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 ばかな。僕なんかのために矢野がそんなことするもんか。  ふざけないでよと言うのが関の山さ。

 でも実際はそうはならなかった。


「わかった。何でもするから智樹クンを許してください」

 矢野は僕と男達の間に立って、躊躇することなく上着を脱ぎ捨てたのだった。

 そしてジャージのズボンに手をかける。本気なのだ。


 やめろ。そんな奴の言う事なんか聞くな。

 僕のかすれた声は彼女の耳にも届かない。 

 もう駄目だ。

 ヒーローは現われない。


 和夫が来てくれればと思ったけど、仮に来たとしても五人組にはかなわないだろう。

 僕は押さえつけられて、彼女が乱暴されるのを見守るしかない。悔しくて情けない。

 しょっぱい雫が僕の頬を流れていた。


「智樹クン心配しないで、あたし・・・・・・こんなのなんとも思ってないから」

 矢野の声は無表情というか無感動な声だった。


 青白い満月の光の下で、矢野はブラジャーを外した。

 まだ成長段階の小さ目の乳房は、つばを飲む男たちの目の前にあらわになった。

 シミひとつない磁器のような滑らかな曲線だった。


 見ちゃいけないと思っても視線を外す事が出来なかった。

 磁石に吸い付く砂鉄のように彼女の胸に吸い寄せられた。

 下はジャージも脱いで薄いパンツ一枚だ。


「ほら、最後の一枚ももったいぶらずに脱いでしまいな」

 僕を押さえつけている一人を除いて、男達は薄笑いしながら彼女を取り囲んでる。


「こっちの坊主も裸に剥いて、二人で一発やらせるってのも面白いかもしれないな、どうせ童貞なんだろおまえ」

 うつ伏せにされた僕の背中にまたがる坊主頭が僕の頬をはたいた。


「ちょっと待ってよ。裸になって踊ればいいんでしょ。それ以上は何もしないでよ」

 矢野は釘をさすように言った。


 仮に約束を取り付けたとしても、そんなの意味の無い約束だろうに。

 この連中がそれだけで終わらせるなんて、考えられないじゃないか。


「それはおまえ次第じゃないのかな。俺たちを楽しませて満足させられればよし。満足させられなかったらそれ以上の事をして貰うさ。俺達を十分を楽しませてくれたら、それだけで許してやるよ」

 坂崎はポケットからタバコを取り出すと一本咥えて火をつけた。


「俺達は面白いことに飢えてるだけなんだよな。おまえらに恨みがあるわけでもないしな」

 坊主頭の言葉に他の三人は少し不服そうだったが声には出さなかった。

 フンとつぶやくと、矢野はパンツをあっけなく脱ぎ捨てた。


 股間に薄く生えた陰毛が、微かな風にふわりと浮き上がる様が眼に焼きついた。

 微かな青白い光に満ちた薄暗い世界のなかで、濡れたような肌をした少女が両手をすっと持ち上げた。


 爪先立ちになった彼女は、まるで糸に吊るされた操り人形のように見えた。

 バレエでも習っているのだろうか。

 その矢野が動き始める。緩やかに、時に激しく。


 月明かりの下で舞う白い妖精だ。両手を交差させたり身体を回転させたり、全裸を恥じることもなく脚を開いて身体を沈めたり、そんな滑らかな動きは無音の空間に静かな音楽を奏でだした。

 満月の妖精だと僕は思った。

 風の通り過ぎる音がバイオリンの音色に感じられた。


 伸びやかな足としなやかな腕。

 それらが風が作り出す音楽に合わせて軽やかに舞っている。

 かっと頭に上っていた血が引いて、僕の頭が冷たい氷のようになる。

 音楽や小説で感動した経験は何度もあったけど、踊りを見てこれほど心を打たれたのは初めてだった。


 不良たちにはどんな風に見えたのだろう。

 横目で見た感じでは皆あっけにとられたように見つめているだけだった。



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