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第6話 ドラゴン討伐

評価とブックマークしてくれた方、本当にありがとうございます!とても励みになります!

「ふぅ……疲れたなぁ」


 馬車から降りるなり、リオが言った。まあ、揺れがひどかったし疲れるのもわかる。


「まあ、今日はもう夕方だし宿に泊まろうよ」


「そうだなあ」


 そして今日は、馬車の旅の疲れを癒すように、早めに眠った。



ーーーーーーーーーー



 翌日。

 いつもより早めに寝たせいか、まだ日が完全に出ていない時間に目が覚めた。

 ちなみに、宿は二人部屋しかなかったので、孔だけが一人部屋に泊まっている。


「目が覚めたものは仕方がないし、素振りでもするか」


 着替えて腰に刀を差し、宿の庭のようなところに出ると、そこには先客がいた。


「おお、コウも素振りか?」


「ええ、そんなところです」


 リオは毎日朝に素振りをするのが日課らしい。なので今もここで素振りをしているそうだ。


「せっかくだし、手合わせでもしねえか?」


「しませんよ。これからドラゴン討伐に行くのに、その前に怪我してどうするんですか?」


「そりゃ残念だ」


 リオは少し笑ってから、無言で素振りを再開した。

 孔も隣に並んで、一緒に素振りをした。


 しばらく夢中で素振りをしていると、いつの間にかもう朝で、何人かの客はもう宿を出ていた。

 二人で顔を見合わせて苦笑してから、それぞれ得物をしまう。


「それにしても、コウのその刀、結構な業物だな」


「え、見ただけでわかるんですか?」


「まあ、大雑把にしかわかんないけどな。こう、いい武器ってのは光の跳ね返し方が違うんだよ」


 そんな雑談を交わしながら、朝食をとるために宿に戻る。


 既に他の三人は起きていたらしく、一緒のテーブルで食事をしていたので、孔とリオもそこに座った。

 すると、シルヴィアが少しだけ孔の席に近づいてきた。


(なんか懐かれてるなあ……なんでだろう?)


 不思議に思いつつ、孔は無言で食事をとった。



ーーーーーーーーーー



「ほんじゃ、行くかね」


 宿を出て、ポーションを少し買った孔たちは、早速街の外に出ることにした。


「確か、北の山辺りで目撃したって話だよな……」


 リオが聞いたという噂を頼りに、北の山脈目指して進むこととなった。


(前回は山脈どころか森の辺りにいたけど……今回はどうだろう?)


 今は前回ドラゴンと戦った時よりも数ヶ月は前なので、ドラゴンと同じ位置で遭遇することはないだろう。しかし、だからと言って警戒が不必要なわけではない。なので、孔は索敵の魔法を使うことにした。


探知(スキャン)


 孔の本来の適性は風属性であり、その派生系である振動や音は得意分野である。探知は、振動と音によって周囲の生物を探る魔法なのだ。


「今の、無詠唱か?」


 リオが驚いた顔でこちらを見ている。

 ああ、そうか、無詠唱はあまりいないんだった。確かに、物珍しいものかもしれない。


「そうですよ。この辺りに敵はいないみたいです」


 リオはまだ少し驚いているが、「そうか」とだけ言って進行を再開した。

 シルヴィアが妙にキラキラした目でこちらを見ているので居心地が悪い。


 そんなことを思いながら歩いていると、不意に何かの叫び声が聞こえた。


「グルァァァ!!」


「ドラゴンか!?」


 全員がそれぞれの武器を持ち、叫び声の方へと向かった。


「コウ、さっきの探知の魔法、もう一回使えるか?」


 リオが小走りしながら孔へと問うてきた。しかし、孔はかぶりを振った。


「ドラゴンみたいに知能が高い生物に使うのはやめておいた方がいいです。勘が良ければ、こちらの位置も特定されます」


「そうか……」


「それに、探知の必要はないと思いますよ?」


 孔の発言の意味を聞こうとしたリオだったが、すぐにその意味を悟った。

 ドラゴンの叫び声が強くなっていく。


 そして目に入ってきたのは、大量の木々が押し倒されて広場のようになってしまった場所で戦う、ドラゴンたちの姿だった。


「ドラゴン同士が……やり合ってるのか?」


「そうみたいね……」


 前回より数が少ないな……。

 前回来たときは五匹ほどいたはずだが、今は三匹しかいない。この場にいないだけか、それとも時期が違うからか。ドラゴンの生態については判明していないので、あの二匹がこの三匹のいずれかの子供という可能性もあり得る。


「まあ、何はともあれ、やり合ってる二匹の片方が死んだら出よう」


「わかった」「わかりました」


 リオの作戦に全員が頷き、しばしドラゴン二匹の戦いを見守った。


(この四人の実力はわからないが……B級がドラゴン二匹、勝っても負けてもおかしくないな……なら今回は俺がいる分、勝てるか?)


 前回はここで死んでしまったと思われるこの四人だが、今回は孔がいる。ならば、なんとかなるだろう。


「皆さんは、あの戦っていないドラゴンを倒してください。俺は、やり合ってる方の勝ったやつをやります」


「お前……いや、わかった」


 孔の発言に驚いたリオだったが、孔の目を見て頷いた。生きる気のある目をしているものは、見ればわかるのだろう。


 そして数分後、ドラゴンのブレス合戦により、二匹の戦いは終了した。


「よし、行くぞ!」


 リオを先頭に、五人で木陰から一斉に飛び出した。

 孔だけは、戦っていたドラゴンの元へと走り、『黒の羽』の面々は高みの見物をしていたドラゴンへと向かっていく。


 殺した仲間の体を貪っていたドラゴンだったが、孔の存在に気づくと、顔を上げて咆哮した。


「グルルアァァァ!!」


「さて……やるか」


 ドラゴンの鱗は魔法への高い耐性を有している。そして、とてつもなく硬い。

 魔法での攻撃はせず、物理で殴るのが一番良い。


速度上昇(アジリティアップ)


 自身に支援魔法をかけ、刀には風を纏わせる。本当なら、ドラゴンには速度減少の魔法をかけて相対速度を上げてやりたいところだが、生憎鱗のせいで弱らせなければ抵抗(レジスト)されてしまう。


 ドラゴンは空中に浮き上がり、羽を目一杯広げた。直後、身体中の鱗を硬化させて飛ばしてくる。


風帷(ウィンドカーテン)!」


 風属性の対飛び道具魔法を使い、鱗を防御する。

 そのまま十秒間ほど飛ばし続けてきたが、次第に勢いが弱まり、鱗の雨が止む。


「フッ!!」


 足裏から風を噴射し、ホバリングしているドラゴンに向けて跳ぶ。飛行はできないが、跳躍ならば孔もできるのだ。


「ハァッ!」


 ドラゴンの瞳孔に向け、跳躍の速度を乗せた突きを放つ。


「グルォォォ!!」


 怒ったドラゴンが、翼をばたつかせ、風圧を発生させる。


「うお……っ!」


 反射的に刀を振って、刀に纏わせた風を利用し風圧を相殺する。


 さて……目は片方なくなったが、依然ドラゴンは脅威だ。

 どうするか、と悩んでいると、ドラゴンが翼を震わせる。すると、ドラゴンの真下に火柱が出現し、あたりの草を一瞬で炭化させる。


凍結(フリーズ)!」


 危ういところで火柱を凍らせて対抗する。

 しかし、その間にドラゴンは体を膨らませている。ブレス攻撃の前兆。


「ゴォォォ!」


 典型的なファイアブレスが、ドラゴンの開け放った口から放たれる。

 しかし――。


「『元素(エレメンツ)』!」


 『元素』スキルの効果は、何も自分の魔法適性を高めたりするだけではない。

 火・水・風・土ならば、他人が魔力によって生成したものでない限り()()()()()()()()。ドラゴンのブレスは魔法ではなく、ドラゴンの体内器官で生成されたものなので、操ることができるのだ。


 孔はドラゴンの放ったブレスを跳ね返すと同時に、再度風噴射で飛び上がる。


「グルァァァ!!!」


 跳ね返ったブレスはドラゴンに直撃し、悲鳴を上げる。その煙に身を隠し、孔はドラゴンへと肉薄する。


「シッ!!」


 風を纏った刃による目にも止まらぬ一閃。風で延長された間合いは、ドラゴンの首を完全に切り落とした。

 首を落としたことを確認した孔は、即座に振り返ってリオたちの応援へと向かった。背後でドラゴンの巨体が落下する重々しい音がするが、今は無視して走る。


 幸い、ボルグが攻撃を受け続けているので、まだ誰も怪我を負っていない。だが、攻めあぐねているようだ。


「リオ、こっちは終わりましたよ!」


「おお、じゃあ加勢してくれ!」


 攻撃を防ぐボルグの陰にいるリオに叫ぶ。マルティナとシルヴィアの方を見るが、二人とも弓と魔法では有効打を与える手立てがないのか、構えたまま何もできずにいる。


「シルヴィア!氷縛(アイスバインド)は使える!?」


 杖を構えているシルヴィアに向かって孔が叫ぶと、シルヴィアは小さく頷いた。


「俺が氷固(アイスロック)を使うから、同時に打って一瞬でも動きを止めよう!そしたら、マルティナさんは弓で目を潰して!」


「わかった!」


 孔の指示にマルティナは叫びで、シルヴィアは頷きで応じると、シルヴィアが詠唱を開始する。


「リオ、三人でなんとか目を潰すから、その隙にどうにかダメージを与えて!」


「なんとかって……わかったけどよ!」


 リオにも指示を出しているうちに、シルヴィアの詠唱は終わっていたようだ。孔も魔法を構え、合図して同時に発射する。


氷縛(アイスバインド)」「氷固(アイスロック)!」


 それぞれの氷が、四肢や関節を凍らせていく。速度は遅いが、魔法はなんとか通っている。


「マルティナさん!」


 孔が叫ぶが、叫ぶまでもなく、マルティナは弓を放っていた。すでに構えていた矢で右目を潰すと、ドラゴンの動きが止まっている間にもう一本矢を構えて左目も潰そうとする。

 しかし、矢を構え終わった頃に、ドラゴンを凍らせていた氷が割れた。マルティナの放った矢はスレスレのところを飛んでいき、鱗に当たって弾かれる。


「リオ!」


「任せろッ!!」


 リオが叫びながら走り出すのと同時に、孔も刀を構えて走り始めていた。


「水神流、『波濤(はとう)返し』!」


 リオは大きく跳躍すると、空中で剣技を放つ。流れるような二連撃が、ドラゴンの首を切り刻む。しかし、ドラゴンの翼が生み出す風圧が邪魔して、首は半分ほどしか斬れていない。


「フッ!!」


 風圧に飛ばされながら落下するリオに代わって、孔が飛び上がる。加速の魔法を纏わせた体は、風圧によってわずかに減速しながらも押し負けず進んでいく。


「セヤァァッ!!」


 風を纏った刀が、先ほども放った高速の一閃を放つ。リオの剣技で斬れかかっていた首が、今度こそ完全に斬れた。

 孔は浮力を失ったドラゴンが落下するよりも先に地上に降りて、風圧で飛ばされたリオを担ぐ。

 ドラゴンの巨体が孔たちの上に降ってくるよりも一瞬早く、孔は走って落下地点から離れた。


「ふぅ……なんとかなった」


 幸いリオは気を失っているだけで、大した怪我はしていないようだ。

 疲れ果てた様子のボルグたちの元にリオを寝かせ、シルヴィアに回復魔法をかけてもらうよう頼んだ。


「ああ……疲れた……」


 ドラゴンとの戦闘で疲れた体を、伸びをして解していた、その時。

 不意に、翼のはためく音がした。


「――は?」


 何もなかったはずの空から、漆黒の鱗を持つ竜が突然現れる。


「《幻影竜》……」


 《幻影竜》。それは、通常のドラゴンの上位種である属性ドラゴンの闇竜(アビスドラゴン)の変異種だ。幻覚や分身の魔法を操る、厄介極まりない相手。前回では見かけてすらいない相手が、なぜここに。


『小さき者よ、我の種がわかるとは、流石は勇者の端くれと言ったところか』


 幻影竜が、孔にしか聞こえない思念で語りかけてきた。


『な、なぜ俺が勇者だと?』


『過去の勇者と同じような気配をしておる。特別に、我が相手をしてやろうと姿を現してやったのだ』


 もしや、前回もいたのだろうか。だが、前回は弱すぎて見逃された。今回は、強かったから現れた――そういうことなのか。


『さあ、かかってくるが良い、小さき者よ!来ないならば、こちらから行くぞ!』


 幻影竜はそう言って、翼をはためかせた。

21時にももう一話投稿する予定なので、よろしければご覧ください!

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