表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移2周目なので頑張ろうと思う  作者: しぃ
第2章 エルフの里編
13/43

第12話 時の人形

「ふぅ……」


 孔は、三十九階層への階段を下ると、一息ついた。

 ここまでの階層は、属性ゴーレムまみれで、基本的に対抗属性の魔法でなんとかなった。


 しかし、どうやらこの階層は一味違いそうである。


 その予感のようなものを裏付けるように、一体のゴーレムが姿を現す。


「ハァッ!」


 孔が先制で突き技を放つ。しかし、ビリビリ、と電気のようなものが刀を伝って流れる。


「ぐっ!!」


 体にまで電流が達し、刀が手から離れて落ちる。

 雷人形(サンダーゴーレム)とでも呼ぶべきそれは、麻痺した孔へと向けて雷の光線を放つ。


「ぐあああ!!」


 雷は孔の胸へと当たり、ローブに穴をあけ胸を焼いた。


氷縛(アイスバインド)!」


 孔は体が動くようになると、即座に魔法を放つ。雷人形の足元から殺到する氷が、その動きを封じる。


氷槍(アイシクルランス)!」


 孔の掌から生成される氷の槍は、何度も何度も雷人形の体を穿つ。

 連続して数十本も放たれた氷の槍は、雷人形の核へと達し、それを割る。それにより、雷人形はその機能を停止した。


 孔は息を整えてから、地面に落ちた刀を拾う。

 何者かの気配を感じたので、鞘に戻さずに構えるが、周囲には敵影は見当たらない。


探知(スキャン)


 魔法により索敵を行うが、反応は特になし。気のせいか……と思い刀をしまおうとした時、孔の足元の影が揺らいだ。

 違和感を感じてすぐに飛び退くと、孔が立っていた位置にあった影から、黒色の巨体が姿を現す。


影人形(シャドウゴーレム)、ってとこか……」


 孔は刀を握り直すと、影人形に向けて接近する。しかし、影人形は奇襲に失敗したためか再度影へと潜っていく。


閃光弾(フラッシュバン)!」


 孔は目を閉じながら魔法を発動させる。掌から発される眩い光は通路を照らし、一切の影を消す。

 光が収まった直後に目を開き、影から排出された影人形へと刃を突き立てる。


「くっ!」


 しかし、まるで手応えがない。やはり、光が必要なようだ。

 とはいえ、孔は光魔法を扱うことはできない。なので、先ほどのように火魔法で代用するしかなさそうだ。


多灯火照明(ファイアシャンデリア)


 掌から炎でできたシャンデリアを生成し、空中に浮かべる。これで影は孔の真後ろぐらいしかないはずだ。

 次に、刀に手を翳して火を纏わせる。先ほどは手応えがほとんどなかったが、これなら傷を負わせることができるだろう。


 火炎を纏った刀を慎重に影人形へと向ける。影人形は、それを見ながらジリジリと間合いを詰める。

 不意に、影人形の目が光った。


「なっ!?」


 孔の視界が真っ暗になる。いや、正確にいえば、手元にある刀が発する炎は微かに見える。つまり、通路を暗くしたのではなく、暗くしたのは孔の視界――。

 そう認識すると同時に、孔は真後ろへと刀を振り抜いた。

 今度は確かな手応えを感じた。徐々に明るくなる視界は、影でできた巨体が欠けているのを写した。


紅蓮(クリムゾン)


 至近距離から火魔法を放つ。蓮の葉模様に燃え上がる炎が、影人形を焼く。

 影人形は飛び退くが、孔は風を噴射してそれを追う。シャンデリアから離れていき、影に潜ろうとする影人形。


「ハァッ!!」


 既に巨体の半分ほどを影に潜らせていた影人形に、刀を振り下ろす。

 刀に纏わりついていた炎はそのまま影を焼く。炎は数十秒間も燃えていたが、次第にその勢いを弱め、影ごとその姿を消していた。


「倒した……のか?」


 影は消えているし、辺りを見回しても姿は見当たらないので、倒したということで良いのだろう。

 核も割っていないし大した手応えも感じなかったが、影人形は無事倒せたようだ。



ーーーーーーーーーー



 そんな風にしながら三十九階層を攻略し、孔はボス部屋の大扉へと辿り着いた。

 ローブの胸の部分に穴が空いたままであるが、修復する手段も替えのローブもないので、そのままで行くしかないだろう。

 念の為、一通りの支援魔法をかけてから、孔は大扉を開いた。


「時計……?」


 ボス部屋の中央に居座っていたのは、時計のようなものを体に張り巡らせた巨大なゴーレムだった。そのサイズは、孔の四倍ほどはあるだろうか。

 ゴーレムは、掌に貼られた時計をこちらへとかざす。その時計につけられた二本の針は、時計から離れ、そのサイズをどんどん大きくしていく。


「ッ!!」


 悪寒を感じ、反射的に横に飛ぶ。

 その時、ゴーレムの手の先へとあったはずの針が、突如として孔の視界から消えた。


「……は?」


 なんとなく、予感を感じて後ろを振り向く。そこには、地面に突き刺さる二本の針が。


 どうやら、その姿からある程度予想していたことだったが、このゴーレムの能力は時を止めることのようだ。


時人形(クロノゴーレム)……」


 恐らくそれが、このゴーレム階層のボスの名だった。

 孔は敵を恐れるように呟きながら、対抗策を考えていた。


(時間停止系の能力への対抗策は……射程距離の範囲外へと逃れるか、相手がこちらを攻撃できない状況を作り出すことぐらいか?)


 脳内に、日本で見た漫画を思い浮かべながらそう判断する。

 どちらも、ある程度敵が時を止めるタイミングを見計らう必要があるが、これまでのゴーレムたちのように目が光ると言った事前動作は見られなかった。時間を稼ぎながら、事前動作を見つける他なさそうだ。



氷固(アイスロック)!」


 孔は、時人形の胸にある一際大きな時計を凍らせた。時人形の時間停止が、その体表にある時計によるものであれば、一番大きい胸の時計がそれだろうとの判断からだ。


大氷山(アイスマウンテン)!」


 時人形の両足に向けて、二発魔法を放つ。これにより、少しの間は動きが止められるはずだ。

 動きを止めたので、攻撃を仕掛けようと孔が刀を構えた時、胸の氷がパキパキ、と割れ始める。


(割られるとは思っていたが……予想よりも早かったか)


 驚くべきは、腕を使わずに氷を割ったことだろう。凍りながらも時計が動いたのか、はたまた別の能力か。

 だが、これまでの孔の攻撃を時間停止によって避けなかったということは、やはりあの時計が力の正体なのではないだろうか。


 という孔の予想は、当たりだったようだ。

 次の瞬間、足元の氷が一斉に砕け散った。


「なるほど……少し分かってきたぞ」


 低く呟きながら、一度距離を取る。

 どうやら、時間が止まる少し前に、胸の時計の針の回る速度が速くなるようだ。そして、時間停止が終了すると同時に元の速度へと戻る。つまり、あの針を注視している必要があるということだ。


大瀑布(カタラクト)!」


 時人形の頭上から、大量の水が降ってくる。狙いは水圧による攻撃ではなく、針の動きを止めることだ。


「……氷結波動(フロスト・ノヴァ)


 一瞬の集中を挟み、氷系の高位の魔法を放つ。

 度重なる迷宮内での戦闘のおかげで、魔法の行使速度は着々と上がってきているようだ。

 そんなことを思いつつ放った氷結の魔法は、狙い通りに時人形の動きを止める。


「シッ!」


 気合いを迸らせながら、前方へと疾駆する。時人形が再び動き始めるまでが勝負だ。

 全力で走りながら、刀に炎を纏わせる。これも、度重なる戦闘によって可能になった技だ。


「ふんっ!」


 風魔法の助けを借りつつ、全力の跳躍で時人形の胸の高さまで跳ぶ。


「ハァァッ!!」


 気合と共に、刀を一閃。カシャァン、と気持ちの良い破砕音を鳴らしながら、氷が砕け散る。そして、それとともに胸の時計の針が欠ける。


(思ったよりも硬いな……)


 心の中で呟きながら、油断なく魔法を放って距離を取る。


爆風(ウィンドバースト)!」


 爆風の反動で、空を跳ぶ。その時、時人形の胸の時計の針が加速し始める。


「まずっ……」


 反射的にそう呟いたが、止める手段はない。精一杯距離を稼ぎながら、その時を待つ。

 約一秒後、時人形の動きを封じていた氷が、全て砕け散った。


 だが、分かったこともあった。針が欠けたことによって、時間停止が発動するまでの時間は長くなっている。

 勝機はある……と思ってニヤリと笑った孔だったが、その笑みは時人形の次なる行動によって消されることとなった。


 全身の時計が、音を鳴らしながら勢いよく回転し始める。


「な……」


 これまでよりも長い時間停止、そう判断して、後ろへと跳躍して距離を取る。しかし、孔が着地した頃には、針の回転は止まっている。

 止まっているのだが……その回る速度は、それまでよりも早いように感じた。


「まさか……ッ!」


 気づいた時には、時人形がこれまでの数倍の速度でこちらへと向かってきていた。


「くっ!!」


 時人形の拳が僅かに揺らぐのが見えて、反射的に刀を前に構える。

 次の瞬間、孔の体は勢いよく後ろに吹き飛ばされた。


「がっ……!」


 速度だけでなく、そのパワーも明らかに上がっている。

 血を吐きながらそう認識し、刀を支えに立ち上がる。


(そうか……これがあの時の感覚か)


 目にも止まらぬ攻撃。恐らく、それを防ぐことはできたのは、死の経験であろう。

 この状況で、孔は『回帰』スキルが発動した瞬間の出来事を思い出した。認識すらできない斬撃と、直後の表現できない感覚。


「あれに比べれば……まだ勝てる相手だな」


 孔は薄い笑みを浮かべ、刀を構え直した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ