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第41話 四天王 その3 豪剣王

 時は遡り、イルーシオは班員たちを引き連れ、地図上で左上を位置していた塔を駆け登っていた。

 とはいえ、亮太たちのように敵と遭遇して苦戦するようなことはなく、かかった時間はごく僅かだった。


 イルーシオは自身の剣を取り出すと、四天王の居室を扉を蹴り開けた。


「乱暴な奴だ……貴様、本当に勇者か?いや……竜か」


「ほう、見事。我の正体を一発で言い当てるとは、流石だな」


 剣を抱き締めながら胡座をかいて座っていた男は、イルーシオを見るなり正体を言い当てた。

 これは、警戒が必要そうな相手だ、とイルーシオは感じる。


「名をお聞かせ願おうか、竜よ」


「我はイルーシオだ。我の主であるコウはこの場にはおらぬ故、代わりに我が相手を務めよう」


「ほう、貴様を従える者がいるとは、世も広いものだ……俺は魔王軍四天王、"豪剣王"のキリュウ。さて……一騎打ちと行きたいところだが、当然飲むまい?」


「愚問であるな」


 だろうな、と頷いたキリュウは立ち上がると、柄に納まったままの剣を地面に打ち付けた。

 すると、部屋の奥から七人の剣士が現れる。


「この者たちは、俺の弟子だ。イルーシオを除く勇者どもは、こいつらが相手をする。イルーシオ、貴様は俺とだ」


「いいだろう」


 キリュウは剣を抜き放ち、柄は床に置く。その仕草は丁寧なもので、剣に愛着を持っているのが伝わってきた。


「では、勝負!」


 キリュウは宣言するなり、音速の飛び込みでイルーシオの懐に侵入する。

 イルーシオは自身の剣でそれを流すと、独特の動きでキリュウの背後を取る。これは、イルーシオの幻影を活かしたものだ。


 しかしキリュウは即座に振り向くと、イルーシオの斬り下ろしを余裕を持って受け止める。


「なるほど、幻影の竜か……これはまた、近接戦闘では厄介な種だな」


「我の技を即座に見抜くか。だが、分かったところで対処できるか?」


 イルーシオはそう言うと、鍔迫り合い中にも関わらず突然姿が掻き消える。

 そして突如、キリュウの左右に二体のイルーシオが出現し、キリュウに斬りかかる。


「む、幻影!」


 キリュウはその正体を見抜き、回転しながらの一撃で幻影を消滅させると、頭上から攻撃してくるイルーシオの攻撃をバックステップで避ける。


 視線を合わせたキリュウとイルーシオは、どちらからともなくニヤリと笑うと、同時に飛び込んで高速の剣戟を始めた。



ーーーーーーーーーー



「剣戟の音だ!急ぐぞシルヴィア!」


「ん!」


 孔は精神破壊された班員たちを連れて、シルヴィアとともに塔を登る。

 この先ではイルーシオが戦いを繰り広げているはずで、中々に強いドラゴンであるイルーシオがそう簡単に負けるとは思えないが、やはり心配だ。


 残った段を飛び越えるようにして駆け上がり、扉を強引に開く。


「うおっ……こりゃあ……」


 目に入った光景は、剣戟を繰り広げる八組の姿。

 特に中央で目にも止まらぬ速度の剣戟をしているのは、イルーシオと謎の男。恐らく、あれが四天王の三人目だろう。


 杖術で敵をどうにかいなしている巫女服の女子を見つけ、孔はシルヴィアに合図してそちらに駆け寄る。


(さかき)さん!加勢する!」


「え?紅月くん!?」


 驚いた様子の榊千歳(さかきちとせ)を無視して、振り下ろされる剣の間に入り込み、ブラック・パーロットで受け止める。

 孔班の班員たちの回復はシルヴィアと千歳に任せて、孔は目の前の敵に向き直った。


「貴様、神聖なる決闘を愚弄するな!」


「あ?何魔王軍が神聖がどうのこうの言ってんだ?」


 激昂している敵を鼻で笑い、剣の角度を変えて攻撃を流す。

 怒りで力を込めるだけだった敵はそれに対応できず、体勢を崩してしまう。孔はその隙を見逃さず、鋭く心臓に突きを打ち込む。


 倒れていく敵を見下ろし、念のため首も落とす。魔族というのはよくわからないもので、首を落としただけでは復活したり、その逆のパターンもあるので、どちらも落とすのが通例だ。


 ブラック・パーロットについた血を簡単に落とすと、千歳たちの方へと向かう。


「治療できそうか?」


「うん、大丈夫そうだよ。眠ってるけど、多分もう少ししたら起きると思う」


「そうか。シルヴィア、榊さんを護衛してやってくれ。俺はイルーシオの加勢に行ってくる」


「コウ……大丈夫?」


「ああ、問題ない」


 心配してくるシルヴィアの頭を軽く撫で、安心させてやる。

 なぜシルヴィアがそこまで心配しているかというと、今の孔は『神颪(かみおろし)』の反動で『元素体(エレメンタルボディー)』を長時間維持することができず、魔法も連発できないからだ。魔王と戦う時のことも考えると、今は純粋な剣術のみで対抗する必要がある。

 とはいえ、イルーシオもいるのでなんとかなるだろう、と孔は思っている。


 治療を続ける千歳とそれを守るシルヴィアから離れ、イルーシオの方へと向かう。


「む、なんだ貴様は?」


 孔の存在に気付き、一度飛び退くイルーシオの剣戟相手。

 イルーシオもその反応で気付き、しかし孔を見ることなく孔に話しかける。


「コウ、手伝え。こやつ、予想よりも強い」


「イルーシオがそんなこと言う相手か。厄介そうだな」


「そう簡単に一騎打ちは出来ぬか……仕方がない、二対一でも受け入れるとしよう。そこの勇者、戦う前に名をお聞かせ願おうか」


「名前を聞く時は、自分から先に名乗るのが礼儀らしいぞ?」


「ほう、それは初耳だ……俺は魔王軍四天王、"豪剣王"のキリュウ。短い間だろうが、よろしくお願い申し上げる」


「俺は勇者コウだ」


「そこは竜騎士であろう」


 茶々を入れてくるイルーシオを無視し、孔はブラック・パーロットを正眼に構える。

 豪剣王という名の通り、その立ち姿からして剣に熟達した者の気配を感じる。果たして、今の孔が太刀打ちできる相手か……。


「イルーシオ、俺は今技の反動であんまり動けん。サポートに徹するから、トドメは頼む」


「良いだろう。では、我の動きに合わせるがいい」


 イルーシオに耳打ちし、自身の状態を伝える孔。こういった連携が求められる場では、しっかりと細かい情報を伝えておいた方がいい。


「相談は済んだか?」


「ああ、待っててくれてどう、も!」


 叫びながら、キリュウに斬りかかる孔。

 キリュウは余裕を持ってその一撃を流すが、孔は流されることは想定済みで、次撃に繋がるように振るっている。

 孔の二撃目と同時に、イルーシオが直上からの攻撃を仕掛ける。これはもらった――と孔は思ったが、直後想定外の出来事が発生する。


 キリュウの下げられた剣が、赤黒い輝きを放ち、高速で振り上げられる。孔の二撃目を受け止めるどころか弾き飛ばし、孔は後方に大きく吹き飛ぶ。そしてそのまま跳ね上げられた剣は、直上からのイルーシオの攻撃を受け止め、数秒の拮抗ののちに弾き飛ばした。


 孔はブラック・パーロットを地面に刺してことなきを得たが、あの剣技の威力は恐ろしい。

 いや、威力もさることながら、驚くべきはその発動速度と後隙のなさか。

 剣技は魔力を消費するもので、魔力を込める時間が発動にかかるし、使った後は大きな魔法を行使した後と同じくらいの反動を食う。そのため、高速戦闘には向いておらず、戦闘の初撃もしくはラストアタックに用いられるのが一般的だ。

 しかし、このキリュウは、その剣技をいとも簡単に剣戟に織り交ぜてきた。


「こりゃ、強敵だな……」


 "支配王"は支配を得意とし、"人形王"は人形を得意とする。その上で、ラリアは知らないがネメシアは近接戦闘もかなりの水準でこなしていた。とすれば、剣を得意とする"豪剣王"が彼女よりも強い戦闘能力を有しているのは決して筋違いではない。


 ふーー……と細長く息を吐いた孔は、イルーシオとアイコンタクトを交わす。

 イルーシオは孔の意図を理解して、半歩身を引いた。


 孔が考えついた戦術は、孔が前を張ってキリュウの攻撃を凌ぎ、イルーシオが剣技を溜めて放つというものだ。


 それに従って孔はキリュウの懐に飛び込み、高速の剣戟を繰り広げる。

 キリュウは涼しい表情で攻撃をいなしているが、それは想定内のこと。孔はタイミングを見計らっていきなり身をかがめ、孔の頭上をイルーシオの剣技が通り抜ける。


 しかし、キリュウも剣技で対抗して、激しい金属音を鳴らしながら双方の剣は弾かれる。ここまでも想定内。

 そして、孔は剣を大きく後方に弾かれたキリュウのガラ空きの胸目掛けて、剣を突く――。

 必殺に思えた突きは、しかし目にも止まらぬキリュウの二度目の剣技によって弾かれた。


 二連続で剣技を使用してくるとは、驚きである。


「コウはエルフの剣術、イルーシオは我流、か」


「我流がどうした?」


「いや何、俺も我流だから親近感を抱いてな。愚弄していると思わせたのならばすまん」


 その観察眼も凄まじいもののようだ。

 エルフの剣術を知っているのもそうだし、この世界に数多あるはずの流派のどれでもないとあたりを付けられるのは、それだけ剣を深く知っているということだ。

 そして、キリュウの剣が我流であるということは、孔の経験はあまり通用しない。もちろん、深いところでは他の流派と通ずるところがあるはずだが、何よりこの世界では剣技という特別な存在がある。その動きをこちらは予測できず、相手は構えから察することができるというのは、かなりの不利だ。


 ところが、ここで転機が訪れた。

 大部屋の後方から歌声が響き、孔とイルーシオ、そしてキリュウの配下と戦いを繰り広げるクラスメイトたちの体を軽くする。


「神崎さん……目覚めたか」


 その歌声は、紛れもなくネメシアとの戦いで聞いた声である。


「これは……体が軽くなったぞ!」


「神崎さんのスキルだ。こりゃ助かる」


 後ろを一瞥したが、他の班員は起きていないようだ。どうやら、バフ掛けができる琴葉に集中して治療を施したようで、千歳は琴葉の隣で深呼吸を繰り返している。


「勇者のスキルか……厄介な」


 そう呟いたキリュウから、遠間からの剣技が放たれる。

 孔はサイドステップでそれを避けるが、イルーシオの姿が消えた。どうやら、バフがかかったこのタイミングで勝負を仕掛けるようだ。


盲目(ブラインド)!)


 ネメシアの視界をも奪った闇属性の魔法は、キリュウの視界を一瞬奪う。

 超人的な反射速度で被害を最小限にしたようだが、少しでも奪えればそれでいい。


 視力の戻ったキリュウの目が、四方から同時に突撃してくるイルーシオを捉える。

 剣技による回転攻撃でそれら全てを対処したキリュウだが、本物はその頭上。


「見事」


 イルーシオの剣技による落下攻撃を回避しきれず、キリュウは真っ二つに両断された。


「イルーシオ、ナイス!」


「コウもな。よく合わせてくれた」


 互いを称賛し合うと、孔は部屋を見回す。

 どうやら、琴葉の『共鳴歌(ハーモニー)』による強化でこちら側が優勢になっており、後一分もすれば全員片付きそうだ。


「さて……あっちが終わったら、亮太たちの加勢に行くか」


「そうだな」


 ブラック・パーロットを鞘に納めつつ、シルヴィアたちの方へと歩む。

 さあ、沙耶は無事救出されているのだろうか……。

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