振り返ると
死に向かおうとしているこの瞬間も、思い出されるのは過去のことだ。
病室で外を眺めると日々の移ろいがはっきりと見える。
目の前に咲く大きな桜。
木々が生い茂る夏も、鳥たちが飛ぼうと競い合っている秋も。
そして静けさを取り戻す冬も。
その日々がすべてこの小さな窓からすべてが見える。
その季節季節に行ったところ、出会った人、その全部を鮮明に思い出すことができた。
もういなくなった人、1回だけの人、出会いと別れをかみしめて。
「……そうですね、いろいろなことがありましたね」
病室にいつのまにか座っていたスーツ姿の女性がいる。
いままでのことを思い出していたからわからなかったのか。
それとも、
「ええ、たくさん、たくさんありました」
彼女のことはいろんなところから聞いている。
だから誰なのかは分かった。
「そうですか」
呼んでいた黒い表紙、裏表紙の本を片手で閉じ、わきに抱えて俺の寝ているベッドの枕元へと立つ。
「一つだけ、聞いても?」
「ええ」
「あなたは幸せでしたか」
「……はい」
総合的に見れば、きっと幸せな人生だったということはできるだろう。
個人的に言い切れるかというのは別にして。
「そうですか」
ふむ、と一瞬考えこみ、彼女はそれから俺の胸へ手をかざす。
「では、次のところへお連れしましょう」
「お願いします」
ふわりと宙へ浮かぶ。
礼を言う間もなく、俺の意識はそこで途切れた。




