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異世界転移2周目なので頑張ろうと思う  作者: しぃ
第2章 エルフの里編
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第14話 更に下へ

 時人形を倒してしばらくして。

 孔は、上がるか下りるか、その選択に悩まされていた。

 そもそも、この迷宮に潜ったのはスキルの『覚醒』をするため。当初の目的である『元素(エレメンツ)』スキルの覚醒は済んだ。ならば、これ以上深く潜ってもあまり意味はない……のだが。

 最下層まで潜れば、地上まで転移できるという話である。正直、ここから四十階層分上っていくよりも、そちらの方が早いのではないのだろうかという感じだ。

 そして、付け加えて言えば……覚醒したとて、時人形相手は結構ギリギリだった。ならば、もう少し強くなっておきたいところである。危険ではあるが、危険な道を歩まなければ強くなることはできない。


 時間にして一時間ほど、うんうん唸りながら悩んだ末、孔は更に下へと潜ることを決意した。

 勝てないと判断したら、すぐに地上へと戻ることを絶対条件として。



ーーーーーーーーーー



「『元素体(エレメンタルボディー)』」


 選択したのは風だ。移動のしやすさもあるし、攻撃も回避しやすい。

 緑色の光が孔へと纏わりつく。この光、多分敵の魔法とか見るのに役に立つのだろうが、普段から見えるのはどうも落ち着かない。多分、エルセリア辺りが解決策を知っているのではないだろうか……。

 そんなことを思いつつ、刀を鞘から抜いておく。予想では、間も無く敵がやってくるはずだ。


 刀を構えて数秒後、曲がり角から剣光が煌めく。


「ッ!」


 刀を勢いよく立ててそれを防ぐと、密着した鍔迫り合いの中、敵の正体が露わになる。


「人……?いや、亜人……か?よくわからんな……」


 パッと見は人間なのだが、顔に生気はないし、若干肌が黒というか……闇色とでもいうのだろうか?紫がかっているように見える。

 それに、先ほどから光がこいつを避けている。恐らく、普通の人間であればそんなことはないと思うので……やはりこいつは、人間ではないのだろう。とはいえ、亜人と言えるものではない。

 亜人は、決して人に敵対するものではない。なぜなら、ドワーフやエルフなどは、一応分類としては亜人に入る。なので、目の前のこいつは……魔人と仮称しておこう。


 魔人は、鍔迫り合いは分が悪いと見たが、勢いよく剣を離すと、連続突きを放つ。

 『元素体』状態なので避けなくてもいいのだが、なんとなく剣から禍々しい気を感じたので、ステップ回避で避ける。二連、三連と続いていく突きを慎重に見極めながら避けていき――。


「ここ!」


 連続突きの五連撃目、孔は勢いよく刀を跳ね上げ、魔人の剣の腹を叩く。

 剣は火花を散らしながら弾かれ、孔の頭上を通る。


「ふっ!!」


 気合と共に、今度はこちらから突きを放つ。ガラ空きの魔人の胸に、刀が突き刺さる。

 自身の風も利用した高速の突きによって、魔人はそのまま後方へと吹き飛ぶ。心臓を深く突き刺したはずだが……魔人は剣を支えにしながら立ち上がった。


「うーん、やっぱり首を落とさないとダメか……」


 人間でない時点である程度想定していたが、やはり人と同じ姿をしたものが、心臓に穴をあけられて動いている様は不思議だ。

 そんなことを考えていると、魔人が再びこちらへと向かってくる。今度は突きではなく、単純な縦斬りだ。


「ハァッ!」


 こちらも縦斬りで返し、敵の連撃を防ぐ。一合、二合と打ち合っていくうち、孔も魔人も、剣速がどんどん上がっていく。

 思えば、これまでは魔物との戦闘ばかりで、剣での打ち合いはあまり多くなかった。


「ふ……」


 気づかないうちに、孔の顔には笑みが浮かんでいた。もちろんそれは、嘲笑ではなく、戦いを楽しむ笑みだ。

 本人の意図せぬうちに、戦闘狂(バトルジャンキー)への道を歩み始めているのだろう……。


 超高速の剣戟。打ち合いの数が三十合を超えたあたりか。それまでは、どちらも打ち合うたびに速度が上がっていったが、魔人の剣速が落ち着いてきている。対する孔は、まだまだ剣速が速くなっていく。


 そして、孔が繰り出したこれまでで最速の一撃が、魔人の剣を弾く。刀はそのまま腕へと向かい、魔人の左腕を切り飛ばす。


「片腕がなくなれば、厳しくなるだろ?」


 そこからは、攻守交代して、孔が攻めへと回った。

 しかし、それは長くは続かなかった。元々、両手で振るっていた剣を片手で握っていた魔人は、孔の速度に対応しきれていない。

 十合も続かないうちに、魔人の剣は弾き飛ばされ、その手から離れていく。


「ハァァァッ!!」


 気合一閃。孔の刀は滑るように魔人の首へと入り、その首を斬り飛ばす。


「ふぅ……」


 核を破られたゴーレムのように崩れていく、魔人とその剣を見ながら、刀を鞘へとしまう。


「今の感じで、こっから九階層かぁ……疲れるな」


 呟きながら、『元素体』を解除して水を飲む。

 持久力の重要性は理解しているため、普段からそれなりに鍛えてはいるが……全力の剣戟はやはり疲れる。適度に休憩を挟みながら進んだ方が良さそうだ。


 水分補給をして息も整え、孔は再び歩き出す。



ーーーーーーーーーー



 それから四回ほど、魔人との戦闘を挟み、孔は無事四十二階層へと下ってきた。


 そして、四十二階層初の戦闘。魔人は今度も、剣での戦いだと思っていたのだが……。


「ナイフ……」


 孔の目の前に現れた魔人は、ナイフを両手に一本ずつ持っていた。


「なるほど、階層ごとで武器が変わる感じか……?」


 推測しながら、こちらも刀を抜く。今度は、『元素体』は発動しない。あれは体力をかなり消耗するし、純粋な剣の技術を高めたければ、使わない方が良さそうだ、という結論にたどり着いたためだ。


(『ナイフのようにリーチが短い相手は、懐に入らせないこと』……だったか?)


 前回の周回で、レオンに教わったことを脳裏で反芻しながら刀を構える。

 一度懐に入られれば、より取り回しが早く短い方が有利なのは自明だ。槍と比べるのが最もわかりやすいだろう。槍を持つ相手に、ナイフで至近距離まで近づけばどうなるか?槍は思うように触れず、対してナイフは好きに切り刻める。そういうことなのだ。



 魔人は、やはり懐に潜るため、こちらへと全力で疾駆する。

 孔はゆっくり後退しながら、刀を低く置く。刀ではナイフの速度に勝てないのは当たり前なので、仕掛けられる前にこちらが攻撃する方がいいだろう。


「ハァッ!」


 魔人が刀の間合いに入った直後、孔は後退を止め縦斬りを放つ。

 元々刀を低くしていたこともあって、魔人は避ける時間はないと見て、ナイフを交差させてガッチリと受け止める。

 速度で勝てないのなら、力で勝てばいい。孔は刀を押し込み、魔人は次第に膝をつく。


「ふっ!!」


 魔人が押し返してきたところで、孔は刀を流した。ナイフに力を込めていた魔人は、勢いよく体勢を崩す。

 そのまま、ガラ空きになった首に刀を――。

 カキィン!と甲高い金属音を響かせながら、孔は刀を振り抜く。当たったのは……暗闇から飛来してきたナイフ。


「新手か……」


 足元で未だ体勢を崩す魔人を、片足で蹴りながら呟く。

 もう一人の魔人は、ナイフを片方投げたため、一本だけを構えてこちらにゆっくりと近づいてくる。


「面倒だな……」


 流石に得物を完全に失いたくはないだろう、と判断して、孔は足元の魔人の背中を突き刺す。チラリと新手を見ると、こちらに走ってよってきていた。

 首は落とせないとみて、孔は魔人の両手を思い切り踏みつけ、手から離れたナイフを蹴っ飛ばす。これでしばらくは、この魔人は動けないはず。


 背中に刺さった刀を勢いよく抜き、新手の魔人のナイフを受ける。

 弾けないか何度か試すが、うまい具合に攻撃を流してくるので、なかなか成功しない。やはり、正面から力でねじ伏せるのが早そうだ。

 孔はそれまで放っていた斬撃から、連続突きへと移行する。五度ほど突きを放ち、魔人の意識を完全に突きに向かせたところで、続く六撃目を下段からの斬り上げに変更する。


 突きを防ごうとナイフを構えていた魔人の右手首を、跳ね上がった刃が斬り飛ばす。そのまま返す刀で流れるように首を斬り飛ばす。

 首の飛んだ先を気にも止めず、孔は振り向いてもう一人の魔人を見やる。

 こちらはようやくナイフを拾ったようで、立ち上がるところだった。


 孔は空中をくるくる回っていたナイフを右手で掴み、魔人へと投擲する。そしてそのまま、ナイフの後ろを走る。

 魔人がナイフを弾いた瞬間、孔は飛び上がって大上段から斬り込む。

 全体重を乗せた一撃は、交差して構えられたナイフを押し込んで、魔人の頭を斬り裂く。両断には至っていなかったため、魔人は死なない。

 だが、孔は地面に打ち付けられた刀を、その反動で跳ね上げ、そのまま滑らかに首を斬り落とした。


 塵となって崩れていく魔人の体を見やりながら、孔は深呼吸して刀を鞘にしまった。

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