。汚いことは全て私に任せて。あなたは民衆に感謝されるような、綺麗なことだけしてればいいわ」


 これでセレスたんも思い悩むこともなくなるはず。感激して言葉も出ないようね!


「グリザ……」


 しかし彼は呆然と呟き、そのまま固まってしまった。何で?

 まあいいや。セレスたんに構ってる暇はない。今から尋問作業をしなくてはならないのだ。それも三人もね! なんてラッキー……いや、忙しいんだろう!


 私は見開いたままのお父さまの目を閉じ、手向けとして私最高の笑顔を送った。


 善政を敷き、近隣諸国との友好を深め、賢王と謳われていたお父さま。でも宿敵エストラーナをどうにかして滅ぼし、()の土地をランシュテールのものにしたいと思っていたことを私は知っている。だから私があなたの命をもって、その願い叶えて見せましょう。あなたの言う”悪魔の娘”らしくっていいでしょう?

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