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「こんな夜中に仲良くデートかよ、中坊の分際で生意気なんだよなあ」

 笑いを含んだ声だった。

 青白い顔をした目つきの鋭い声の主は、不意に木陰から現われた。


「さすが坂崎さんですね、こいつらがこっちに逃げてくるって良くわかりましたね」

 もう一人の坊主頭が、最初の男にそう言いながら携帯を取り出す。


「コンビニに止まったバイクを見ても引き返さなかった二人だからな。それに、普通は逆方向に逃げると思うだろ、こいつ等裏をかいた気でいたんだぜ」

 頭の中が熱湯を注がれたみたいに、かっと熱くなる。どうしていいかわからない。

 自転車を置いて階段を駆け上がろうかと思ったが、矢野を置いていくわけにはいかない。


「おう、やっぱりこっちだったぜ、早く来い」

 坊主頭が携帯で話している相手は、反対側で待ち伏せした三人なのだろう。

 結局どっちに行っても同じだったわけだ。


「そこどいてください、通れないでしょ」

 強気な矢野の声が聞こえた。


 近くで見ると、不良達は高校生くらいに見える。背丈は皆百八十センチ近いし、がっしりした体型はとても肉弾戦で勝てそうな相手じゃない。


「気の強い女だなあ。自分の立場がわかってるのかい」

 坊主頭にしている顎の張った男が言った。しゃべり方なんてとても高校生には思えない。

 テレビで見るやくざかチンピラの台詞だった。


「今日はラッキーだったな。ピチピチの美少女をみんなで女にしてやるぜ」

 ほら、こっちに来いよと坊主頭に腕を引っ張られて、抵抗するまもなく矢野は公園側に引きずられていく。

 矢野に預けていた僕のMTBが倒れて金属的な音が響いた。

 割れたライトの破片が遠い光を反射しながら僕の足元に飛んできた。


「いや、止めてよ変態」

 抵抗する矢野は、坂崎と呼ばれていた男と二人がかりで両脇をつかまれて引かれていく。

 僕は矢野のMTBにすばやくまたがると、矢野を捕まえている坊主頭に向かって思い切りこぎだした。


 後輪に体重を持っていってフロントタイヤをアップするとそのまま体当たりだ。

 油断していた坊主頭が背中を突き飛ばされて前にぶっ倒れた。


 僕の突然の反撃で隙ができた。自分ひとりなら突破できる。

 一瞬このまま逃げてさっきのコンビニに向かおうかという考えがよぎる。

 そこで助けを呼べばいいのでは?


 しかしバランス崩して倒れる自転車から飛び降りて、僕は思い切り向かっていった。

 僕が逃げた後彼らがこのままここに居る保証は何も無いのだ。

 それに、なんと言っても矢野を置いて逃げるところを見られるのは嫌だった。

 勝てるかどうかなんてどうでも良かった。


 このまま矢野を連れて行かせることだけはどうしても止めないといけない。それだけ考えて、突っかかっていく。

 しかし攻勢だったのは最初の一撃だけだった。

 喧嘩慣れした二人組の男達に、僕なんかがかなうわけがないのだ。


 おらおら、だらしないぜ。女を守りたいんだったら根性でかかってこんかい。

 ほら、もう一発お見舞いだ。僕は立ち上がるたびに柔道の技で地面に叩きつけられた。

 口の中には鉄さびの味が広がっている。


 止めてよ。ひどいわよ。もう許してよ。

 そんな矢野の声も彼らの罵声も、頭の中の洗濯機でぐるぐる回っているようだった。

 身体がだるくてあちこち擦りむいた。関節も痛くてどうにも立てなくなってしまう。

 吐き気がして、苦い胃液を何度か吐いた。


 僕がどうにも立てなくなってへばっていると、バイクの爆音が聞こえてきた。

 反対側を見張っていた仲間が到着したのだ。

 いよいよ絶体絶命。逃げるなんてまったくの望み薄になってしまった。


「こいつを許して欲しかったら、おまえ、此処で裸踊りしてみせろよ」

 五人の不良全員がそろったところで、坂崎という男が矢野に向かって言うのが聞こえた。



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