番外編 その後の日常
気が付いたら累計2000PVを突破していたので、その記念に。
書き方が多少変わっているかもしれませんが、目を瞑っていただけると幸いです。
キーンコーンカーンコーン。
鳴り響く懐かしいチャイムの音。
「戻った……のか?」
亮太が自分の手を見つめながら呟く。来ている服は勇者としての装備ではなく制服だし、アロンダイトも腰に差さってはいない。
「ホームルーム始めるぞ〜」
ガラガラ、と扉が開いて教壇に教師が立つ。
クラスメイト達はあちこちで呆然としていたが、教師の言葉でひとまず席に着く。
どうやら、異世界に行っている間は時間が進んでいない様だ。
◇
ホームルームが終わると、自然とクラスメイト達は亮太の席に集まった。
「ねえねえ、紅月くんの席……ないよね」
一人の女子生徒が言った通り、孔がいた筈の席は消え、それに教師が違和感を感じたりする事もなかった。
どうやら、孔の存在を覚えているのは亮太達だけの様だ。
「まあ、あっちの世界に残る以上、仕方がないと言えば仕方がないよな……」
亮太が呟く。
亮太達がいた間もこちらの世界の時間が進んでいたのならまだしも、孔だけが突然消えるというのは不自然だ。きっと、こちらの世界に帰ってくる時に話した神が何らかの操作をしたのだろう。
「それとさ、気付いた?スキル使おうとすると、弱いけど使えるんだよ!」
誰かがそう言ったのを皮切りに、次の授業の時間まで、それぞれがスキルを使う時間になった。
亮太の『聖剣技』は、身体能力が少し向上するだけの能力になった。体が光ったり爆発的に強化されたりすることはないが、反動などはない。
凛の『氷紋』は、手から冷気を出す能力になっていた。元の結界の能力は欠片も残っていないが、夏場は重宝しそうだ。
柚葉の『香気』は、手の先から無色の良い香りが漂うだけの能力になった。正直スキルっぽさはなく、柚葉は若干がっかりしていた。
昴の『影法』は、影に物を収納する能力になった。収納できる数は非常に少ないし小さいが、それでもかなり便利なスキルだと言える。柚葉に突っかかられていたのが不憫だった。
沙耶の『人形創造』は、無機物を操作する能力になった。操作と言っても少し浮かせたりちょっと動かすぐらいのもので、到底ゴーレムとは呼べないが、こちらもそれなりに便利なスキルだ。
剣真の『砲撃』は、手からちょっとした爆発を起こす能力になった。人を殺せる程の威力はないが、花火の様にパチパチ言っているので、触れば火傷は必至だろう。女子達からは綺麗だとチヤホヤされていた。
琴葉の『共鳴歌』は、歌を上手くするのと聴いた人を高揚させる能力になった。琴葉の歌は元々かなり上手い方だったが、更に磨きがかかっている。歌手になるのに適したスキルだと言える。
雪乃の『氷嵐』は、凛と同じく手から冷気を出す能力になっていた。被りだなんだのと騒いでいた。
晴臣の『雷走』は、足が速くなる能力になっていた。一見すると亮太と被っているが、こちらは足を速くするのに特化していて、亮太は身体能力全般が上昇するという違いがあった。
千歳の『治癒』は、ちょっとした怪我を治す能力になっていた。あまり大きい傷は治せないが、ちょっとした擦り傷や切り傷ならば完全に治す事ができる。
孔の『元素』ならばどうなっていたのだろうな……と考えていると、授業の時間になりクラスメイト達は慌てて席に着いた。
◇
「くしゅっ!」
「……風邪?」
「いや、違うと思うんだが……」
突然くしゃみをした孔に、心配するシルヴィア。
きっと、誰かが噂をしているのだろう。
「平和だなあ」
「ん」
魔王ムサシを討伐し、亮太達が地球に戻ってから、特にこれと言ってやる事もなく日々シルヴィアとエルフの里で遊んでいるだけだ。
一度王国に足を伸ばしたが、特に何もせず帰って来てしまった。
それと、『覚醒の迷宮』の敵を蹴散らして水無月にも会ってきた。魔王を倒したというと喜ばれ、孔が残った事を伝えると嬉しそうな表情をしながら、「君も同じ選択か……」と意味深そうな事を呟いていた。
そうそう、驚いた事に、孔の耳がエルフの様に尖っていることにシルヴィアが気付いたのだ。恐らく神に寿命を伸ばしてくれと言ったからだろうが、種族までエルフになるとは驚いた。
エルセリアに聞いたところ、ハイエルフみたいだけど若干違う、という気持ちの悪い状態になっているらしい。恐らく寿命は普通のエルフと同じくらいだが、神聖度合いみたいなものがハイエルフ並みらしい。よく分からない難しい話はやめて欲しい物だ。
ちなみに、スキルやステータスは今まで通り使えている。ステータスが全部1000近くになっていたのは若干引いたが。
ただ、『回帰』だけは怖くてあれから一度も触れていない。そもそもが死に戻りするだけの能力だったのだが、『覚醒』に伴って最愛の人の記憶を代償に敵を巻き戻す能力に変貌してしまった。一度代償を払って更にそれが治ったからと言ってもう一度使う気にはなれないので、封印している。もうシルヴィアを泣かせる様な真似はしたくないのだ。
ちなみに、イルーシオは元の住処に帰っている。ブラック・パーロットはそのままだし、呼び掛ければいつでも飛んで来るとは言っていた。
恐らく、イルーシオなりに孔とシルヴィアを気遣っているのだろう。
それか、二人がイチャイチャしているのを見て居心地が悪くなったか。
エルセリアにも会う度に気持ち悪い物を見る様な目で見られるので、ちょっと最近悲しくなってきているのは内緒だ。
「コウ、どうしたの?」
どうやら悲しい感情が顔にも現れていた様で、傍らで同じくぼーっとしていたシルヴィアに心配されてしまった。
「大丈夫だ」
そう言いながら綺麗な銀髪を撫でてやると、「んふ」と気持ち良さそうに目を細める。可愛い。
「またイチャイチャしてるわね!」
暫く無言でシルヴィアを撫でていると、エルセリアが叫びながら現れた。
やむなくシルヴィアを撫でる手を離す。
「そうだけど、何か悪いか?」
「ぐぬぬ……開き直るな!」
ぐぬぬ、って声に出す人初めて見た。
怒りに油を注ぎそうなので、声には出さない。
横のシルヴィアは、何故か勝ち誇った顔でエルセリアにピースをしている。
「まあ、別にいいけど、場所は考えなさいよ」
「場所を考えろったってなあ、いつも通り過ごしてるだけだぞ。なあ、シルヴィア?」
「ん。エルセリアは心が狭い」
「なんでよ!?」
孔の言葉にシルヴィアが便乗し、エルセリアは叫ぶ。
だが、急にニヤリと笑って、孔に向かって飛びついてきた。
「むふ、どう?シルヴィア」
「ぐぬ……氷縛」
「きゃっ!魔法は反則でしょ!!」
「使わない方が悪い。これで私の勝ち」
孔の膝の上に乗るエルセリアを魔法で強引にひっぺがし、シルヴィアはその位置に座る。
シルヴィアが座る分には構わないのだけど、孔が上に乗っているのに魔法を使うのは怖いからやめて欲しい。
「ふん、リア充は爆発しなさい!!」
地球人っぽい捨て台詞を吐いて、エルセリアは走って行った。
……勇者から伝わったのだろうか?
それから暫く、膝の上に乗るシルヴィアを愛でて過ごした。
少し短いですが、ご了承ください。




