00 プロローグ
「シドニー嬢。私と結婚していただけませんか」
カルロス様との二人きりの時、その台詞を私は聞かされた。
辺りは人気の無い田舎道。
とあるお屋敷に向かって歩いていた私は、そのお屋敷が目の前に近づいた時、足を止めたのでした。
なぜなら、カルロス様が不意に足を止めたからです。
「どうされたのですか?」
と、私は尋ねました。
この方はカルロス・スピードマン様。
スピードマン伯爵の次男です。
カルロス様はプラチナブロンドの髪に澄んだ空色の瞳をしており、常に優しい笑顔を絶やさない美形である。
爵位を継げない貴族の子弟の例に漏れず、この方も聖職者の道を歩んでいるだけあり、とてもとても話も上手で、その話術につい引き込まれてしまいます。
そんな彼からの思いもよらない言葉である。
その時の私は、傍からみたら信じられない、という顔をしていた事でしょう。
唖然とした事は確かです。
そんな彼が、急に足を止め手を差し出したかと思うと、先程のような台詞を放ったのでした。
私はその彼の顔を瞬きもせずにじっとみつめています。
突然の事で、その時は状況が良く飲み込めなかったのです。
なぜ、こんな事になったのか、私は今までの事を振り返り始めました。
§ § §
皆さま、おはこんばんにちわ。
私はメアリー・シドニーと言います。
歳は花も恥じらう十七歳!
お父様は子爵を拝命しております。
領民の人には慕われているんじゃないかな?
父は倹約家の為あまり贅沢な暮らしはしていませんが、決して貧乏貴族なのではなく、自慢になってしまうかもしれませんが結構財産はあるはず……勿論大貴族様とは比べ物になりませんが。
兄弟姉妹は上に三人のお兄様、下に一人の妹と五人の弟がおります。
えっ!?多すぎる?
そうかしら?他の家の比べて少しばかり多いとは思うけれど……。
両親の素質を受け継いだのか、全員大きな病気らしい病気はめったにせず、素晴らしいことだと思います。
……だけどね、ちょっと容姿には不満があるかもしれません……。
でもそれも仕方ないのかもしれません。
健康体を受け継いだのが両親からなら、容姿を受け付いたのもまた両親からなのです……。
私は昔から、自分の不器量さは自覚していました。
なので親戚などにいる器量よしのお姉さんの真似をする事はすっぱりとあきらめ、お兄様達に交じって遊ぶことが多かったのです。
特にクリケットでは同年代で名人と言われていたのです、エヘン。
だってお人形遊びや、お花を摘んで飾りを作ったりするんはつまらないし、自分に合った遊びとは思えなかったんですもの。
勉強も方もイマイチ身が入らず、家庭教師の目を盗んではコッソリと抜け出し、あとでコッテリと怒られてばかり。
とは言え、本を読むのが嫌いってわけでは無かったのです。
特に好きなのは冒険小説!
ウォルポールという作家の描いた「アラゴン城の冒険」やラドクリフの「ガロンヌ城の怪奇」、ポーの「ロデリック家の狂気」などなど。
どうも世間様がいうところの有益な内容が書かれた本は嫌いで、為になる事が何も書かれていない、頭を空っぽにして読む娯楽小説は大好きなのでした。
でもそんな私も十七歳にもなればいろいろと変わってくるのです。
やっぱり女の子足るもの舞踏会とかにはあこがれを持ってしまうじゃない?
外で泥んこになるまで遊ぶことも随分と前に卒業しました。
もう外出の度に服を汚して、お母様に怒られる事もありません。
それに久しぶりにあった親戚とかが「あら、メアリー。随分と綺麗になったじゃない」などと言ってくれることも多くなったのです。
勿論、お世辞が多分に含まれている事は承知していますよ?
でもでもそんな事を言われて喜ばない女の子はいないと思うのですよ。
そんな折でした、私の中の物語が動いたのは。
私の父の納める領地はノーサンプトン州ブラックレー村にあるのだけれど、父の親戚であるエンジェル伯爵が体調を崩し、風光明媚で知られるチェルトナム地方へ病気療養しに行くことになったのです。
そ、そしてなんということでしょう!エンジェル伯爵夫人が私も一緒にどう?と誘ってくれたのですよ。
エンジェル伯爵夫人はノンビリとしていますが信心深く子供好きで、そのせいもあるのか私も小さいころからとてもとても目にかけて可愛がってくれました。
その話を聞いた私は間髪いれず了承すると、急いでお父様とお母様を「説得」したのでした。




