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外道王女の行く末は  作者: 不明
4/20

バルニエ兄妹マジヤバイ!

 そうだ、もう一つついでだ。セレスたんに会ってこようっと。セレスたんってば最近付き合い悪くてつまんないんだよね。彼女でもできたのかな。十八歳ともなれば、お年頃だもんね。…………許さん。私を差し置いて彼女なんて、許さんぞ!

 訳の分からない怒りに支配された私は、セレスたんを締め上げるために、猛然と彼の部屋へと突き進んだ。しかし勝手知ったるバルニエ邸であるのに、案内と称してセレスたんの従僕がまとわりついてくる。それが私の怒りを更に煽った。しかもね、何かと理由を付けて私を足止めしようとしてくるんだよ。鬱陶しい!


「姫さま、別室でお茶を召し上がっていかれてはどうですか? 若さまが姫さまへと特別に買い求めたものがあるのです」

「じゃあセレスたんのお部屋で頂くわ」

「いえ、ですが、若さまはただ今取り込み中でして……」


 十中八九彼女だな。間違いない。邪魔してやる。絶対邪魔してやるから!


「大丈夫よ。決して邪魔しないから。困ってることがあれば、私が力になるし」

「いや、でも……あ、そうだ、東方より珍しい芸術品を仕入れまして、それを鑑賞なさるのはいかがでしょうか……?」

 

 うるさいな。あんまりしつこいと、お前の生皮剥ぐよ。


「ほほほ、それほどまでに私を引き止めたいの? だったらお前が私の相手をしてくれる? そのほうが芸術品より楽しめそうだわ……」


 生爪を一枚一枚はがしていくのも楽しそう。それから剥いだ皮と爪で貼り絵を作るの。素敵じゃない? 決めた。お前を芸術品に仕立ててやろうではないか。

 私が可憐に微笑むと、従僕はヒッと悲鳴を上げて逃げてしまった。ちょっと、そこは顔を赤らめて同意するところでしょ。主命も守らず、客人へのあの無礼な振る舞い。あいつは首にしたほうがいいね。

 ともあれ、これで私の行く手を阻む者は居なくなったわけだ。私はセレスたん目掛けて進撃を開始した。

 

 いつも開放感溢れているはずのセレスたんのお部屋は、やはりというべきか、今日は扉がしっかりと閉じられていた。

 まあ、扉なんて閉めちゃって……。きっといかがわしいことをしているに違いないわ。けしからん、私も混ぜなさい!

 私はグ○コのポーズで扉を蹴破った。


「セレスたーん! あーそびーましょー!」


 扉の先には、セレスたんと向かい合わせに、貴族風のフツメン、それに商人風のブサメンが座っていた。セレスたん以外はびっくりして固まっている。まあそうだろうね。王女さまの突然の来訪なんだからびっくりするよね。肝心のセレスたんは、フツメンから受け取っていた何かを慌てて隠していた。

 ふっ、セレスたん、甘いな。私の鍛え上げられた動体視力は、それが何かをはっきり捉えていたのだよ。安っぽい指輪だね。

 ちらりとブサメンを見ると、彼も同じ指輪をはめている。へえー、ふうーん。君たち、そういう仲なんだ。


「ポールは? 今は取り込み中だと言われなかったのかい?」


 うわ、セレスたん、露骨に迷惑そうな顔しなくても……。私とあなたと仲じゃない!


「さあ? ここに来るまで誰にも会わなかったけど? それより、彼らは? セレスたんのお友達?」


 そういえばここにいるフツメン、マルノー子爵とかいったっけ。貴族らしくなく、質素で倹約家。商売で儲けているらしいけど、誠実な対応で評判がいいらしい。領民の支持も熱いそうな。私独自の情報網によると、彼にはよからぬ噂があったっけ……。


「いや、マルノー子爵に仲介してもらって、いい美術品を取り寄せたんだよ……。これを機に親しくさせてもらえればと思っているが……」

「まあ、そうなの」


 親しくねえ……。ということは、つまりセレスたんも”あれ”なのかな。

 私はマルノー子爵に向き直って、社交用の笑顔を貼り付けた。


「御機嫌よう、マルノー子爵。こうやってお話しするのは初めてですね」

「王女殿下におかれましてはご機嫌麗しく……。殿下のご尊顔とお言葉を拝することができ、光栄に存じます」


 慇懃な態度の子爵だけれど、腹の底では何を考えているのやら。ふふ、噂の所為かな。なんとなーく、彼の視線から敵意を感じるわ。


「それでは、殿下、バルニエさま。私は仕事がありますので、これにて失礼いたします」

「ええ。さようなら」

「今日はありがとうございました」


 セレスたんと子爵たちを見送った後、私は長椅子にどっかりと腰を下ろした。


「セレスたんってば、平等の会(エガリテ)とつるんでるの?」


 開口一番にそう言うと、セレスたんは怪訝な顔をした。


「何のことだ?」


 おお、セレスたん、なかなかの役者だね。でもまだまだ甘いな。彼って嘘をつくとき、ちょっと目が泳ぐんだよね。


「指輪を受け取っていたじゃない。”E”の掘られた指輪」

「そんなものはもらっていないよ」

「そう。じゃあマルノー子爵の家宅捜索を命じましょうか。それから尋問。エガリテであるという嫌疑を掛けられれば、それどころじゃ済まないだろうけど……」


 セレスたんの顔が険しく歪む。彼ってば優しいからね。知り合いが痛めつけられると分かっては、平静ではいられまい。


「……グリザ、二人きりで話しをしたい」

「ええ、もちろんよ」


 セレスたんの提案に同意した私は、侍従を下がらせた。


「じゃ、腹を割って話そうじゃないの!」

「待ってくれ。そちらの騎士殿も外してほしいんだが」


 セレスたんがうんざりしたようにため息を吐いて、私の背後に佇む仮面の騎士に指を差す。あれ、こいつ、まだいたのか。


「あら、いたの。空気みたいだから気付かなかったわ。まあこいつのことは置物だと思って気にしないで」

「無理だから! 存在感凄いよ。何だよその仮面は……」

「私は素敵だと思うけど。まあいいわ。そういうことだから、レオン、さっさと部屋を出て行って」


 レオンはこっくりと頷いて、大人しく部屋を出て行った。そんな彼の様子に、セレスたんがギョッとしたように目をむく。


「えっ、あれが、レオン!? 本当に? というか、何であんな格好をしてるんだ?」

「私の傍にどうしてもいたいって言うから、その条件としてね。戦いの時と緊急時以外は喋らずに顔を見せないなら、って言ったらあの通りよ」


 レオンと喋ると苛立ちしか沸いてこないからね。あの生意気な顔も。あれを見るくらいなら、お気に入りの悪魔の面を見ていたい。だからそれを被らせたのだ。おかげで奴は、私にとって便利な空気となった。

 ていうかね、セレスたん、妹のスルー力を見習いなさい。シャルリーヌはあれがレオンだと知っても、ちゃんと綺麗になきものとして扱ってたわよ。


「それで、何でエガリテに?」


 エガリテは、すべての人が平等であるという思想を掲げている集団だ。つまり共産主義的なものかな。私たちや貴族にとっては目障りな存在であることは間違いない。ちなみにマルノー子爵は、エガリテのメンバーだという可能性があるとの噂があった。


「学院で……友人達と接してるうちに思うようになったんだ。彼らの領内での生活や貧困にあえぐ者たちの惨状……。しかし僕たち貴族は、そんな者たちのことなど知らぬ存ぜぬで優雅な生活を謳歌している。この国はこれでいいのか、このままじゃないけないって思って……。それを友人に打ち明けたら、エガリテを紹介されたんだ」


 まあね、セレスたん、昔から優しかったし夢見がちだったからね。そういう思想に憧れそうだよね。

 でもね、それってうちみたいな国土の広い国じゃ上手くいかないと思うよ。目が行き届かないでしょ。んでもって絶対どっかで腐敗が起こるから。そして腐敗やだらけた民衆を粛清するために、セレスたんたちグループは監視の目を常に光らせ、その果てに行き着く先は恐怖政治! ああ、やはりセレスたんも私と同じ王家の血が流れてるのね! 私には見えるよ! 血にまみれても理想を曲げず、更なる血を流し続けるセレスたんが! 素敵よ、セレスたん!

 うん、まあ、それはともかく、平等ってつまんないよ。例えばさ、すごーく頑張って頑張って得た報酬が、頑張ってないやつと同じだったらどう? 私なら腹立ってしょうがないね。しかも報酬上がる見込みないときたら? やる気起きなくなるよ。ぐーたらな国になるよ。人間差があるから面白いんじゃない。チャンスがあるから、頑張ろうって思えるんじゃない。そんな思想に賛同するのは、夢見がちなバカと怠け者の貧乏人だけだから。


 でも私はこう言おう。


「セレスたん、それって私もすごく素敵だと思うわ」


 セレスたんが信じられないというように、目を見開いた。


「え……? 本気で言ってるのか? そうなったら君は……」

「王女じゃなくなる? それとも処刑される? まあ処刑されるのは嫌だけど、王女じゃなくなるのはどうでもいいわ。平等、素晴らしいと思うわよ」

「本当に……? それは君の本意なのか?」

「ええ。でもね、その素晴らしい社会が私たちの国だけでいいと思ってるの? すべての国々がそうなったらもっと素敵じゃない?」

「それは……そうかもしれないが、でも、どうやって……」

「つまりね、国を一つにしてしまえばいいのよ」

「……もしかして、君、戦争でも仕掛ける気か? そんなことは駄目だ!」

「何故駄目なの? この思想はランシュテールだって血を流さずに実現は不可能よ。大いなる改革のためには、多少の犠牲は止むを得ないの。違う?」

「しかし……」

「決断しなければ何も成せないわよ。このままエガリテのメンバーと、思想について語り合うだけでいいの? 平等な世の中を築きたいんでしょ?」

「君は、それを力づくでやる気なのか……?」


 セレスたんは恐ろしいものを見る目で私を見つめている。しかし彼の声音には、微かな期待が込められるのがはっきりと分かった。


「私にいい考えがあるの。だから私たち、協力しない?」


 今まで戦闘関連にだけ打ち込んできたから、勉学のほうはさっぱりだ。だから私には頭脳が必要である。セレスたんはバカだけど、頭がいいから是非とも協力してもらいたい。いや、彼は必ず協力してくれるだろう。なんたって夢見がちなバカなんだから。

 セレスたんは沈鬱な顔で俯いている。しかしぎゅっと拳を握ると、挑むような顔つきで私を見据えた。


「わかった。二人で理想を実現しよう」



 こうして私の下準備は着々と進んでいった。何もかもが順調である。私が十八歳を迎える頃には、全てが完璧に整っていた。もちろんシャルリーヌの教育だってばっちりだ。


「世の中のイケメンは?」

「すべて私のもの!」


 努力の末、純粋だったシャルリーヌはご覧の通りの立派な逆ハー女へと成長していた。


「お姉さま、見ていてください! イケメンのために私、頑張って見せますから! 目指せ、逆ハーです! 邪魔する者には容赦のない鉄槌を!」

「うん、頑張って……」


 可愛らしく、純粋で、天使な逆ハー娘を作り上げるのは難しいんだな。そう痛感した、グリザベラ十八歳の春であった。


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