絶望
二話目です。今回は割りと早目に更新出来ました。
感想をお願いします。
町を焼く、炎の海。
つんと人の焼けた臭いが鼻をつく。
吐気を必死に堪えながら、少年は町を走っていた。
「母さーん、父さーん、ヒナー」
幾度も咳き込みよろけながら、足は止まらなかった。
なんで、こんなことになったんだろう。
頭の中はそればかりがよぎる。
今日は、ディルカの町の祭りの日だった。
竜に怯えながらもなんとか一年分の収穫が得られたことを喜ぶ収穫祭があるはずだった。
祭りの日に母親と妹に花を渡そうと少年は決めていた。少し貧しい少年の家では、収穫祭の日でも身を飾る美しい服も飾りもなかった。
だから、花で飾りつけようと決めていたのだ。
町から少し離れたところに少年だけの秘密の花畑があった。
朝早く、まだ薄暗い朝霧の中、花畑を目指しひたすらに走った。
花畑に着いた時は既に日が昇り、辺りを照らし出していた。
朝露が日に照らされ、幻想的な光景が目の前に広がっていた。
しばらくの間、目の前の光景を眺めたあと、周りがずいぶん明るくなったことに気付き、我に返った。
「しまった、急がないと祭りに間に合わなくなる」
慌てて綺麗な咲きかけの花だけを選び出し、家からこっそりと持ってきた籠を一杯にした。
籠は歳の割りに小柄な体には重かったが心は軽かった。
これで母さんとヒナを飾ってやれるな。
父さんには怒られるだろうけど、母さんとヒナは喜んでくれるだろうから、いいや。朝走った道のりを今度は花を落とさないように歩いた。
頭の中に花に喜んでいる母親と妹の笑顔が思い浮かび、自然と足並みが早くなった。
町まであと少しという所で異変に気付いた。
町から幾筋もの真っ黒な煙が立ち上っていた。
収穫祭で賑わっているはずの町から、歓声も賑やかな声もしなかった。
嫌な予感が胸の中をよぎり、消えない。
「母さん、父さん、ヒナ」
籠を落とした事にも気が付かず、町に向かって走り出した。
頼む、間違いであってくれ。俺の勘違いであってくれ。
「あっ、母さん、父さん、ヒナ」
荒い息遣いの中、ようやくたどり着いた町は炎の海だった。
呆然と瓦礫の山とかした町を目にし、止まっていた足は一歩、二歩と頼りなく歩みはじめた足取りは、やがて家に向かって走り出した。
カラァ、ン。
不意に後ろの方で音がした。
その音は妙にはっきりと聞こえた。
ひっきりなしに響き渡る建物が焼き崩れる音すら、耳に入らなかったというのに。
足を止め、ゆっくりと後ろを振り返った。
目の前に見えたのは、濁った深紅の鱗に隙間なく覆われた、巨大な竜。
予想が当たったことに絶望した。
竜に襲われた町で生き残った者はほんの一握りに過ぎない。
必死に足を動かそうとしても、恐怖と疲労で動かない。
濁った黄色の瞳に睨まれ、目を反らす事も出来ず、凍りついた。
大きく開かれた竜の口から赤い炎が見え、死を覚悟した。
これで母さん達のところに行ける。
絶望の中、その思いだけが溢れ、ゆっくりと目を閉じた。だが、熱く身を焦がす炎はいつまでたっても襲っては来なかった。
不思議に思い、恐る恐る目を開ける。
そして、目の前に、竜との間に立つ少女を見つけた。
かつて犯した罪は消えることなく、人を苛み、新たな罪を犯させる。