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ふと夕陽から目を離して病棟の廊下を見ると、ちょうど矢野が病室のドアを閉めているところだった。
きょろきょろしているうちにやっと僕を見つけて、ゆっくり歩いてくる。
扉を開けてやると、矢野も非常階段の踊り場に出てきた。
目が赤い。
いっぱいに溜まっていた涙が、風に吹かれて流れ落ちた。
僕は黙ってハンカチを差し出す。
「鼻にチューブ入れられてたよ。でも案外意識はしっかりしてた。あたしを見てすごく嬉しそうだった。あんな顔はずっと前に見たきりだったわ」
太陽の沈んでいく様を見ながら矢野が静かに言う。
また風が吹いて矢野のスカートを軽く持ち上げた。
「やだ、エッチな風ね」
泣き笑いする矢野。
「風が強いな。帰ろうか」
扉のノブに手をかける僕の後ろで矢野がつぶやく。
「あたし、智樹クンに謝らないといけないね、それと和夫クンにも」
「何の事かわかんないよ。行くぜ」
僕らは病棟の廊下に戻り、エレベーターで一階まで降りた。
受付カウンターの前を通って正面玄関から外に出る。
歩道に植えられた並木の枯葉が、くるくる回りながら僕達の前に落ちてきた。
「ありがとう」
矢野の言葉が耳元でした、と同時に無粋なバイクの爆音がかぶさる。
左から茜色に染まった四台の改造バイクが、爆音の割にはのんびりしたスピードで走ってきて通り過ぎていく。
四台のバイクのうち最後のバイクは二人乗りだった。
四台と五人か。
「あれ、この間の連中かもね」
そうかもしれない。
僕は矢野と二人で行った夜中のサイクリングの続きを思い出す。