きっかけは1ヵ月前に
魔法――常人には不可能な手法や結果を実現する力のことである。by.Wikipedia
僕はその力を一つ使う事が出来る。
しかし僕、葉山緑は一人の少女を救った際に記憶を失ってしまった。
当然、救った記憶は完全に消えてしまっている。
しかし僕はその時の記憶を戻す気もなかった。
何故なら生き為に過去は必要ないから。
もちろん、救われた少女、如月柚木は良く思うはずもなかったが解決方法がなく、今日も幼なじみとして僕の側で生活している。
――ただし......
「みーどり起きて!朝だよー、朝食作ったよー!」
普通では考えられない事。
それは、幼なじみが朝食を作ってる事でも起こしに来た事でもない。
「転校初日から学校遅刻しちゃうよー。起きないと魔法を使ってドカーンだよ?」
布団から無理やり出そうと柚木は緑の布団を引っ張る。
髪は腰に届くぐらいのロング、背も160cmぐらいと高いものの寝起きの女子だ。
当然だが、男子の力に敵うはずもなく引きずり出せない。
いや、力はあるが寝起きで本領が出ないというのが正しいのだが......
そして、柚木の言う魔法は今は使えない、っていうか本当に使えたのかわからないのだが。
どっちにしても、僕は学校に遅刻する訳にもいかず。
「あ~、分かったから下に降りてて」
返事をして起き上がる。
満足した柚木は笑顔を向けた後、部屋を出て行く。
「ん~、何であいつは僕と同じ屋根の下で暮らしてるんだ?」
寝癖の立った頭を軽く掻き一人呟く。
普通とは明らかに違う事、それは僕ら二人の生活環境にある。
それは、この家は一戸建ての普通の大きさ家に住むのは僕と柚木だけが住んでいるという事だ。
もちろん、僕には2ヵ月以前の記憶は何もないから幼なじみと言ってもピンと来ないのだが。
そして親が居ない理由は少し前に遡る。
――それは1ヵ月前の柚木の家で起こった事。
まあ、僕にとって事件とも言えなくもない事だ......
「みどり、少しめんどくさい話しになるけど合わせてね?」
手を合わせて頼む柚木に呼ばれた僕は嫌な予感はしたが断れずに渋々と頷く。
断れない理由は怖いから......僕って情けない。
「で、僕はなんで呼ばれたのか教えて欲しいんだけど」
「いや~、決して悪い事じゃないから、ね?」
「僕に嘘は通じないの分かってるよね?」
ジト目で柚木を見る僕が操れる魔法、それは嘘をついているのを見破る力だ。
しかし、その魔法の特徴は強い意思で嘘をついている場合は見破るのが難しいという点である。
「いや~バレた?」
舌を出して軽くおどける柚木は何故か楽しそうだった。
柚木が楽しそうなのと比例して僕の不安は高くなっているのだが......
「んじゃ、入って!」
「ちょ、柚木!?」
腕を引っ張られて部屋の中に入れられる。
唐突過ぎて反抗も出来ないまま部屋に入って驚いた。
驚いた理由は、入って早々に柚木の両親が座っていたからだ。
ちなみに、柚木のお父さんはゴリラ級に厳つい。
そしてお母さんの方はスラッとしていて柚木とは違い、出るとこが出ている。
「お父さん。私は来年に引っ越すね」
へ~、柚木は引っ越すんだ....でも何故に親が知ってないの?
いや、柚木のお母さんは知ってたな。妙に落ち着いてるし。
「そうか、まあ知っていたが」
腕組みをして頷く。
っていうか知ってたのか!?
「うん、それでね、緑も同じ学校に引っ越すんだって」
へ~、僕って引っ越すんだ............はい!?
どこ情報!?いつ!?僕知らないよ?
「おい、柚木!?」
「話しを合わせて!」
睨まれた僕はまた黙る。
いま、めっちゃ怖かった......
「そうなのか!?良かったな柚木!」
目を見開いて、柚木のお父さんは喜ぶ。......なんで?
ちなみに、柚木にお母さんの方はズズズ~とお茶を飲んでいる。
僕はというと......ただ、呆然と話しを聞いていた。......うん、なにコレ?
「そこで、私は考えたんだ!」
指を立てて自慢気に無い胸を張る。
「ほう、言ってみなさい」
「うん、私と緑は付き合ってるんだ!」
「はぁ!?僕は知らな――」
「話しを合わせてね?」
言葉を遮り、とても素晴らしい笑顔のまま太ももをつねる。
笑顔が素敵だね~だから止めて下さい。痛いです。
「まあ、知っていたが」
知ってないだろ!?このクソゴリラ!っていうか付き合ってないから!
いいから自分の娘の暴走を止めてくれ!
「んで、付き合ってるから何だ?」
優しげな口調で柚木の方を見る。
っていうか、怒れよ!?おかしくないか!?突っ込み満載だぞ!?
「んでね、私達は高校2年の夏から一緒の家に住みたいと思います!」
元気良く手を挙げて、正に自分が正しいように自分の考えを発表する。
絶対に正しくないけどね!
「ちなみに家はお母さんが買ってくれたから心配しないでね!」
自分の名前が上がった柚木のお母さんの方を見ると目が合ってしまったが、親指を立てて満面の笑みを浮かべていた。
なにがグッだよ!?
「そうか、なら心配はないな」
「あるでしょ!?」
「みどり~?話し合わせてね~?」
「ないです!」
突っ込みを入れようとする度に太ももをつねられる。
どうした人権!もっと僕に自由を!
「っという訳で、引っ越し開始!緑の家族も泣いて喜んでたから安心して!」
「はい!?柚木、もっとしっかり説明してよ!」
「新しい家に着いてからね!荷物も向こうに届いてるよ!」
「そこはどこだよ?っていうか人の荷物を勝手の移動させるな!」
「黙らないと....ウフフ~」
怖いよ怖いよ!結構本気で怖いよ!っていうか、腕を握る力が強すぎて感覚が無くなってきたんですけど!?
部屋から引っ張られて玄関で靴を穿かされる。
ちなみに、柚木の両親は笑顔で手を振っていた。
この家族おかしいだろ!!
――っという事があり今に至る。
僕はこの先、生きて行けるのかな......
「みどりー!朝食食べよー」
「今行く~」
転校初日の朝、僕の朝はこうして始まった。
今回から始まりますがどうでしたか?
この話はかなりゆっくりと書くので次回はいつになるのか分かりませんが、次回も読んで読んで頂けたら嬉しいです。