引っ越しの理由
朝食を食べ終えて僕と柚木は家を出た。
普通は遅刻の時間だが、今日から転校ということで、1時間目に間に合えば遅れても平気らしいので、ゆっくりしてから出たので他の生徒は既に着いているだろう。
ちなみに一緒に出る理由は簡単だ。
それは――僕は自分の通う学校の場所どころか、名前も教えてもらっていないからだ!
っていうか、本当に僕の周りは自由人ばっかだなオイ!
「なあ、柚木?」
「うん?」
「学校ってどこ?」
転向する学校の情報を何一つ知らない僕は聞いてみる。
ちなみに、つい最近に聞いてみたところ『大丈夫!幼なじみを信じて』と、訳の分からない事を言われたので、それ以来は聞いてない。
信じられたら苦労しないんだけどな......
そして案の定
「大丈夫!決して危険な学校じゃないから!」
親指を立てて良く分からない事を言われる。
如月家の女性陣は親指を立ててグッてアピールをするのが好きなんだろうか?
まあ、嘘は言ってないんだよな......
逆に『危険な学校』ってなんだろう?
「ほら、見えてきた!」
危険な学校について考えてた僕に声が掛かり我に帰る。
結局、危険な学校の図で創造出来たのが荒れた学校ぐらいだった。
まあ、どうでもいいとして、柚木の指差す方を向くと確かに学校らしき物が見える。
あれ?普通の学校じゃん?
「柚木、普通の学校だったんだな......」
「少しは信用しなさいよ。っていうか嘘は見破れる魔法使いでしょ?」
「あのな~いくら魔法が使えても1日中使ってる訳じゃないよ?魔法を使ってる分だけ、体力も消費するんだから」
無視するのも可愛そうなので、愚痴を言う柚木に言い返しておく。
まあ、ほぼ1日中使用しているのだが......
ちなみに、この魔法は1日中使用していると、次の日の朝食をいつもの1.5倍食べなくてはならなくなる。
ここで『全然じゃねーか』というツッコミをした人は負けだよ!
「そうそう、緑はこの町から引っ越して来たんだよ?」
「急に大事な事をサラッと言ったなオイ!」
「忘れてたんだもん。ブーブー」
唇を尖らせて、ジト目で僕を見る。
クソッ、可愛いと思ってしまった!短気で、直ぐキレるのに!
でも、別に僕に責める気はないからいいのかな?
まあ、これだけは言っておこうと思う。
「柚木、キャラが崩壊してるぞ?」
「何よー可愛くしてみたのに」
うん、柚木は顔より少し男っぽい方が合ってる。
でも、蹴りとパンチは止めて欲しいけどね。
「着いたねー」
「うん、学校から近くに家を立てたんだね」
家から校門の中に入るまで徒歩10分ぐらいだろうか。この距離なら楽に登校出来るだろう。
それにしても、柚木のお母さんは本当に良い所に家を立てたもんだ。
まあ、勝手に引っ越しを決めて、僕を引っ越させた事は感心出来ないんだけど......
「そういえば、この学校の名前って何なの?」
「校門に学校の名前が書いてあったのに見なかったの?」
あっ、うっかりしてた。道を覚える事に気を取られ過ぎた......
しかも、思った以上に近かったから気を取られる必要もなかったじゃん!
「うん、見なかった」
ここは正直に白状しておこう。
うん、めっちゃ偉そうにしている柚木なんて気にしてないよ?
「教えて欲しい?うん?」
が、我慢だ。さすがに学校の名前を聞いておかないとダメだろ?
クッソ、身長がそこそこ高いから背伸びされたら上から目線される!
「えっと、教えて欲しいですね。はい」
「そっか~、学校の名前をチェックしてない緑はちゃんと調べた私に教えて欲しいのね」
ニヤニヤと背伸びして上から目線をする柚木がうっぜぇぇ!っていうか、めんどくせぇぇ!
人ってこんなにも有利に立つと上から目線をしたくなるものなのか!?
「もういいでしょ?学校の名前ぐらい」
僕はイライラが爆発する前に聞いてみる。
まあ、爆発したら命が危ないんだけどね!てへぺろ♪
「しょうがないな~、心優しき柚木さんが教えてあげるわ!」
こいつって役になりきるの好きなのかな?髪を後ろに払う行動もしっかりしてるし。
うん、今の柚木に、赤いドレスを着せたら完全に偉そうな女王だ......
まあ、返事ぐらいはしておこう。
「わーい、ありがとうございまーす。(棒読み)」
「なんで棒読みなのよ!?恥ずかしいじゃない!」
顔を赤くして背伸びを止める。
僕は悪くないよな?っていうか自滅だよな、今のは完全に......
「えっと、柚木?学校の名前は?」
「学科理高校よ。あと、略して学校だってさ」
少し怒ったまま学校を指差して名前を教えてくれる......けどね
「学科理って、マジかよ......」
乾いた声のため息がこぼれる。
高校の雰囲気は緑も多いし、荒れてる感じもしないけど、学校の名前が一番のガッカリポイントだよ!
ちなみに、柚木は嘘を言っていないから悪くないが、突っ込みを受け入れてくれる人がいないせいで少しイライラしている。
ん、でも待てよ?この学校の名前って記憶を失う前の僕に届いた手紙に書いてあった名前の学校じゃ?
記憶を失う前の手紙を全て読んだときに一番接点がある人の通う学校だった気がする。
「それとね」
考え事をしている僕にトーンの下がった柚木の声が掛かる。
「この学校には、緑の引っ越す前の友達がいるのよ」
「......やっぱり」
柚木がこの学校に僕を連れて来た理由がこの学校にいる、手紙の友達に会わせるため?
でも記憶を失った僕が手紙の人を見つける理由って、
「柚木、理由はなんとなく分かるんだけどさ、僕をこの学校に連れて来たのって......」
柚木は僕にとって必要とない記憶を与えようとしている。
それは、確実だ。
でも、こういう事は本人から聞かないといけない気がする。
「そうよ」
柚木の目が強い光を放つ。それはプレッシャーではなく、意地でも僕に記憶を戻そうとしている決意による物だろう。
「手紙の中の幼なじみと実際に出会って、記憶を少しでも思い出させる事が引っ越して来た理由よ」
完全に言い切った柚木は嘘をついてない......
僕が必要ないと思う物、つまり記憶。
柚木がずっと『思い出させたい』と言い続けていた事を遂に実行に起こした。
今回で学校の名前と理由を出しました。
学科理高校ってネーミングセンスの欠片も感じさせませんね!
気にしないでください!
次回は教室に入って新キャラの登場です!
よろしくお願いします!