第43話 魔王
魔王ムサシの声を聞いて、孔たちは玄関へと戻った。
亮太が沙耶たちを玄関に集合させていると言ったので、一度全員で集まるためだ。
三班プラス四人の大集団で塔を降りて、玄関に辿り着く。
「目が覚めたみたいだな、よかった」
遠くから体を起こして談笑している沙耶を見つめ、亮太が呟く。
「ほれ、さっさと行け。作戦会議すんだろ」
一向に体を動かそうとしない亮太の頭にチョップをかまし、背中を押して強引に移動させる。
ひとしきり喜び合ったところで、簡単な作戦会議のようなものを行う。
「多分だけど、こっちの手札は割れてると思った方がいいよな」
「そうだな。四天王を倒してすぐに声をかけてきたんだから、戦いを見てたって考えるのが自然だ」
「なら、最初はなるべく様子見をしてあっちの手札を剥がすか……」
魔力回復までの暇潰しも兼ねて、色々と話し合った。
とりあえず、こちらの手札はあらかた割れていることを前提に、相手の手札を探る方針になった。
しばらくして、孔の魔力が回復したのをきっかけに、全員立ち上がる。
「よし、それじゃあラストバトルと行くか!」
亮太の掛け声に全員で「おー!」と叫び、魔王の待つ中央の塔へと向かう。
魔王はここで孔たちを消耗させる気はないらしく、登っている最中に敵が出てくるとかそう言ったことはなかった。
「『元素体』」
扉の前に着いたところで、体を風に変えておく。魔王ともなれば当然魔力を纏った攻撃をしてくるだろうが、防御面ではなく移動速度が上がったりする点から見て強力なので、使っておくに越したことはない。
亮太が無言で全員を見やり、全員無言で頷く。
そして、亮太が扉に手をかけた。
「さあ、来たようだな、勇者たちよ」
相変わらず少年のような姿をしたムサシが、玉座で頬杖をしながら言う。
「お望み通り来てやったぞ。さあ、戦おうじゃないか」
亮太はそう言いながら、聖剣アロンダイトを抜き放つ。
「その前に。四天王を全て倒したことを褒めてやろう。正直言って、アーリアまでも犠牲ゼロで倒せるとは思っていなかったぞ」
「あー……確かに強敵だったがな。短気だったのが弱点だ」
「違いない。対人戦で一番大事なのは冷静でいることだからな」
ムサシはクックと笑いながら亮太の言葉を肯定する。
そしてムサシは玉座から立ち上がり、指を鳴らす。
「さて、流石の俺でもこの人数差は不利だからな。そこの四人以外は、俺の配下が相手をするぞ」
恐らく魔法による転移か、ムサシが指を鳴らした瞬間に数十人の魔族が現れる。
ムサシがそこの四人、と言って指を指したのは、恐らく孔・亮太・シルヴィア・イルーシオだ。ムサシの望み通り四人が前に出ると、ムサシは笑う。
「クク。ひとまず、そのエルフ娘から殺すか」
「――ッ!!」
「おい、孔!」
ムサシの挑発に孔は乗ってしまい、ブラック・パーロットを抜き放って突撃する。
「おー、怖い怖い。だが、速度が足りんな」
ムサシは余裕の表情でそれを受け止める。
孔は鍔迫り合いの最中、左手を離して魔法を放つ。
(蒸烈昇華)
次の瞬間、水蒸気爆発が起こり、孔とムサシは吹き飛ぶ。
「水蒸気爆発か。良い魔法だが、残念だが俺には効かん」
爆風によって飛ばされはしたものの、ムサシは外傷を負っていない。
それだけで魔法耐性の凄さが理解できたが……孔が気になったのは、水蒸気爆発を理解している点だ。その言葉を聞いて、孔は急に冷静になった。
「よく水蒸気爆発が分かるな。こっちの世界の人間は知らないと思ってたんだが」
「当然だ。俺はこの世界の人間じゃないからな。おっと、俺は人間じゃないとかいう屁理屈じゃないぞ?」
「……お前、まさか日本人か?」
「そうだ。とは言っても、こっちの世界に来たのはかなり昔だからな」
当然のように頷くムサシを見て、孔のみならず亮太も絶句している。
「お前、日本人なら、平和に生きようとか思わねえのか?」
「……はぁ?平和?何甘ったれたこと言ってんだ?」
ムサシは孔の発言を嘲笑しながら続ける。
「平和なんてのは、所詮仮初の理想。机上の空論ってやつだよ。真の平和なんて有り得ない。人が利益を求める以上、平和なんてのは束の間の休息でしかない。現実を見てみろ、日本が平和になったからといって、世界中で紛争が終わったか?核兵器が消えたか?」
怒涛の如く喋り続けるムサシ。
「結局な、平和平和なんて言ってる奴は偽善者に過ぎねえ。口ではどうとでも言えるんだよ。第一、平和っつうならいの一番に斬りかかってきたお前はなんなんだ?それが平和主義者のやることか?」
「もういい、黙れ」
「言い返せないからってそう怒るなよ。平和に必要なのは話し合いだろ?話し合おうぜ?なぁ?」
孔はブラック・パーロットを握り締め、一瞬で大上段に構える。
「風神流『神颪』」
キリュウにも匹敵する速度で放たれた剣技は、楽しそうな様子で喋り続けていたムサシの顔や首を切り刻んだ。さらに、念のために心臓も貫いておく。
「案外呆気ないな、魔王ってのも」
「流石は竜剣の持ち主。褒めてやろう」
死んだはずのムサシの声が響き、孔は驚いてムサシを見つめる。
だが、その体は再生しておらず、相変わらず首がないまま――。
突然、ムサシの死体が爆散した。
「なっ――!」
慌ててブラック・パーロットで防御するが、一瞬にして孔の左足が吹き飛んだ。
「戦場では油断は禁物だ。覚えておけ」
土煙の中から姿を現したのは……少年ではなく、二メートルの巨漢だった。しかし、その声は相変わらずムサシのそれだ。
「チッ……!」
痛みを堪えながら飛び立ち、孔は後方に下がる。
「榊さん!頼む!」
「ッ!『治癒』!」
千歳に回復をしてもらい、どうにか左足が再生する。
「貴様は厄介だな。潰す」
直後、低くもよく通る声が響き渡る。
ムサシの腕が途轍もない速度でこちらに伸びていき、千歳の胸を貫――カキィン!
「チィッ、結界か!」
淡い水色の光を放つ結界に阻まれ、ムサシの腕は止まり、縮んでいく。
「あ……凛さん、ありがとう……」
突然殺気を向けられて震える千歳だが、凛への感謝を告げる。
「もうちょっと後ろに下がった方がいい。攻撃範囲が広くなってる」
「う、うん」
孔の言葉に素直に頷いた千歳は、凛が立つ辺りまで走って下がった。これで殺されることはないだろう。
「第二形態ってやつか。面倒だな」
孔は飛翔して亮太たちの立つ辺りまで戻りながら呟く。
「孔、あんま突っ込むな。危険だ」
「悪い」
注意する亮太に軽く謝り、孔はムサシを見る。
見た目こそ二メートルの巨漢だが、先ほどの腕を伸ばした攻撃のように、明らかに人間離れした技を使ってくるようだ。その上、恐らく魔法は効かない。
「魔法が効かないのはどう言う手品だ?」
教えてくれるとは思っていなかったが、試しに訊いてみた孔に、ムサシは素直に答えてくれた。
「お前らの言うスキルみたいなもんさ。俺は『魔法反射』が使えるんだよ。さっきは全然反射しなかったけどな」
魔王にもスキルの概念があるとは驚きだ。
ともかく、魔法反射ということは、シルヴィアはあまり戦力にならなそうだ。
そして、蒸烈昇華が反射しなかったということは……爆発系は反射できないのか?いや、それがわかったところで結局ダメージは通らないのだから、意味はない。
「考え事は終わったか?」
「ああ、待っててくれてありがとな」
亮太をチラリと見るが、首を振る。どうやら、スキルはまだ温存しておくようだ。
その動作を隙と見たか、ムサシがこちらに突っ込み――盛大に転んだ。
「ッ!!」
その隙を見逃さず、孔と亮太、そしてイルーシオは飛び込む。
だがムサシはすぐに体を起こし、腕を二本追加で生やして三人の攻撃を同時に受け止めた。
「やれやれ、魔法反射って言った側から魔法を使ってくるとか、大概にしてほしいよ」
……どういうことだ?
と思ったが、ムサシの一歩後ろが凍っているのを見て気が付いた。
つまり、本体に直接効かないと理解したシルヴィアが、足元を凍らせるだけならば反射されないと分かったのだろう。
「意外と弱点がありそうだな、『魔法反射』」
「その弱点を補えるものがあるから、魔王なんだぜ?」
ムサシはそう言うと、さらに追加で腕を二本生やして、それぞれの腕で孔たちを殴りつける。
「ごふっ……」
孔たちは後方に吹っ飛ぶが、孔とイルーシオは空中を浮遊する。空を飛ぶことができない亮太だけは、壁に叩きつけられる。
「浮遊持ちか……まあいい」
ムサシは呟くと、空中に浮き上がる。どうやら、空中戦をするようだ。
「ふんっ!」
ムサシの六本の腕から放たれる連撃を、孔とイルーシオの二人でどうにか防ぐ。
亮太は地上でシルヴィアに治療されているが、空を飛ぶ手段がないためにこちらに参戦することはできない。とはいえ、今から地上に降りるには隙ができてしまう。
「ほらほら!どうした!さっきまでの威勢は、よっ!」
「イルーシオ!」
ムサシの腕三本分の攻撃を喰らい、イルーシオが真上に吹き飛ばされ、天井に身を打つ。
孔は加速してイルーシオを拾い、地上に急降下する。
「さあて……邪魔なドラゴンは消えた。あとはお前ら二人だ」
ムサシも続いて地上に降下し、悠然とこちらに歩み寄る。
「『聖剣技』!」
シルヴィアによる治療で回復した亮太が、スキルを使い、アロンダイトに魔力を込め始める。
「ほう、聖剣の力か!」
ムサシはそれを見て面白そうに叫び、魔力の注入を止めるべく前に飛び込む。
「させねぇよッ!」
孔は亮太とムサシの間に強引に入り込み、攻撃を受け止める。
「邪魔だッ!」
五発、六発と防いだところで、孔もイルーシオと同じように天井に叩きつけられる。
「がはっ……」
だが、時間は稼いだ。
青と金に輝く大剣となったアロンダイトを、亮太が振るう。
「うおっ……!」
一瞬にして、ムサシの三本の左腕が斬り飛ばされる。
「ハハッ、面白え!」
ムサシは笑いながら、右腕で亮太に殴りかかる。
しかし、ムサシの拳が接触した途端、亮太の体は靄がかかり、そして消える。
「幻影――!」
勢いよく振り向いたムサシだったが、その体が完全に回転する前に右腕も斬り飛ばされる。
「おもしれぇっ!!」
ムサシは全ての腕を再生させる。
再生のためにムサシが動きを止めた瞬間、天井付近で待機していた孔が、落下の勢いを利用してムサシの頭にブラック・パーロットを突き刺す。
勢いよく両断されたムサシだったが、体をくっつけて面白そうに笑う。
「なるほど、中々落ちてこないと思ったらそう言うことか……流石の連携だな」
「やっぱ、こいつも心臓と首か……亮太、分かってるな」
「ああ」
やはり魔王は、一筋縄では行かないようだ。
直後、両腕を再生させたムサシが亮太に殴りかかる――。




