第40話 四天王 その2 人形王
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「うわー、数が多いねぇ」
亮太の隣で剣真が呟く。
その視線の先にいるのは、大量のゴーレムである。まだラリアの塔を登って数分も経っていないのに、この量がいるとなると、一体ラリアの居室にはどれだけのゴーレムがいるのだろうか。
「ま、ちゃちゃっとしばいて上がっちゃおう」
剣真はそう言うと、発動させたスキルでゴーレムを蹴散らしていった。
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「ふう……ひとまずこれで俺の役目は終わりかな?」
「まあ、ラリアの部屋にどれだけゴーレムがいるか次第だけどな」
少し疲れた様子の剣真。流石にあれだけの数のゴーレムを相手にすれば、疲れると言うものだろう。
「よし、行こう」
亮太はそう言って、扉を押し開ける。
視界に入ってきたのは、予想通り大量のゴーレムと――ラリア、そしてその横に座る沙耶。しかし、その目は虚ろで、本当に目の前が見えているのか気になるほどの生気の無さだ。
「やあやあ。よくあれだけのゴーレムを蹴散らしてきて無傷だね」
気軽に話しかけてくるラリア。その横の沙耶は相変わらず無感情だ。
「まあ、俺たちは勇者だからな」
そう言いながら聖剣アロンダイトを構える。
ラリアは笑いながら返答を返す。
「まあ、それじゃあ僕もそろそろ四天王らしく戦うとしようか。さて、君以外はゴーレムに相手してもらうとしよう……サヤ、君のも出してくれ」
「……『人形創造』」
「うん、相変わらず興味深い。これが終わったらもう少し色々調べてみるとしよう」
ラリアは沙耶の創り出したゴーレムを見ながら、呑気にそんなことを呟いている。
亮太はアロンダイトを握る手を強張らせ、心を落ち着かせながらラリアを見つめる。
「それじゃあ、やろうか」
ラリアがそう言うと共に、ゴーレムたちが動き出す。
ゴーレムたちは全員班員たちに向かっていくが、亮太にだけは向かってこない。
「やっぱり、四天王らしく戦ってあげないとね」
そう言ってラリアは悠然と歩いてくる。
正直、ネメシアと違ってこちらの力は未知数だ。ゴーレムを作って操るだけかと思っていたが、目の前のラリアの態度を見るに、本人もそこそこの強さを持っていると言っていいだろう。
「お、その目は僕を舐めてかかったりしないね?さすがだね」
「まあな。だって実際、強いだろう?ネメシアが支配王とか言って近接戦闘をできるのと同じ理論だ。人形王だからといって、ゴーレム以外ができないわけじゃないんだろ?」
「その通り。そして、こんな風なこともできる」
ラリアは鷹揚に頷いて、両手を握りしめる。
「『装着』」
ラリアが唱えると、両手からどんどん鎧のようなものが装着されていく。
(なるほど、これが錬金術か)
胸中で呟きながらも、油断はしない。
どんな特殊な攻撃を仕掛けてくるかわからない以上、初手は様子見に徹するべきだ。
「『アイスミサイル発射』」
続けてラリアは左手をこちらに向け、再度唱える。
ラリアの左手の周囲に尖った氷の針のようなものが生成され、亮太に向かって飛来してくる。それらをアロンダイトで叩き落としつつ、その威力を実感する。
(孔よりは若干劣るが、これが魔法と違って無尽蔵なら厄介だな……)
亮太は錬金術についてあまり詳しくない。見たことがあるのはゴーレムと、水無月の人造人間の体ぐらいだ。
なので、その動力が何かなのかは知らない。もしそれが魔力のようにしばらく待たないと回復しないものでないのなら、相当厄介な相手だ。
「『ウィンドカッター発射』」
続いて放たれる風の刃を、アロンダイトで弾く。さすが聖剣で、魔力を込めたりしていないのに魔法攻撃を弾くことができる。
「へぇ、それ、厄介だね。どれ、『籠手』」
ラリアが右手を握りしめて唱えると、拳が鎧だけでなく更に装甲で包まれる。
そして、ラリアが拳を振りかぶる。しかし、到底届かない距離のはず――。
無意識のうちに、亮太の体が横に逸れた。そして、一瞬遅れてヒュン、と言う風切り音が聞こえた。
「ほう、よく避けたね。初見では絶対避けれないと思ったのに」
亮太が意識して避けたわけではない。なんとなくだが、アロンダイトに引っ張られたような気がした。
そして亮太は、ラリアの謎の攻撃の正体を一発で見抜いた。
「音波……いや、風か?」
「正解だ。僕の拳の動きに合わせて、風が高速で射出されるようになっている」
ラリアはそう言って、また右拳を振りかぶる。
そして、連続で遠距離攻撃をしてくる。亮太が対応してくるとわかるや否や、すぐに左手も織り交ぜる。
「『フレイムバレット発射』」
左手から火炎放射器のように炎を発射しながら、右手で風攻撃を繰り出してくる。
ただ、風攻撃はあまり連発できないもののようで、十発ほど撃つと一時撃ちやめた。しかし、それも数秒のことで、火炎放射器で時間を稼いでいるうちにまた撃ち始める。
(十発撃つと七秒のクールダウン。左手は今のところ隙はない……最悪左手は無視して行くか)
亮太は冷静に分析する。
もう怒りで剣を適当に振るうなんてことはない。きちんと相手の動きを見て、その癖や弱点を分析している。
(動き自体は、ネメシアほどじゃない……錬金術の道具に頼ってる感じだ。いや、自分で作ったから頼ってるとは言わないのか?)
少し思考が脱線しつつも、分析は止まらない。
(左手は氷・風・火か。それ以外の属性はなさそうだ。隙は、属性を変更するときに一時的に左手を下げるときだけか)
氷の刃と風攻撃を避けるために姿勢を低くしながら、そこまで考える。
つまり、亮太が狙うべきタイミングは、右手のクールダウン中と左手の属性変更が合わさったとき。
属性変更はどう言う条件でされているのかわからないが、ラリアが考えてやっているわけではなさそうだ。現に、亮太が体勢を崩しそうになっていても属性変更をしている。
ここまでわかれば……あとは待つのみ。
その時が来るまで、亮太は耐える。跳躍し、転がり、ステップを踏み、頭を下げて、ひたすら攻撃を避ける。ときにはアロンダイトで弾く。
「防戦一方じゃないか……」
ラリアはつまらなさそうに呟くが、攻撃の手を緩めることはない。
(お前は気付いていない……俺はまだ、一度も攻撃していない。つまり、何一つ手の内を晒していないと言うこと。お前はネメシアから聞いた内容しか知らないわけだ……)
つまり、亮太が光属性魔法を習得していることを知らない。
亮太は元々魔法の才能はない。しかし、人が唯一、いや二つだけ後天的に魔法を使えるようになる手段がある。
それは、神からの祝福により得られる光属性魔法の才と、悪魔などの闇属性魔法を扱う人外によって授けられる闇属性魔法の才。孔はイルーシオから後者を与えられたようだが、亮太はエルセリアに頭を下げて前者を与えられた。
とはいえ、短い期間で習得できたのは、目潰しと軽い治癒ぐらいだ。光で幻影を作ったり、身体能力を高めたり……と言ったことはまだできそうにない。
しかし、目潰しというものは想定していなければそう簡単に対処できないものだ。
だから、耐えて耐えて、ここぞというときに光属性魔法を放ち、ラリアの視界を奪う。そして、即座にスキルを発動し、光の刃で確実に仕留める。これが、亮太の作戦だ。
対してラリアは、全く亮太の狙いに気付いていない。だるそうな表情をしながら、ひたすら攻撃を撃ち込んでくる。
おそらく、頭の中がゴーレム改造でいっぱいなのだろう。時折戦っているゴーレムをチラ見しているのが、それを証明している。
亮太もそのタイミングで周囲を一瞥したが、剣真の『砲撃』のおかげか、順調に処理が進んでいるようだ。
そして、十分ほど経っただろうか……ようやく、亮太の待ち望んだ時が来た。
「くっ……」
ラリアもようやく気付いたか、クールダウン中の右手と、属性変更のため下げられた左手を見て声を漏らす。
しかし、もう遅い。
「閃光!『聖剣技』!」
真下を向いて、真上に向けて目潰しの魔法を放つ。そして、即座にスキルを発動し、アロンダイトに魔力を込め始める。
「うわあっ!」
ラリアは視界を潰され、目を押さえて叫ぶ。
亮太はその様子を無視して、全速力で魔力を注ぎ込む。
そして、アロンダイトが膨れ上がり……柄に左手も添える。
「ハァァッ!」
鋭い気合いと共に振り下ろされたアロンダイトから、光の刃が飛翔し、一瞬でラリアの右腕を斬り飛ばす。これであの厄介な風攻撃は使えない。
「くそっ!『ウォーターカッター発射』!!」
ラリアは悪態を吐きながら、属性変更の終わった左手で水の刃を放つ。
中々の速度だったが、『聖剣技』を発動した亮太が見切れないわけがない。軽いステップを踏んで、水の刃を避けると、今度はアロンダイトを斬り上げて、左腕を斬り飛ばす。
「うああぁっ!くそっ!!『義腕生成』!」
ラリアが痛みに叫びながら、鎧から伸びた義腕を装着する。しかし、そんなものはもう遅い。
「セイッ!!」
水平斬りによって放たれた横向きの光の刃は、ラリアの認識よりも速くその首を飛ばした。
「――え?」
それが、ラリアの口から放たれた最後の言葉だった。
次の瞬間、ラリアの首は地面に落下し、その体は倒れる。そして、周りのゴーレムたちは一斉に動きを止め、沙耶がその場に倒れ伏す。
「沙耶!沙耶!」
柚葉が叫びながら駆け寄るのを見ながら、亮太はアロンダイトから魔力を放出して、鞘に戻す。
「にしても、疲れた……」
亮太は半ば倒れるようにして地面に座り込み、呟く。
この後黒瀬の援護にいく手筈だが、少しぐらい休まなければならない……。




