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振り返ると

作者: 尚文産商堂
掲載日:2026/05/01

死に向かおうとしているこの瞬間も、思い出されるのは過去のことだ。

病室で外を眺めると日々の移ろいがはっきりと見える。

目の前に咲く大きな桜。

木々が生い茂る夏も、鳥たちが飛ぼうと競い合っている秋も。

そして静けさを取り戻す冬も。

その日々がすべてこの小さな窓からすべてが見える。

その季節季節に行ったところ、出会った人、その全部を鮮明に思い出すことができた。

もういなくなった人、1回だけの人、出会いと別れをかみしめて。


「……そうですね、いろいろなことがありましたね」

病室にいつのまにか座っていたスーツ姿の女性がいる。

いままでのことを思い出していたからわからなかったのか。

それとも、

「ええ、たくさん、たくさんありました」

彼女のことはいろんなところから聞いている。

だから誰なのかは分かった。

「そうですか」

呼んでいた黒い表紙、裏表紙の本を片手で閉じ、わきに抱えて俺の寝ているベッドの枕元へと立つ。

「一つだけ、聞いても?」

「ええ」

「あなたは幸せでしたか」

「……はい」

総合的に見れば、きっと幸せな人生だったということはできるだろう。

個人的に言い切れるかというのは別にして。

「そうですか」

ふむ、と一瞬考えこみ、彼女はそれから俺の胸へ手をかざす。

「では、次のところへお連れしましょう」

「お願いします」

ふわりと宙へ浮かぶ。

礼を言う間もなく、俺の意識はそこで途切れた。

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