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五胡転戦記  作者: 八月河
劉石冉漢趙魏
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将軍林暁と、三万の軍

葛陂での一件以来、林暁と石虎の関係は劇的に改善されていた。石勒は林暁の才を確信し、彼を正式な将軍として任じ、千人の兵を与えた。石勒の狙いは明らかだった。林暁に軍を率いることに慣れさせ、彼を自らの片腕とすることだ。林暁に任されたのは、主に後方での任務だった。


「林暁将軍、兵の訓練を任せる。まずは、わが軍の規律と戦術を学んでくれればよい」


石勒はそう告げたが、林暁の心はすでに新たな目標に向かっていた。


(千の兵……。この命の重みは、俺が永嘉の乱で失った全てだ。あの時、俺が守れなかった多くの命……その無念を、この兵たちに重ねてはならない。俺は、もう二度と、無力な自分を見たくない。この兵たちを、決して死なせるわけにはいかない……)


林暁は、ただ兵を訓練するだけでなく、与えられた任務に独自の解釈を加えた。それは、輜重の安全確保を名目とした、群盗討伐だった。それは単なる任務遂行ではなく、林暁が自らの内なる使命を見つけるための、静かな戦いでもあった。


林暁が率いる千人の兵は、石虎の軍とは対照的だった。規律は厳しく、略奪は一切許さない。林暁の軍は、盗賊に苦しむ村々を徹底的に巡回し、その根拠地を突き止めては、的確な戦術で討伐していった。

ある日の夕暮れ時、林暁は数百の盗賊が立てこもる山賊の砦を包囲していた。兵士たちが一斉攻撃を主張する中、林暁は冷静だった。


「林暁将軍、今です! 敵は我らの存在に気づいておりません! 攻め込みましょう!」


部下が興奮して叫んだが、林暁は静かに首を振った。

「待て。正面から攻めれば、我らにも犠牲が出る。それに、奴らの命を奪う必要はない」


そう言うと、林暁は静かに弓を構え、一人で山賊の頭を射抜いた。矢は、山賊たちの動揺の中心に、見事に突き刺さった。


「隊長を失った山賊は、規律を失い、互いに潰しあう。我々は、その混乱に乗じて、生き残った者たちを捕らえればよい」


林暁の言葉通り、砦の中では、頭を失った山賊たちが仲間割れを始め、同士討ちを繰り広げた。林暁の軍は、最小限の犠牲で山賊たちを捕らえた。


盗賊を討伐するたびに、林暁は彼らに二つの道を示した。一つは、己の罪を償うために林暁の軍に加わること。もう一つは、武器を捨て、農地を与えられて耕作に励むこと。


「お前たちは、この乱世の犠牲者だ。だが、もう過去に囚われる必要はない。俺の軍に加わるか、あるいはこの地で、新たに生きるか……。どちらを選んでも、お前たちの命は、もう盗賊として終わることはない」


林暁は、元盗賊たちをただの兵士として扱うのではなく、彼らの持つ独自の知識や技能を活かした。斥候として敵の情報を探らせ、あるいは地形を熟知している者には道案内をさせた。そして、彼らを厳しく鍛え上げた。


「お前たちが生き残るためには、規律が必要だ。自分の命を守るため、仲間の命を守るため、そして、お前たちを信じてくれた村人たちを守るため、俺の命令に従え!」


林暁の言葉は、彼らの心に深く突き刺さった。林暁の評判は、瞬く間に広まった。


「林暁将軍の軍は、略奪をしないそうだ」


「盗賊を退治してくれた上に、食料まで分けてくれた!」


「林暁将軍は、俺たちに生きる道を示してくれたんだ!」


村々から集まる流民は、林暁の軍に救いを求めた。林暁は彼らを兵として受け入れ、生活の糧を与えた。


(生きるために戦う……。この兵たちには、失うものなど何もない。だが、守るべきものができれば、彼らはどこまでも強くなる……。この絶望の時代に、彼らが希望を持てる場所を、俺が作らねば……)


その結果、林暁の軍勢は、わずか数ヶ月のうちに三万にまで膨れあがった。千人の兵しか与えられなかったはずの林暁が、石勒の本隊に匹敵するほどの兵力を持つに至ったのだ。


林暁の軍が三万にまで膨れあがったという報告は、石勒と廷臣たちに驚きを与えた。


「林暁将軍は、まさかこれほどの才覚を秘めていたとは……」


「千人の兵で、これほどの軍を創り上げるとは、まさに用兵の天才だ!」


石虎もまた、この報告に驚きを隠せなかった。しかし、以前のような嫉妬や怒りはなかった。彼は、林暁の持つ才覚が、自分たちとは全く異なる次元にあることを理解していた。


(林暁……。俺には、あの男のような人心掌握の才はない。俺はただ、力で道を切り開くことしか知らなかった。だが、あの男は違う。あの男は、人を導く……。叔父上が、あれほどまでにあの男に執心する理由が、今、ようやく理解できた)


石虎は、石勒に深く頭を下げた。


「叔父上、林暁の才は、やはり並大抵のものではありません。あの男には、俺にはない何かがある……。あれこそが、将軍に相応しい器です。この石虎が、心からそう思います」


石虎の言葉に、石勒は満足げに頷いた。


「ハハハ! わしが見込んだ男よ!」


廷臣たちは、林暁を将軍として推挙した。


「石勒様、今や林暁将軍は、三万の兵を率いる将でございます。彼の才を無駄にせず、より重要な任務を与えるべきかと存じます。北方の守りを彼に任せるべきかと」


石勒は、彼らの進言を受け入れた。そして、林暁を呼び寄せると、彼に新たな命を下した。


「林暁よ、貴様に北方の守りを任せる。匈奴や鮮卑の動きは活発化している。貴様の才で、この北方の大地を平定してくれ。そして、わしのために、この乱世を終わらせる礎となってくれ」


林暁は、静かにその命令を受けた。彼の顔には、微かな決意が宿っていた。


(北方の守りか……。ここならば、俺が守るべき人々を増やすことができる。そして、その人々が、この乱世を生き抜くための礎となる……。石勒の野望のために戦うのではない。俺は、俺自身の大義のために戦うのだ……。この三万の兵を率い、この乱世に、希望の光を灯すために)


林暁が率いる三万の軍は、石勒の天下統一への大きな力となるだろう。そして林暁は、この北方の大地で、さらなる戦いを繰り広げていくことになるのだった。

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