僕と彼女と窓に映る失敗
文章の一部を好きな作家さんの作品からパクってますので(文章に厚みをつけ、オチとの落差をつける&只の個人的趣味嗜好)、そういうのが嫌な方は見ないことをお勧めします。
ストーリーはオリジナルです。
20○○年11月21日水曜日
僕は時間的に焦っていた。
「遅れる」ではなく「足りない」という意味合いで、僕は焦っていた。
来年の一月に受験を控えた僕は今日、予備校の先生と進路の話をしていた。どこの大学を受験するか、どこの大学なら受かりそうか。まぁ最終決定というやつだ。
臨界セミナー。
それが僕の通う予備校の名で「臨界に限界はない」をうたい文句にしている。
なんというか、なかなかアグレッシブなキャッチフレーズだと思う。
その進路の話――面接の結果はあまり芳しくなかった。
第一志望の赤川学院はD判定、第二志望の聖法大学もあまり良い結果とは言えなかった。
第三志望の球磨沢大学はなんとか受かりそうではある、というところだった。
自分の性格は自分が一番よくわかっている。
叱られた直後はシュンとしているが、次の日になれば、そんなものどこ吹く風。
忘れているどころか同じ過ちを繰り返すような男である。
明日になれば今日のこの焦心だって綺麗さっぱり忘れているに決まっている。
別に第一志望の学校にどうしても行きたい、というほどの強い意志はなかったが、やはり高い授業料を親に出してもらっているのだから、出来ればそれなりにネームバリューのある所へ行きたいとは思う。
なので面接が終わってすぐに自習室で机にむかい閉室時間ギリギリの10時まで勉強した。出来る限りのことを頭に詰め込んだ。
そして帰宅。
僕は着てきたジャンバーを羽織り、建物を後にした。
――その時から妙な違和感があった、
なんだかわからない。しかしとても奇妙な感覚が僕の全身を包んでいるような。
腑に落ちない「何か」を感じながらも僕は駅へと向かった。
「上乃丘」それがここの駅名だ。
このあたりでは比較的拓けた土地で、多くのデパートや百貨店が立ち並んでいる。
そこから二駅の場所に「上那川」という駅があり、そこが僕の家の最寄り駅だ。
学校へは徒歩通学なので定期などという便利なものはないので、切符を買って改札を通る。
片道200円とはバイトをしていない僕のような学生にとっては中々な痛手である。
ホームに降りたのとほぼ同時に電車が来た。
僕はその電車に乗り、ドア脇に背中を預けるようにもたれかかった。 さすがにこの時間なので席はまばらに空いてはいたが、たった二駅。時間的にも5分ほどなので座るまでもないだろう。
と、そこまできて僕は彼女の存在に気がついた。
反対側のドアの、手すりに掴まっている一人の少女が目に入った。
すりたての墨のように綺麗な光沢のある黒の長髪が特徴的などこか神秘的な、この世のものではないかのような美少女。
かなりの美人だった。
僕の好みで言えばどストライク。
しばらく見とれていた。
が、彼女のほうが僕の視線に気がついたのかこちらを向いた。
会釈のひとつでも出来ればカッコがついたのかもしれないが、僕にそれほどの度胸はない。
あわてて目をそらす。
2分ほどしてからもう一度、今度は彼女に気取られないようにそっとソチラを盗み見た。
……気色悪いとか言わないでもらいたい。その女性がどストライクでキミが健全な高校生男子なら同じ行動をすると思う。
話を戻そう。
僕は彼女を盗み見た。
すると彼女もこちらを見ていた。
こちらをみて微笑していた。
優雅に、
悠然と、
妖艶に、
微笑っていた。
まるで限界まで我慢して、それでももれてしまったかのような幻怪な笑み。
彼女のその笑顔は、
怯えているような、
恥じているような、
見下しているような、
そのどれともとれる、いろんな感情をない交ぜにしたような笑み。
僕は怖かった。
何もかも見透かされているようで。
自分の存在が否定されているようで。
僕は怖かった。
今すぐ、一刻も早くこの場を離れたかった。
早く彼女の視界から逃れたかった。
このままじゃ、「何か」を失いそうな気がした。
しかし、身体が動かなかった。
まるで石になってしまったかのように。
僕の身体は言うことを聞かなかった。
「次は上那川~、上那川~」
そのアナウンスで僕は安堵した。
やっとこの場から抜け出せる。
そう思ったら、彼女の微笑をみてから石化したように動かなかった身体が急に軽くなったような気がした。
僕は急いで彼女から目を離し、彼女と逆の方向、ドアの外を見た。
外は暗く、窓には僕と僕の肩越しに彼女が写っている見えた。
そこで僕は自分の目を疑った。
「――ひ」
思わずもれそうになった悲鳴を押さえ。
僕は、本能的に、退いた。
ああ――怖い。
生まれて初めて、恐怖を感じた。
今までに感じたことのある恐怖なんて――これに較べればなんでもない。
これが恐怖だというのなら僕は今まで恐怖など、微塵も知らなかったことになる。
ドアが開く。
僕は俯きながら、崩れ落ちそうになる身体をなんとか支え列車を降りる。
ドアが閉まる。
徐々に徐々に、列車は速度を上げ、もう僕には見えないところまで行ってしまった。
そこで
そこまでしてから僕は
笑った。
彼女と同じように
彼女より可笑しそうに
彼女より犯しそうに
壊れて
壊れて
狂って
狂って
笑いに笑い
僕は独白した――
「ジャンバーの裏表、逆じゃん」
僕は恥ずかしさで死にそうになった。
その後、悶えながらもなんとか家に着いた僕は全てを忘れようと風呂に入ることにした。
いつもは食事のあとに入るのだが、今日はまずは全てを洗い流してしまいたかった。
羞恥心も
なにもかも
僕は靴を履きすて、服を脱ぎ捨て、上半身裸になる。
ソコで気がついた。
そこで僕は自分の目を疑った。
「――ひ」
思わずもれそうになった悲鳴を押さえ。
僕は、本能的に、退いた。
ああ――怖い。
生まれて初めて、恐怖を感じた。
今までに感じたことのある恐怖なんて――これに較べればなんでもない。
これが恐怖だというのなら僕は今まで恐怖など、微塵も知らなかったことになる。
僕は戦慄した
恐怖した
戦慄に戦慄し
恐怖に恐怖した
そして僕は上半身裸のまま
笑った。
彼女と同じように
彼女より可笑しそうに
彼女より犯しそうに
壊れて
壊れて
狂って
狂って
笑いに笑い
僕は独白した――
「社会の窓、全開じゃん」
ぼくはその時、神の存在を否定した。
そして、その日の出来事を封印するために、僕は勉強に明け暮れた。
第一志望の大学に入れたのは言うまでもない。
〈了〉
前書きにも書きましたが、本文の一部は商業作品からパクってます。
なんらかの禁止事項にあたるようであれば注意していただけると嬉しいです。