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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

まだ、友達。

作者: ケイ
掲載日:2026/03/17

図書館の自動ドアが背中で閉まった。


その瞬間、空の色が変わっていた。


午後四時半。

さっきまで明るかった空が、急に暗くなっている。


陸は鞄の肩紐を握り直して、空を見上げた。

重たい雲が低く垂れ込めている。

冷たい風が頬を撫でた。


「やば、傘持ってきてない……」


小さく呟くと、すぐ隣で声が返ってきた。


「俺もー!」


圭が笑う。

口角がぱっと上がって、目尻が細くなる。


昔から、圭はこういうとき必ず笑う。

陸はその顔を、何度も見てきた。


「一緒にコンビニ寄ろ?」


「走るか?」


「いやー、濡れるの一緒だし。歩こ」


圭はまた笑った。

雨雲の下でも、その笑いはやけに明るい。


陸は小さく頷く。

二人は並んで歩き出した。


最初は、ぽつぽつと頬に当たる程度だった。

図書館の敷地を出て、本通りに入った頃には、雨脚が強くなっていた。


歩道のタイルに落ちる音が変わる。


ぱらぱら。

ぽつぽつ。

やがて、ぱしゃぱしゃ。


アスファルトが黒く濡れて光り出す。

遠くで車のタイヤが水を弾く音がした。


「マジで降ってきたな……」


陸がぼそっと言う。


圭は肩をすくめて笑った。


「春なのにさ。天気ってほんと気分屋だよな」


「まだ三月だし」


「もうすぐ四月じゃん。桜咲く前にびしょ濡れとか最悪」


そんな話をしながら、二人はゆっくり歩いた。

急ぐ理由はない。


コンビニの自動ドアが開く。

空調の空気が、湿った服に触れてひんやりした。


店内には、雨宿りらしい客が少し増えている。


二人は傘のコーナーへ向かった。


「ビニ傘しかないけど……これでいいよね?」


圭が一本だけ取る。

そのままレジへ向かった。


陸が財布を出そうとすると、圭は先に電子マネーをかざした。


「え、俺が出すよ」


「いいって」


袋から傘を取り出す。

透明のビニール傘がぱっと開いた。


圭はそれを広げて、陸の横に立った。


風が吹く。

傘が少し傾いた。


自然と肩が触れそうな距離になる。


圭がちらっと陸を見て、小さく息を吐く。


「……入る?」


陸は一瞬目を丸くする。


それから、静かに頷いた。


「…おう」


二人は肩を寄せ合って歩き出した。


小さなビニ傘だった。


傘の下では、圭の頭が陸の肩くらいの高さになる。

肩が触れると、圭の肩が陸の腕に軽く当たる。


傘の縁から水滴が落ちる。

ときどき靴に当たった。


雨音が、傘の上で静かに続いている。


「辛いだろ」


圭から傘を受け取る。


「ありがと」


歩幅を合わせて歩く。

肩がぶつかりそうで、ぶつからない。


しばらく歩いてから、

傘の外で水たまりを跳ねる音が響いた。


圭がくすっと笑う。


「なんか、変な感じだな……」


その笑いを見て、陸はぽつりと言う。


「……お前さ」


圭がちらっとこちらを見る。


「こういうとき、笑うよな」


圭が一瞬動きを止めた。

それから、またくすっと笑う。


「バレてた?」


視線を少し逸らす。

でも口角は上がったままだった。


陸は答えずに、傘を少し高く持ち直す。


それきり二人は黙った。


でも沈黙は重くない。

雨音が、静かに続いている。


車のヘッドライトが通り過ぎるたび、

ビニ傘が光って、二人の影が揺れた。


やがて陸のアパートが見えてくる。


圭は傘を閉じた。

水滴がぱらぱら落ちる。


「これ、持って帰って。明日返して」


「いいよ。お前が持ってけ」


「いや、りっくんに持っててほしい」


圭は少しだけ笑った。


「じゃあ、また明日」


「うん。また明日」


圭は手を振る。


そのまま雨の中を走り出した。


駅の方へ向かう背中が、すぐに角に消える。


陸はその場に立ったまま、

閉じたビニ傘を握っていた。


まだ、少し温かい気がした。


冷たい雨が頬を打つ。

それでも、なぜか寒くない。


———


曲がり角を曲がる。


もう陸のアパートは見えない。


圭は鞄を開けた。

中から折り畳み傘を取り出す。


黒い小さな傘を広げた。


小さく息を吐いて、笑う。


まだ、友達だ。


圭は空を見上げた。


雨は、まだ降っている。

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