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10 悲惨なドライブ!

 登場人物紹介

 メアリー・シドニー……主人公。田舎子爵の長女。勘違いしやすい性格の十七歳。

 ドン・シドニー……主人公の兄。エステラの事が好き。

 エステラ・グレーヴス……グレーヴ子爵夫人の娘。とても美人。二十二歳。

 ステファン・グレーヴス……エステラの兄。ドンの親友。

 エンジェル伯爵夫人……エンジェル伯爵の妻。主人公のお目付け役(シャベロン)。小さなころから主人公をとてもとてもかわいがってくれるノンビリとしたご夫人。






§ § §






 そして待ちかねた翌朝。

 中々寝付けなかったとは思えないほど気持ちの良い目覚めを迎えました。

 しかし、肝心のお天気の方がアレですね……。

 そう、気持ちの良い天気とはほど遠い、具体的に言うと雨が降っていたのですよ。


 えー!!うそでしょ?

 ひどい、ひどすぎます。

 これは神様が私にお与えになった試練なのでしょうか……。

 シクシク。

 しかし、私はあきらめません。

 これから止むかも知れないのです。

 もっとも止んだとしても、雨でぬかるんだ道をお散歩とかどうなの?

 みたいな懸念は有りますが今は置いておきます。

 私は神様に晴れにしてくれるように必死に祈り続けました。

 するとなんということでしょう!

 昼の鐘がなってしばらくすると、雨がドンドンと弱くなってくるじゃないですか。

 霧のような雨はまだ降っているものの、薄く陽の光まで差し込み始め、もうしばらくしたら完全に雨が上がってしまうように思えました。

 ありがとう、神様。これからも相変わらず毎日お祈りしますね。

 と、心の中で感謝の念を浮かべていた時の事、それは起こったのです。


「やぁ、シドニー嬢。急いで準備をしてください。さぁ、早く!」


 そうです、空気の読めない突然の来訪者……グレーヴス様がやって来たのです。


「えっ!?一体どうされたのですか、グレーヴス様」


「トウイツケナムに行くんですよ。ドンやエステラも一緒ですよ」


「トウイツケナム?」


 トウイツケナムってここからかなり離れてるところよね?

 なんでそんな所に行くのかしら?

 というか私は行く気なんてありませんけど。

 頭に???を浮かべている間に、いつのまにやらお兄様とエステラもやってきます。


「昨日の夜から三人で計画を立てていたのよ。メアリーを驚かそうと思ってナイショにしていたの。ねぇ、驚いてくれたかしら?」


 そう言ってエステラは「フフフ」と笑います。


「えっっと……それはびっくりしたけど。ってそういう事じゃないわ。私は行きません」


「「「えっ!?」」」


 三人は同時に声を上げます。

 タイミングがピッタリにハモってましたね。

 いや、そんな『信じられない』って顔で見ないでください。

 だってそんな約束してないじゃない、行きませんよ。


「おぃ、メアリー。折角グレーヴス嬢がお誘いしてるんだぞ?行かないとはどういうことだ?」


「お兄様すみません。もう他の方と出かけるお約束をしてしまったのです。なので一緒には行かれません」


「約束?一体だれと?」


「サラー様と昨夜、一緒に散歩に行くお約束したのです。晴れていたらって約束だったけど、もうスグ雨も上がるのでそろそろいらっしゃるはずです」


 それを聞いたお兄様は明らかなしかめっ面をします。

 大方、『なんて約束をするんだ!』といった所でしょうか?

 というかですね、例え約束が無くてもグレーヴス様とドライブする気は毛頭ありませんから。


「は、晴れていたらって話だろ?まだ降っているし、今日は来ないんじゃないか?」


「そんな事はありません。絶対晴れますし、晴れたらいらっしゃると思います」


「……ねぇ、メアリー。今日の道の様子だとたとえ雨が上がってもお散歩なんてむりよ、どこもかしこも泥んこだもの」


「……そうかしら」


「えぇ、そうよ。だからいらっしゃらないと思うわよ」


 むー。

 そう言われるとそうかもしれないけど……。

 でも……。

 チラリとグレーヴス様を見て、そして昨夜のスピードマン様を思い出し、比較します。

 はぁ……、全然比べ物になりませんね。

 グレーヴス様と出かけるよりも、わずかでも来る可能性があるならばスピードマン様を待っていた方がマシに思えます。


「でも……」


「いや、来ないと思うな。昨夜貴女と踊っていたあの男も一緒なのでしょう?」


「はい、サラー様とスピードマン様、お二人でいらっしゃるはずです」


「で、あれば絶対にこないな。僕はあの男が女性と一緒に馬車にのって出かけるのを見たんだ」


「えっ!?ほ、本当ですか、グレーヴス様」


「あぁ、本当ですとも、うん、間違いない。だからその二人は絶対にきませんよ」


「そんな……」


 一体どういう事でしょうか。

 朝から雨が降り続いていたので、止むことはないと思って出かけられてしまったのでしょうか……。

 えーん。

 お天気が悪いとはいえ、計り知れないダメージを心に受けてしまいました。


「そういう事なら、僕達と一緒に出掛けても問題ないですよね、さぁシドニー嬢。一緒に行きましょう」


「そうだよ、メアリー行こう」


「ねぇ、メアリー、一緒に行きましょうよ」


 三人があまりに熱心に誘うせいか、だまって成り行きを見ていたエンジェル伯爵夫人にも、


「お約束が無しになったんなら、行ってきたら?」


 と、言われていまいました。

 とほほ……。

 こうなってはお断りするのは難しそうです。


「はい、わかりました。ではお兄様たちと出かけてきます、おばさま」


 そうして私は失意のうちにグレーヴス様達と出かける事になってしまいました。






§ § §






「では行きますよ、シドニー嬢。おい、ドン。行くぞ」


 そう声を掛けるや否や、グレーヴス様の馬車を先頭に馬は駆け出します。

 そしてしばらく馬車が駆けだしたころ、私は見てしまったのです。

 えっ!?

 うそっ!?

 あれって……。

 そう、間違いありません!

 スピードマン様兄妹じゃないですか!

 そしてサラー様と私の目が合います。

 サラー様はその綺麗な目をぱちくりさせて、とてもとても驚いた顔をしていた……ように見えました。


「ちょ、ま、まってください!グレーヴス様、馬車を止めてください!」


「はははは、シドニー嬢どうされたんですか?一旦走り出したら僕の馬車は簡単には止まれませんよ」


 そう言ってグレーヴス様は馬車を止めようとはしません。


「い、今、スピードマン様ご兄妹がいましたよ!どういうことですか?お二人は出かけられたのではなかったのですか?」


「……おや?そうでしたか?きっと貴女の見間違いでしょう。さぁスピードを上げますよ。シドニー嬢はしっかりと僕につかまってください。そうでないと振り落とされてしまいますからね」


 そう言ってグレーヴス様は馬に鞭を入れ、さらにスピードを上げます。

「ガコン」と大きく馬車が揺れ、私は「きゃぁ!」と叫びながら必死で隣のグレーヴス様につかまります。


「く、グレーヴス様!止めてください!降ろしてください!」


 と、私は必死になって叫びますが……。


「ははは、聞こえませんよ、シドニー嬢。これ以上口を開くと舌を噛んでしまいますよ。それ!それ!」


 そう言って馬にさらに鞭を入れます。

 ぐぬぬぬ……。

「がこん、ガコン」と馬車が大きく揺れる為、大きな声を上げていると本当に舌を噛みかねません。

 私は口をぎゅっと結びながら必死でグレーヴス様の腕にしがみつくしかありませんでした。

 だけどそんなスピードが長続きするわけはありませんよね。

 しばらくすると馬も疲れたのか、スピードが緩みます。


「……グレーヴス様!なぜ嘘をついたのですか?先程スピードマン様ご兄妹が私のホテルへと歩いてる姿を見ましたよ」


 と、グレーヴス様を強く非難したのですが。


「……貴女の見間違いではないのですか?僕は確かに昨日の男が馬車にのって何処かへ行くのをみましたよ」


 ……なんということでしょう、グレーヴス様はご自分の非を決して認めようとはしません。

 でもその時の私の頭には、グレーヴス様がわざと嘘をついて私をだましたんだ、という思いでいっぱいでした。

 その後もグレーヴス様はイロイロとご自分を正当化されるような事を話していましたが、その時の私はすっかり頭に来ていたので、何を話していたのかはよく覚えていません。

 それに、嘘を吐いたグレーヴス様に神様からの天罰が下りました。

 一時は回復すると思われた天気でしたが、再び雲が厚くなり始めると、ポツリ、ポツリと雨が降り始めたのです。


「ちっ、雨か」


 グレーヴス様も恐ろしい顔で空を睨みつけましたが、雨はドンドンと強さを増し、最終的には土砂降りになります。


「おい、ステファン。この雨じゃトウイツケナムに行くのは無理だ。ホテルに戻ろう」


「畜生、なんてことだ」


 そして私達はホテルへとUターンします。

 つめたい雨に降られ、私もグレーヴス様もびしょぬれです。

 そして、再びホテルに戻るまで、私達は一言も話すことはなかったのです……。

 そしてホテルにたどり着いた私は挨拶もそこそこに部屋に戻ります。

 すると私をみたエンジェル伯爵夫人が、


「あらメアリー、びしょぬれじゃ無いの。そのままでは風邪をひいてしまうわ、早く着替えてらっしゃい。……あっ、そうそう。貴女が出かけた後にスピードマン様ご兄妹が尋ねてきたのよ。貴女が出かけたと知ると、とてもとても悲しい顔をしていたわ。可哀そうに、貴女が出かけなければよかったのにねぇ」


 などと仰ってくれるではありませんか……。

 私は「おばさまが『行ってきたら?』って言うから仕方なく出かけたんですよ!」と声を大にして言いたかったのを喉元でなんとか止めます。


 その日は私は寝るまで、いえ、ベッドに入ってからも悲しい気持ちでいっぱいでした。

 うぇーん、泣きたいよ……。

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