第16話 『剣』以外の剣技
(戻ったら、誰かに剣技教えてもらおう……)
剣技を扱う魔人たちと戦う中、孔はそう決意した。
これまでは、魔法剣があるからと驕っていたが、剣技は強いと思い知らされたのだ。
さて、そんな魔人たちと戦い、次は四十七階層。
「またナイフか……」
二度目の剣に続き、二度目のナイフ。
しかし、ナイフで扱える剣技などあっただろうか?前回では遭遇した記憶がない。最も、そもそも剣を扱う者との戦闘自体があまりなかったのだが……。
それはさておき。
孔は刀を抜いて、中段に構える。剣技がいつ放たれてもいいように、だ。
魔人は、右手のナイフを構える。投げの姿勢だ。
そして、剣は緑の輝きを放つ。
「投擲の剣技!?」
驚きながらも、孔は迎撃の準備をする。
光ったナイフは、魔人の手を離れて飛来し、空中に鮮やかな緑の軌跡を引きながら孔の元へと飛んでくる。孔はそれを、刀で弾いた。
「速度は速かったが……剣技にしては呆気ないな」
孔がそう呟いた直後。
弾かれてそのまま後方へ飛んで行ったナイフが、またも緑の軌跡を引きながら、今度は魔人の方へと飛んでいった。
「えぇ、それアリかよ……」
思わずそう声に出してしまう。
ナイフは、魔人の手元へ収まってからようやく光を収縮させた。
「なるほど、それで好き放題投げれるってわけか……」
孔は、今度はこちらの番とばかりに打ちかかりに行った。
それを、魔人は両のナイフを使って受ける。心なしか、技術も力も、四十二階層の魔人よりも上な感じがした。
「ふっ!」
二合、三合と打ち合っていき、段々とナイフ捌きにも慣れてくる。
そして、決定打を入れようと、孔が振りかぶろうとした瞬間――魔人のナイフが、緑色に光る。それも、二つとも。
「――ッ!」
孔は振りかぶるのをやめ、防御体勢を取る。
そしてそこから、魔人の連続攻撃が始まった。
「くっ……!」
通常のナイフ捌きでも、孔の刀より素早かった。だが、剣技で加速された剣速は、更に速い。上手く流すのが精一杯で、反撃に転じることができない。
打ち合いの回数が、二十を過ぎた頃だろうか……最後の一撃を、孔が受け止めたところで、ようやく光が消える。
「今だ……!」
その隙を狙って、刀に氷を纏わせる。
やはり、剣での戦いは、氷が良いという結論に落ち着いた。
魔人は、煌めくダイヤモンドダストを見て、即座に距離を取る。やはり、危険性は一目見ればわかるようだ。
「行くぞ――ッ!」
孔は地面を蹴って、魔人へと打ちかかる。
魔人はそれを、剣技で光ったナイフを交差させて、弾く。
そして、その燐光を放ったまま、連続攻撃を開始した。
「今度は、さっきみたいには行かないぞ……!」
先ほどとは違い、今は氷を纏わせている。このまま最後の一撃を受け止めて鍔迫り合いに持っていけば、そのまま孔は勝てる。
そして、十合ほど打ち合った末に、その時はやってくる。
「うおっ!」
しかし、魔人は最後の一撃を受け止められないために、強引に力を流した。
「流石に、知性があるか……。こりゃ、決め手に欠けるな」
孔はそう言うと、諦めて魔法を使うことにした。
極力剣でのみ、相手が剣技を使うなら魔法剣のみで相手をしようと思っていたが、剣技相手にはなかなかに勝負が難しい。
近接戦は十分上達したし、負けては仕方がないと言う判断だ。
(氷縛)
地面から氷を殺到させると同時に、自分も走る。
この魔人ならば、この魔法は効かないだろうが、作った時間は有効に活用する。
魔人が剣技を使い、自身の足を縛る氷を割ろうとしたその瞬間――。
(氷固!)
今度は、魔人の腕の関節が凍る。
剣技は、力の行き場を失って強制的にその光を消した。
「もらった――ッ!」
そのまま動きを止めた魔人の首に向けて、一閃。
首はくるくる回って地面に落下し、そのまま崩れ去る。
「ナイフの剣技があるってことは、槍と大剣もか……」
孔は先を思いやりながら、刀を鞘にしまった。
ーーーーーーーーーー
その後一度だけナイフ魔人と戦い、次は四十八階層。
孔の予想通り、現れた魔人が手に持つ武器は、槍だった。
「前回は呆気なかったけど……剣技があるなら、もう少し手応えがあるよな?」
半ば煽るようにそう言いながら、孔は刀を抜く。
感情の起伏が一切なさそうな魔人相手に、煽りが効くのか……。しかし、そんなことを突っ込む相手は、ここにはいない。
孔の煽りは虚空に消えた。
「来いよ」
孔は刀を中段に構えながらそう言う。
どういう動きをしてくるかわからない剣技相手には、様子見で防御。これが、剣技相手に戦う時に、孔が決めたことだ。
魔人は孔の挑発通りに――恐らく意に介していないだろうが――槍を青色の光に包む。
そしてそのまま、目にも止まらぬ連続突きが襲いかかった。
「うおっ……!」
自分に向かってくる突きというのは、一つの点でしかない。
それを弾くのは、速度が速ければ速いほどかなりの難度……孔は当然ステップ回避を選択するが、段々通路の端に追いやられていく。当然だ、突きを避けるのに、一回目と反対方向に避けるわけにはいかない。
「くっ……!」
端に追いやられる前に、孔は行動に出た。
具体的には、風で刀を跳ね上げることにより、全力の突きを弾いた。
キィン!と金属音を鳴らし、槍は青の軌跡を引きながら、孔の頭上へと上がる。
そしてそのまま、孔は懐へと潜り込む。
剣技を中段させられた槍は、青の光を急速に収束させていた。
「フンッ!」
槍による妨害を受けずに、孔は滑らかに首を斬り落とす。
「やっぱり、今回もちょっと呆気なかったな……槍って実はあんま強くない?」
それは、主に槍を扱っている衛兵の皆さんに謝った方がいいだろう……きっと、魔人たちの槍の扱いが悪いだけなのだ……。
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続く四十九階層。
こちらも、予想通り、扱う武器は大剣だった。
遭遇した直後、孔は刀を抜く。
……最初から抜いておけばよかったのでは?
と、今更ながら思ったが、気にしては仕方がない。様式美というものだ。きっと。
「おっと!」
そんなことを考えている間に、まだ間合いの外なのに、魔人の持つ大剣が茶色に輝いた。
ナイフみたいな投げ技……ではなさそうだ。ならば、射程が伸びるタイプか。
という孔の予想通り、魔人が大剣を振るうと、飛ぶ斬撃がやってきた。
「ッ!」
(射程が伸びるとは思ってたけど、斬撃飛ばしてくるのは想定外……)
なんとか直上にジャンプして避けると、孔は距離を詰める。
遠距離攻撃の手段がある相手に、距離を取っておくのは悪手だと思ったからだ。
魔人は、迫ってくる孔を見やりながら、大剣を大上段に構える。数瞬後、大剣は茶色の光を放つ。
そして、大剣は孔へと振り下ろされる。
(受け止めるのはきつそうだ……!)
孔はそれを、右に跳んで避ける。
しかし――。
「うおっ!?」
地面に打ち付けられた大剣から、衝撃波のようなものが広がり、孔の体勢を崩した。
その瞬間を、魔人は見逃さずに攻撃する。
「くっ……!」
なんとか刀で止めたが、大剣なだけあって途轍もなく重い。
刃の腹に手を当てながら受けているが、それでも厳しい。
「……ッ!」
なんとか数秒耐え、剣技の光が消えた瞬間、刀に氷を纏わせる。
魔人はそれを見て、一度鍔迫り合いをやめ後方に下がる。
「行くぜ!」
声を上げながら、再度距離を詰める。
魔人は、走ってくる孔を見ながら、落ち着いて構えを取る。炎神流『焔牙斬』と似て非なる構えだ。
「――ッ!」
無言の気合と共に、襲いかかる大剣を止める。恐ろしく重い一撃だったが、なんとか受け止めることに成功した。
「オォォォ!!」
雄叫びを上げながら、孔の腹を斬ろうと力を込めてくる大剣を押し返す。
大剣は徐々に押し返されていき……剣技の光が収縮して、消えた。
その瞬間、パキパキ、と何度も聴いた音を鳴らしながら、大剣が凍っていく。
「ハッ!!」
大剣が大きいせいで、手まで凍らせることが叶わなかったため、力を込めて氷ごと大剣を割る。
ガシャーン、と気持ちの良い破砕音を鳴らしながら崩れていく大剣を見ながら、孔は魔人の懐に入り――首を斬り落とす。
「やっぱ、氷の魔法剣って結構な反則だな……」
魔人の首を見やりもせず、そう呟いた孔は、そのまま歩き出す。
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「さて……ようやくか」
体感時間で、五時間ほどだろうか。
六回ほどの魔人との戦闘を経て、孔はついに五十階層の大扉――つまり、この迷宮のラスボスの部屋へと辿り着いた。
「行くか」
軽く装備を確認して刀を抜き、孔は大扉に手をかけた。




