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第3話 騎士団長

 体感的には懐かしい王国料理を平らげた後、イシュリアと孔は先ほどの裏庭にやってきた。

 もちろん、事前の話し合い通り、レオンを呼んできている。孔は茂みに隠れて、不意打ちで仕留められればそれが一番と言う作戦だ。それが無理な場合、孔が時間を稼いでイシュリアに魔法詠唱を行ってもらうことになる。


 イシュリアがこちらに向かってハンドサインを送る。数秒後、レオンがこちらの視界に入ってきた。


「イシュリア、こんなところに呼び出してどうした?」


「いえ、あのお方のためにやることがありまして……」


 イシュリアとレオンが話し始めた隙に、魔法を構える。

 先ほどの戦闘では余裕がなかったので即座に放ったが、時間をかけて『溜め』を行えばより強力な魔法を放つことができる。

 たっぷり二十秒ほど溜めてから、スペルワードを発声する。


振動波(バイブレーション)!」


 孔は茂みから飛び出すと同時に、レオンに向けて魔法を放つ。その音を聞いて、イシュリアは即座に距離を取る。


「ふむ……」


 レオンは呟きながら、目にも止まらぬ速度で盾を取り出し、孔の魔法を防いで見せた。


「なるほど、なるほど。そう言うわけですか……いいでしょう」


 イシュリアが孔と手を組んでいると即座に見抜いたレオンは、剣を構えて強化魔法を唱える。


「止めなければ!」


「いや、イシュリアは精神魔法の解除に集中してください。あれは俺がやります」


 レオンの詠唱を止めようとするイシュリアを手で制し、孔は意識を集中させた。

 『元素(エレメンツ)』スキルの力は、四大属性を自由自在に操ることである。孔はその力を使い、土属性で剣を作り出す。

 レオンが強化魔法を詠唱する時間分だけ『溜め』が行われた土の剣は、並の鉄剣を平気で凌駕するほどの硬度を誇る。そして、魔法で生成された物質は、魔力の伝導率が高い。もちろん、ミスリルやオリハルコンのような物には敵わないが、鉄と比べれば圧倒的に高い。


「即席魔法剣ですか……その力は『元素』ですか?」


「さあ、どうだろうな?」


 レオンの問いを適当に流しながら、最後の仕上げを行う。土の剣の刃部分に、風を纏わせる。これで魔法剣の完成だ。


(一周目で持っていたミスリルの魔法剣は持ち越してないからな……少し頼りないが、問題ないだろう)


「では、行きますよ」


 レオンはそう言うと、強化魔法によって押し上げられたスピードを使って、高速で突進を仕掛けてくる。

 普通であればパリィが間に合わないスピードだが、孔は剣に纏わせた風を使って強引にパリィを行う。途轍もないスピードで繰り出された孔の剣により、レオンの剣は弾かれる。


「ふっ!!」


 もちろん孔の剣も即座には繰り出せないが、こちらは魔法剣である。

 孔は剣に纏わせた風を全て風の刃に変形させ、レオンへと殺到させる。


「ふんっ!」


 レオンは至近距離で放たれた大量の刃を、盾ですべて防御してみせた。


「中々やりますね……転移してきた直後とは思えない」


「お前こそ、騎士団長を操るだけのことはあるな」


「バレていましたか……まあいいでしょう。ここであなた方を二人とも操ってしまえばいいだけの話です」


 レオンはそう言うと、剣を構えながら魔法の詠唱を始めた。

 だが、孔はそれを見て無詠唱で魔法を発動させる。


氷縛(アイスバインド)!」


 レオンの足元から水が湧き出て、それが即座に凍る。魔力を込められた氷は、半端な力では割れることはない。

 氷に縛られながらも詠唱を止めなかったレオンは流石と言えるだろう。孔は尚も詠唱をやめないレオンを止めるため、剣を握り直して駆け出したが、一歩遅れた。


「――、雷光(ライトニング)!!」


土壁(アースウォール)!」


 電撃が孔に届く前に対抗魔法を使用したが、即席の壁は想定より脆く、電撃は壁を貫通した。


「ぐっ……!」


 雷光(ライトニング)は、その威力もさることながら、当たった時の体の痺れが一番厄介だ。『回帰』スキルのおかげで一周目のステータス値を引き継いでいる孔の耐久でも、数秒の麻痺は免れなかった。


「もらいましたよ――ッ!!」


 大穴が空いた壁を跳び上がって越えたレオンは、勝ち誇った笑みでそう言った。

 しかし、レオンの刃が孔に届く直前に、イシュリアの魔法が炸裂した。


支配解除(ドミネイト・リリース)!」


「――ッ!?」


 孔に向けて放たれたレオンの斬撃が、遅くなっていく。孔は体の痺れを感じなくなった瞬間に、体を捻らせて斬撃を避ける。


(さて……効いてくれなければ厄介だぞ)


 魔法が効かなかった場合を考慮して、油断なく魔法剣を構え直した孔だが、その心配は無用だった。


「――うぅぅッ!」


 イシュリアの精神支配を解除した時同様、レオンが頭を押さえて苦しみ出した。


「なんとかなったか……」


 呟きながら、魔法剣を砕く。

 離れていたイシュリアがこちらに近づいてきた頃には、レオンの頭痛も治ってきたようだった。


「――はぁ、はぁ……私は、何を……?」


 これもイシュリアの時同様、まだ少し混乱しているようだが、孔たちが何か言う前に状況を思い出したようだ。


「申し訳ございませんでした!!」


 レオンは剣と盾を地面に置き、土下座をしてきた。


「だっ、大丈夫ですから、顔を上げてください!!」


 孔が慌ててそう言うと、レオンは正座の姿勢のままゆっくり顔を上げた。


「しかし、私は勇者様を傷付けるという愚行を……」


「操られてたのでノーカンです。それより、誰に操られたかを覚えてたりしませんか?」


 もしも『回帰』に三周目があるのならば、情報を収集しておくことは大事だ。一周目では結局正体が分からずじまいだったので、今回は黒幕を把握しておきたい。


「いえ、あまり……あ、ですが、なんとなく禍々しい雰囲気の城のイメージが頭に残っています……」


「禍々しい城……それはこんな感じでしたか?」


 孔は思念魔法を使い、一周目の最後に見た魔王城のイメージをレオンに見せた。すると、レオンは頷いてみせた。

 つまり、王国を操った黒幕は、魔王もしくはその配下というわけか。


「なるほど……なら、王様たちの支配を解除すれば、当分は安全かな?」


「そうですね……では早速、解除しに行きましょうか?」


 イシュリアの提案に頷いておくと、レオンも剣を鞘に収めながら立ち上がる。


「そういえば、名前を言ってませんでしたね。俺は紅月孔です」


 レオンに手を差し出しながら自己紹介をする。レオンは孔の手を握り返しながら、孔に質問をした。


「コウ様、ですね。コウ様はなぜ転移直後なのにそこまで強いのですか?」


(うーん……正直に言っても問題はない、のか?)


 支配を解除した今、この二人は信用に値するだろう。

 そういう判断のもと、孔はレオンとイシュリアに『回帰』スキルについて話すことにした。


「なるほど……過去の文献には記録されていないスキルですね……」


「そうなんですね。確か、このスキルを手に入れたのは転移直後ではなかったはずです。気がついたらステータスに表示されていたので……」


 過去の勇者に関して詳しそうなレオンでも、思い当たる節はないようだ。


「しかし、魔王城に入ったところで記憶が途絶えている、ということは……もしや、コウ様でも勝てなかったということですか?」


「まあ、そうなるんだろうな……今よりもっと強くなる必要がありそうだ」


 恐らくは、前回と同様の装備があれば、レオン相手でも殺す気でやれば瞬殺が可能だろう。しかし、そのレベルの強さが三十人いて負けたということは、魔王の仲間は恐ろしく強い。


「とりあえず、このスキルについては他言無用にしてください。他の勇者たちに言うタイミングは俺が決めるので」


「わかりました」


 レオンとイシュリアの二人が頷いたのを確認して、孔はこの後の方針を決めた。


「うーんと、今から王様と王子様の部屋に行って、支配を解除するってことで大丈夫ですかね?」


「そうなりますね。流石に、勇者と騎士団長、魔法師団長の三人で行けば衛兵に咎められることもないでしょう」


「では、早速行きましょうか」


 三人は顔を見合わせて頷き、城内へと戻っていった。



ーーーーーーーーーー



 王と王子の支配解除は、あっさりと終了した。

 元々、二人とも大して強くないので手間はかかるまいと思っていたが、予想通り呆気なく終わった。


「むぅ、なるほど……魔王が王国を乗っ取ろうとしていた、と」


 この二人にも『回帰』スキルのことを共有することに決めたので、孔は自分が見た未来を王に伝えることにした。


「えぇ。王国と言うより、俺たちを支配しようとしていた感じでしたが。俺の記憶では、王様が支配系の宝珠(アーティファクト)で俺たちを支配しようと画策していましたね」


 なので王の部屋に入る時はそれなりに警戒したのだが、今回はまだ持っていないようだ。


「では、王国自体は狙われることはないと言うことか」


「まあ、俺たちが出ていけばそうなるでしょうね。ただ、俺はいいのですが、あいつらがある程度強くなるまでは見ておいてもらえると……」


 孔が王にそう頼むと、幸い王は頷いてくれた。


「もちろんですぞ。当初の予定通り、数ヶ月の間はこちらで受け持ちましょう。して、コウ様は……?」


 王の問いに、孔はしばらく唸った。

 王国での訓練は前回で全て受けているし、何よりレオンとイシュリアぐらいなら勝てるはずだ。精神魔法で少し強化の入った二人でも渡り合えたので、これは客観的な評価のはず。

 ただ、魔王城で負けているだろうと言うのは気掛かりだ。このままのこのこ魔王城に出向けば、前回と同じ結末が待ち構えているだろう。


 しばらく悩んだ後、とりあえずある程度は前回の道のりを辿ることにした。


「そうですね。当面は、前回の知識通りに動いてみようと思います。魔王関係とかで被害を被っているところは他にもあるので、そこを助けつつ、強くなっていこうと思います」


「左様ですか。お一人で行かれるのですか?」


「そうしようと思います。仲間が必要になったら、旅先で集めますよ」


 正直言って、今の亮太たちを連れ回すよりも、レオンの部下をとっ捕まえて連れていった方が強い。わざわざ仲間を連れていくよりも、必要になった時に現地で集めれば良い。


「わかりました。では、せめて装備などはこちらで準備させてくだされ」


「では、ご厚意に甘えます。明後日の朝旅立つことにします」


「それでは、明日中に必要なものを用意させましょう」


 孔たちはそれから少しだけ話をしてから、王の部屋を出た。


「コウ様、本当にお一人で大丈夫ですか?なんなら私たちが……」


 部屋を出た後、レオンがそう提案してきたが、孔は拒否した。


「いえ。レオンさんとイシュリアは、亮太たちの面倒見てやってください」


 孔がそう言うと、しかたなくと言う感じでレオンは了承した。

 それに苦笑してから、挨拶をして三人はそれぞれの部屋に戻った。


(今の十倍……いや、百倍ぐらい強くなる必要があるな)


 孔は決意を新たにしてから、眠りについた。

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