娘巡礼とため池 A daughter pilgrimage and a reservoir 本当は怖い日本昔話
むかーしのことじゃった。
それはそれは大きな溜池じゃった。
田を潤おす大事なため池じゃ。
だがそのためいけにはこんな悲しいい話が伝わっておる。
昔、このあたりは、水の便が悪く、田んぼも出来なかったそうな。
百姓は食うに食えず、飢饉の時は飢え死にするものもおったそうな。
百姓達は、名主様の家に集まり衆議したそうな。
そして溜池を作ろうということになったそうな。
毎日村人は出て、土を掘りもっこで運び堤を作ったそうな。
やがて、堤は完成、沢から水を入れたそうな。
だが水が溜まり、何日かして行ってみると、堤は崩れてしまっておったそうな。
また一からやり直し。
毎日土盛りしたそうな。
そして堤が完成。また沢から水を入れてみた。
何日かして朝行ってみるとまた堤は無残にも崩れておった。
百姓たちは頭を抱えてしまった。
代官の年貢の取立てはそりゃあ、厳しかったそうな。
どうしたもんか。
こうなれば逃散するしかなかった。
そんな時だった、
ちりんちりん鈴の音が聞こえてきたという。
そこにひとりの娘順礼が通りかかったのじゃ。
「皆さんどうなさいました?」
どうしても堤が決壊してしまうことを百姓ははなした。
すると、娘順礼はこんなことを言ったという。
『多分、水の神がたたっているんでしょう。堤に人柱を立てれば水の神の怒りも収まり、
堤は決壊しないでしょうよ」
村人たちは顔を見合わせた。
そして誰からともなく、娘を取り囲み、手足を縛り、
堤の決壊したところに投げ込んでしまったのだった。
そしていっせいにもっこで土をその上にかけたという。
やがて堤は立派に仕上がった。
沢の水が引かれたという。
そうして今度は満々と水をたたえても、決して決壊しなかったという。
村人は申し合わせて決してそのことを他言しなかったという。
だが娘順礼の怨念だろうか。それから何年もたったあいだに、
そのためいけは、それから、若い女が入水自殺することが何度もあったという。
あの娘順礼がムラの娘をよんでいるんじゃ。
人々は噂しあったそうな。
それが為、村人も、初めてその祟りを恐れて、堤に供養塔を立てて慰霊したのだという。
だがよほど怨念は強かったのじゃろう。
それからも若い娘がこの溜池で入水自殺することがとまらなかったという。
そうして今でも数年にひとりくらいの入水自殺者がおるそうだよ。
今もその慰霊塔は堤に立っておるよ。
終わり
★これは昔話でありフィクションです。