表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
五胡転戦記  作者: 八月河
苻慕馬秦燕晋
33/48

二つの巨星を退ける男

林全は、慕容楷、慕容粛、慕容紹の三将と共に、苻堅を山西から追い出すことに成功した。父慕容恪の才を受け継いだ三将は、それぞれに持ち場を固め、苻堅の巧みな戦術をことごとく跳ね返した。


苻堅は、林全が五千の軽騎兵を率いて自らを襲撃した際、その指揮官としての才能を肌で感じ取っていた。


(あの男は、まるで父林暁の生き写し……いや、それ以上かもしれぬ。王猛が恐れるのも無理はない。一朝一夕ではこの燕は滅ぼせぬ。下手に深入りすれば、我が軍もただでは済まぬだろう)


苻堅は、林全の存在を深く警戒し、兵を退かせた。彼の軍は河内まで進軍したが、洛陽の要塞を前にしてついに林全と対峙することになった。両軍は、まるで嵐の前の静けさのように、互いに動くことなく睨み合った。


林全は、要塞の城壁の上から、遠くに見える苻堅の軍を見つめていた。その表情は、静かな湖面のように穏やかだったが、その瞳の奥には、燃えるような闘志が宿っていた。


(苻堅、そして王猛……。お前たちがこの燕に矛先を向けている限り、私は一歩も退かぬ。石斌殿の命は、決して無駄にはしない)


苻堅は、この膠着状態が自軍に不利に働くと判断し、一時的に兵を退かせた。彼は燕の動向をしばらく探ることにした。


林全は、洛陽の守りを林業と司馬遼に任せた。彼らの才ならば、苻堅の軍が再び攻め込んできても、十分に持ちこたえられるだろうと確信していた。


「林業。司馬遼殿。洛陽は、燕の命脈を握る要衝。どうか、二人で力を合わせ、この城を守り抜いてくれ」


「承知いたしました、兄上! この洛陽は、我らが命を賭して守り抜いてみせましょう!」


林業の力強い言葉に、司馬遼も深く頷いた。林全は、慕容楷、慕容粛、慕容紹の三将を山西の守備につかせ、自らは三千の騎兵を率いて慕容垂の元へと駆けつけた。


慕容垂は、桓温と長江の北岸で互角の戦いを展開させていた。両軍は、一進一退の攻防を繰り広げ、互いに決定打を欠いていた。


(桓温……やはり、そなたの才は侮れぬ。しかし、予も負けるわけにはいかぬ。この燕の未来は、予にかかっているのだ)


桓温もまた、慕容垂の巧みな戦術に手を焼いていた。


(慕容垂……燕には、なぜこれほどまでに将才に恵まれた男がいるのだ。王猛と並ぶほどの才を持つ男が、二人もいるとは……)


その時、桓温の陣に、林全が戦場に到着したという報が届いた。


(林全だと……!? あの男が、慕容垂と合流したか……。これ以上戦っても、得るものは少ない。今は、兵を引くべき時であろう)


桓温は、即座に全軍に退却を命じた。


林全は、慕容垂と合流すると、長江の北岸に砦を築き、晋軍の足止めをするよう進言した。


「慕容垂殿。桓温は、再び必ず攻めてきます。しかし、この地に砦を築けば、奴は安易に攻め込むことはできぬ。まずは、内政を立て直し、国力を養うべきかと存じます」


慕容垂は、林全の先見の明に感銘を受け、彼の進言を即座に受け入れた。


「林全殿。あなたのおかげで、我らはこの戦に勝利することができました。心から感謝いたします。この慕容垂、あなたと出会えたことを、心から光栄に思います」


林全は、慕容垂の言葉に静かに頷き、再び鄴へと戻った。


この一連の戦勝の報せは、朝廷を歓喜させた。苻堅と桓温という二つの大敵を退けたことで、燕の国力は揺るぎないものとなった。


慕容恪も、この朗報に病が軽くなった。彼は、若き皇帝慕容暐の成長と、林全の活躍を心から喜んでいた。


(林全殿……そなたがいれば、この燕は安泰であろう。予は、安心して療養に専念できる)


天下は、苻堅と桓温が兵を退かせたことで、束の間の小康状態となり、燕は少なからずの安寧を取り戻すことができた。しかし、林全は知っていた。この安寧は、いつか来る大いなる嵐の前の静けさに過ぎないことを。


(歴史は、すでに大きく狂い始めている。このままでは、さらに大きな戦いが起こるだろう。だが、私は一人ではない。慕容垂殿、そして慕容恪殿……。我らが力を合わせれば、必ずやこの乱世を終わらせることができる。私は、未来を変える。この手で……)


林全は、遠くの空を見つめ、静かにそう誓った。彼の心の中には、新たな時代の幕開けを告げる、静かな高揚感が満ちていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ