第38話 魔王城
数日後。
一通りの準備を整え、『覚醒』後のスキルを慣らすために模擬戦なんかもしたりして、ようやく魔王城へと向かう時がやってきた。
正直言って、前回は入ってすぐに瞬殺されたので不安が大きいが、前回よりも圧倒的に強くなっている上に『覚醒』もしているので、大丈夫だと思いたい。これは決してフラグではない。
「よし、この前みたくイルーシオに乗ろう!」
エルフの里を出てすぐに、亮太が全員に向かって叫ぶ。
イルーシオはその発言を予期していたのか、すでに本体に変身している。
亮太の発言を聞いて、孔とシルヴィア以外のメンバーがイルーシオに飛び乗っていく。孔とシルヴィアは以前と同じく、自前で飛ぶからである。
『よし、では行くぞ』
イルーシオの声を聞いて、孔もシルヴィアを抱え、飛び立つ。
どうやら、クラスメイトたちはこの前のように気絶することはないようだ。緊張混じりの顔をしながらも、沙耶を取り返して地球に帰ると言う決意が見て取れた。
(俺はここに残るつもりだけどな……)
孔はシルヴィアを見ながら胸中で呟いた。
ーーーーーーーーーー
「……そろそろか」
様々な街や村を越え、一日と少しを飛行し、魔王城が視界に入ってきた。
前回見た時と同じ姿で、否応なしに孔に敗北の記憶を蘇らせた。頭を振って視界から追いやり、着陸するイルーシオに随行する。
クラスメイトたちはささっとイルーシオから降りて、イルーシオは人間の姿に戻る。
そして、各班の班長とシルヴィアを先頭に、魔王城へと徒歩で向かう。
もちろん、その間も警戒は怠らず、孔と亮太に至ってはそれぞれの得物の柄に手を当てている。
警戒をしながら歩いたが、幸い特に襲われることはなく、魔王城の前へと辿り着いた。
入り口の大扉に手をかけようとする亮太を、手で制する。
「……なんだ?」
「開けた先に敵がいる可能性が高い。馬鹿正直に開けずに、ぶち破る」
それを聞いて、亮太は大人しく下がる。
孔は扉に手を当てると、魔法を唱えた。
(爆発)
爆破より幾分威力の高い爆発は、土煙を出しながら大扉を吹き飛ばした。
「がぁぁぁぁあごぉぉぉぉ!!」
吹き飛んでいった扉が直撃したのか、大きな悲鳴が聞こえた。
土煙に紛れながら、孔は中へと踏み込む。
悲鳴の主は……予想通り、前回孔たちを屠った巨人。
「久しぶりだな」
孔は低く呟きながら、もう一度魔法を唱える。
(爆発)
「ぐああぁぁぁぁぁ!!」
巨人の腹の辺りを爆発させると、先ほどよりも大きな悲鳴が聞こえる。
ちょうどそのタイミングで、後続となる亮太たちも入ってきたようだ。
「剣真!頼む!」
「オッケー」
亮太は巨人を見るなり、自身の班の一人の篠原剣真に指示を飛ばす。
返事をした剣真は、掌を巨人へと向けた。
「『砲撃』」
剣真がスキルを発動すると、剣真の掌から小さな黒い弾が放たれる。
銃弾ほどではないが、なかなかの速度で放たれたそれは、巨人に命中した瞬間、先ほどの爆発を超える大爆発を引き起こす。
「グラァァァァァァ!!!」
一際大きな悲鳴をあげる巨人。
顔のあたりに当てられたからだろう、とても大きな悲鳴だ。
生まれた土煙の中に、亮太が跳躍して突進していった。体が光っていないからスキルは使っていないのだろうが、それでも青く光る聖剣アロンダイトが軌跡を残していく。
斬撃の瞬間は見えなかったが、一瞬アロンダイトの光が強まった。数秒後、亮太が着地した頃と同時に、巨人は倒れた。
「前回苦戦したのに、こうも手早く行けるか……」
「なんか言ったか?」
思わず漏れ出た孔の呟きに、亮太が耳ざとく反応する。
「いや、なんでもな――」
言葉を返そうとしたところで、正面の空間が揺れた。
地震というわけではない。陽炎のような空間の揺らぎが、正面に突然生まれた。そして、そこから感じられる魔力。
その空間の揺らぎから、少年の姿をした何かが現れる。
何か、と表現したのは、明らかに人間の少年ではないからだ。放たれる魔力は、禍々しい人外のそれだ。
「……魔王?」
アロンダイトを握ったままの亮太が、ポツリと呟く。
少年はそれに反応し、手を叩いた。
「ほう、正体を見抜けるとはな。感心だぞ、聖剣持ち。その通り、俺が魔王ムサシだ」
「ムサシ……?」
なんだか和風の名前を聞いて、亮太と孔は揃って首を傾げた。
魔王ムサシを名乗る少年は特に気にした風もなく、こちらを指差しながら言った。
「貴様ら四人は、ネメシアから聞いておるぞ。聖剣持ちリョウタ、勇者最強であり竜騎士のコウ、幻影竜イルーシオ、そしてエルフの魔法使いシルヴィア。間違いないか?」
「まあ、誤魔化したところで意味はないか。間違いないぞ」
黒瀬を除く先頭の四人の名前をそれぞれ言い当てるムサシ。
亮太は特に誤魔化すことはせず、素直に肯定した。
「ふむ、よかろう。まあ、ここで俺が直々に手を下してやっても良いのだが……それは少しばかりつまらぬ。というわけで……」
ムサシが空中に右手を向けると、青っぽい光で魔王城のフロアマップのようなものが出てきた。
「これら四つの塔に、ネメシアやラリアといった四天王が待ち構えておる。奴らを全員倒したのち、中央の俺の部屋の塔を開放してやろう」
「……拒否権は?」
「ないな。俺が開放せねば、あそこは常に閉まったままだ。それに、貴様らは、勇者の一人を取り戻しにきたのだろう?それならば、結局ラリアとは戦うことになるのではないか?」
ムサシはそこまで言い切ると、右手を振ってフロアマップを消し去る。
「ああ、それとだ……ネメシアから、コウをご指名だ。これは断っても良いが……まあ、その顔を見た限り断ることはなさそうだな」
ネメシアからの伝言を伝えるムサシだが、孔の表情を見て、呆れたようなため息をついた。
ネメシアの名前を聞いて、孔の顔は憤怒の形相になっている。それはもちろん、シルヴィアの心を傷つけたからである。
「それでは、俺は貴様らの戦いの様子を楽しませてもらうとしよう」
ムサシはもう言うことはない、とばかりに手を振ると、転移して消えていった。
「……さて、どの班がどこに行くか決めるか……といっても、分かってるのはネメシアとラリアだけだが……」
亮太が孔を気遣うように、ゆっくりと話し始めた。
「ネメシアに関しては、孔に一任するぞ。相性から見ても、ネメシアに操られない孔は適任だと思うし、何より、ネメシアを倒したいって言う気持ちはお前が一番だ」
亮太の発言に、安堵の息を吐く孔。
正直に言えば今すぐにでもネメシアの塔をぶち壊しに行きたいが、後々のことを考えると話は聞いておいた方がいいので、大人しく亮太の言葉を聞く。
「ラリアは、俺の班で相手する。数の多いゴーレムを対処するのには剣真が適任だろうし、美園さんを保護するためには白川さんの『氷紋』が必要だ」
名前を出された二人は、決意に満ちた表情で頷いている。
亮太はそれに頷き返してから、残り二つの班の話もする。
「残りの塔は、イルーシオと黒瀬に任せたいんだが……イルーシオ、どっちの方が強いと思う?」
亮太に問われたイルーシオは、迷うことなく答えを口にする。
「ふむ、先ほどの地図で、左上の塔を陣取っていた者の方が強そうではあるが……もう一つの塔から、ヴァンパイアらしき気配を感じる」
「……ヴァンパイア?」
問い返す亮太に、頷くイルーシオ。
「そうだ。もちろん、確定というわけではない……あくまで竜の勘とでも思っておけ。故に、リョウタはラリアの始末が済んだら、そちらの方に向かってやれ。我の読み通りであれば、聖剣があった方が楽だ」
「……分かった。それじゃあ、そういう配置で行こう」
黒瀬も異論はないようで、班長三人が頷いたのを確認し、亮太は叫んだ。
「各班、行動開始!」
亮太の指示を聞いて、孔は即座に飛び出す。
「あっ、ちょっと!」
班員の一人が叫んでいるのが聞こえたが、孔はスピードを落とすことなく飛翔する。
シルヴィアもついてきているようだが、孔ほどの速度は出せず、少しずつ遅れている。
「待ってろよ……」
その先にいるであろうネメシアを頭の中で睨みつけ、孔はさらに加速した。




