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垣間見えた本音

初っぱなから、目標を破りすみません。

もうちょっと頑張りたいです。

待ってて下さった方、本当にすみません!

「で?」

「何?」

寝床の準備をしながら、セリナは不機嫌そうにとぼけるラギを睨みつけた。

「何か言いたいことがあるから、ヤイトを行かせたんでしょう。わざわざ一人になるのを怖がってる子を!」

セリナの言葉にラギは、不思議そうな表情を浮かべる。

「そう?あの子、素直に行ったよ?怖がってる風には見えなかったけど?」

ラギの言葉にセリナは棘を含んだ声を出す。

苛立ちを表す様に寝床を用意する動きも荒立たしい。

「今日会ったばかりの、しかも迷惑を掛けたと思ってるあの子が!私達の頼みを断る訳ないじゃない!そこまで分かってて頼んだんでしょう!はぐらかさないで!」

セリナの言葉にラギはそれまでのからかうような態度と明るい表情を一変させる。

その愛らしい顔に一切の表情を浮かべず、感情を含まない冷たい声でラギは言う。

「分かってるんでしょう、セリナ」

「………」

顔をしかめたまま俯いた、セリナの沈黙が答えだった。

「・・・ヤイトをどこまで連れて行くのか、でしょう」

自分が答えるまで沈黙が続く事に耐えきれず、か細い声でセリナは呟く。

それに、ラギは正解だと言うように無邪気な天使のような笑顔を浮かべる。


そして、唐突にぎゅっとセリナの背中にラギは抱きつく。

そのままの体勢で、ラギはセリナの耳元でどこまでも優しく甘い声で囁く。

「セリナ、あんな子とっととどこかに放り出せばいいじゃないか。あの子を見るたびに、セリナは苦しむでしょう?セリナが出来ないなら、僕がしてあげるよ」

「ラギ」

ラギの言葉にセリナは悲しげに名を呼ぶ。

セリナの声にラギは可笑しそうに笑う。

「セリナが苦しむ必要はないんだよ。悪いのは、全部人間なんだからね」

ラギは、最後の言葉にだけ限りない憎しみを込める。

改めてラギの憎しみと怒りの深さを感じ、数瞬セリナは言葉を失う。

ごくり、と無理やり喉を潤すと、僅かに掠れた声がなんとか出た。

「…私も人間よ、ラギ」

セリナの言葉にラギは更に可笑しそうに笑う。

「セリナは確かに人だよ。だけど、君は、君だけが誰よりも竜に近しき者だよ。そして、竜を狂わせたのは、君じゃない」

完全にセリナの手は止まっていた。

「竜を狂わせたのは…私だよ、ラギ」

セリナの細い声に宿るのは、決して消えることのない罪への自責の念。

「君に罪はないよ。君にだけはね。罪深きは、全てを忘れ、被害者ぶる人間だよ」

「でも!」

ラギの声を振り払うようにセリナは首を振り、言葉を続けようとする。

だが、すっと背中から暖かな重みが消え、寒さを感じた。

それがセリナには堪らなく寂しく感じられた。

「早く、寝床作っちゃおう、セリナ」

さっきまでの甘い声とは違う、子供らしい高めの明るい声がセリナを促す。

「そうね」

それにセリナも頷き、止まっていた手を動かす。

ラギの態度にヤイトが近くまで来ていることを悟ったからだ。

やがて、寝床が出来上がりかけた時にヤイトの足音が聞こえ、ヤイトの姿が現れた。

「遅くなって、すみません」

「そんなことはないわよ。寧ろ、早いぐらいよ。まだ、寝床も作り終わっていないわよ」

息を切らせながら、勢い良く姿を表したヤイトにセリナは笑い掛ける。

責める様子のないセリナの様子に、ばれないようにヤイトはそっと安堵のため息をついた。




ヤイトにとって、暗い森の中で一人になることは怖くて仕方がないことだった。

それでも、自分を助け世話をしてくれたセリナ達からの頼み事を断るなど考えられなかった。

けれど、少しでも一人でいる時間を減らす為に急いで茶碗を洗った。

暗い森の事を考え無いようにしていると、ふと疑問が沸き上がって来た。

(あの時、どうして僕は死なずにすんだんだろう?あの竜の火は、間違いなく僕を目掛けていたのに)

ヤイトの記憶は、竜がその大きな口を開け火を吐く所で途切れていた。

その為、自分が傷一つなく助かった事が不思議で仕方がなかった。

だが、セリナ達にその事を尋ねる気にはなれなかった。

聞けば、何かが終わってしまうような気がして。

(助かっただけでも、有難いことだしね)

ヤイトはそう、無理やり自分を納得させていた。

そんな事を考えている内に数が少ない事もあり、茶碗を洗い終わっていた。

駆け足でセリナ達の所に戻る。

木々の隙間から、こぼれ見える焚き火の灯りにほっと安堵の溜め息がこぼれた。

街を焼き払った恐ろしい火ではあったが、ヤイトの中に火への恐れはない。

それは、より大きな竜への恐怖心に打ち消されていた。

安堵の思いは、セリナ達の顔を見た時に更に強くなった。




ヤイトが溢した溜め息に気が付かないふりをし、セリナはヤイトに完成した寝床に入るように促した。

「ヤイト、もう遅いから寝なさい。今日は、色々あったから疲れでしょう」

セリナの言葉通り、ヤイトは疲労を感じていた。

しかし、セリナの言葉に従って休む気にはなれなかった。

(でも、さっきまで休ませてもらったし、見張りとかも必要だよね?それに、寝たら…)

考え込むヤイトの様子にセリナは少し悲しげな笑みを浮かべる。

ヤイトが寝るのを恐れる気持ちも分かるからだ。

だからといって、ヤイトの疲労も分かるだけに寝てもらわない訳にもいかない。

明日は、次の町には着くまで歩き続ける事になる。その為にも体力の回復は欠かせない。

それでも、セリナはヤイトを急かす事もなく見守っていた。

「…セリナさん、僕はまだ大丈夫です。眠くないですから、先に休んで下さい。その間、火の番をしますから」

「セリナで構わないわ、ヤイト。ヤイトの気持ちは嬉しいけど、駄目よ。寝ないと体が持たないわ。次の町まで歩き続けなきゃいけないんだから」

「でも、」

尚も躊躇いを見せるヤイトにラギが天使のような笑顔を浮かべ、寝るように促す。

「ヤイト、火の番は僕がするから、君は休んで。明日は早目に出発する予定だから」

しかし、ヤイトは自分と同じくらいの少年に言われて素直に頷けず、眠ろうとはしない。

動こうとしないヤイトにラギは内心腹立たしくて仕方がない。

その表情には現れていないラギの不機嫌そうな様子に、セリナは小さなため息を溢す。

そして、ヤイトの手を掴むとグイッと引き寄せる。

「わぁっ!」

「ヤイト、今日はまず休んで。私も一緒に寝るから。火の番を交代する時に起こすから、それでいいって事にして、ね」

自分の体の上に引っ張り倒したヤイトの背中をポンポンと宥めるようにセリナは叩く。

その温かさに、知らず知らずの内に強張っていた体がふっと緩む。

力が抜けたのを感じると同時に眠気がゆっくりと押し寄せてくる。

「一緒に、寝よう。ヤイト」

セリナの優しい声と温もりにあがえない程眠気が強くなる。

セリナに子供扱いされるのが心地よくて、抱きしめられたままヤイトの目はゆっくりと閉じられていく。




安らかな寝息がヤイトから聞かれると、セリナは安堵の吐息を溢す。

「良かった」

「何処が?セリナ、とっととその子を離しなよ」

不機嫌なラギの様子に苦笑しながらセリナはそっとヤイトを自分の横に寝かせる。

温もりが離れたことにヤイトは顔をしかめる。だが、セリナが手を握ると再び穏やかな表情に戻った。

その寝顔を見ながら、セリナも横になる。

「ラギ、悪いけど火の番お願いね」

「分かってるよ」

機嫌のなおらないラギにそっとセリナが呟く。

「おやすみなさい、ラギ。大好きよ」

セリナの言葉にピクリとラギの肩が揺れ、ついで小さく返事が返ってきた。

「おやすみ、セリナ」

それにセリナは嬉しそうに微笑むと、目を閉じた。




やがて、二つの安らかな寝息が聞こえ始めた。

ラギはユラユラと揺れる炎を見つめながら、呟く。

「反則だよ、セリナ」

ラギの頬は、炎の照り返しよりもなお濃い赤色に染まっていた。



決して消える事のない自責と憎しみ。


全ての始まりは、人が罪を犯した日と憎しみ抱く者は呟く。


自責せし者は、己の存在だと呟く。




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