◆サイコロジ・ダイブ
さてさて、今回も色々とありましたが、何とか私の出番がやってきました。色々って言っても、私が勝手に拗ねていただけ……なのかもしれないけど。まぁ、それもタイヨウくんの言うことが正しければ、なんだけどね。
とにかく、後はサイコロジダイブとシアタ現象だけ。ただ、その前に……ちょっと気になることがあるんだよね。
「そう言えばだよ、レーナちゃん。さっき幻術攻撃を受けているとき、何を見せられていたの?」
「あー? ああ、恐ろしい夢を見せられたぜ。」
レーナちゃんは私の方に振り返ると、素直に答えてくれるのでした。
「私がガードをクビになる夢だ」
「へぇ。それって……」
私からクビを言い渡された、ってことだよね。そうなると……。
「それにしても、本当に恐ろしい攻撃を使うコア・デプレッシャでしたね」
タイミングよくスバルくんが割り込んできた。
「おそらく一番大切な人に突き放される幻覚を見せる攻撃だった……と、僕はそう分析しています」
スバルくんはレーナちゃんの槍と剣を回収していたので、私たちの会話は聞こえていなかったらしい。だからこそ、なんか凄くいい感じでアシストしてくれたような気がする。
「僕は一番想いを寄せている女性から、殴られ、なじられ、縁を切られる幻覚を見せられました。……まぁ、現実もそんな感じではあるのですが」
ある意味、スバルくんはそのヒトに対して、めちゃくちゃ素直に想いを伝えているようなんだけど、そのヒトはまったく気付いていないみたい。なぜなら、そのヒトはそれどころじゃないくらい動揺して、私を見ながら口をパクパクさせているのだから。
「ねぇねぇ、レーナちゃん!」
私は嬉しくて、熱くなった自分の頬に両手を当てながら改めて彼女に聞くのだった。
「どんな幻を見せられたの? 詳しく教えてよー!」
「だ、だ、だ、だ、だから……!!」
「誰にクビを宣告されたの? その人って、レーナちゃんが一番大切な人なの??」
レーナちゃんは背を向けてしまうのだけれど、何を堪えているのか、ものすごい肩が震えている。なんでそんなに恥ずかしがるのかなぁ。
「ねぇ、レーナちゃん。ちなみに、私がどんな幻を見せられたか聞く? 聞くー??」
何度もレーナちゃんの脇腹をツンツンするけど、少しもこっちを見てくれない。
「ねぇねぇ、レーナちゃんってばぁ。うわっ、顔真っ赤!」
「赤くねぇ!!」
何度も顔を覗き込もうとする私を手の平で押しのけようとするのだけど……。
「いたいたいたいたい!! 首の骨折れちゃう!!」
その力が強すぎて、首が千切れるかと思った。
「それより、早く始めろよ! 他のデプレッシャがここを見つけたらどうするんだよ」
「別に平気だよ。最強のガードと、おまけにナイトファイブのリーダーまでいるんだから」
とは言え、いつまでもここで遊んでいられないよね。私は背負っていたリュックを下ろし、メヂアを取り出す。
「まぁ、油断禁物だよね。早く終わらせちゃおうか」
私はミカさんの傍らに腰を下ろす。
「なんだよ、自信あるみたいじゃないか。こいつがデプレッシャ化した動機、掴めてないんだろ?」
まだ少し拗ねているのか、唇を尖らせながらレーナちゃんが聞いてくる。
「そうなんだけどね、さっき幻を見せられたおかげで、何となく分かっちゃったかな」
「さっきの……?」
「そう。コア・デプレッシャの固有スキルは、その人のトラウマを象徴するような能力になるんだよ。たぶん、ミカさんの場合は……大切な人の存在を否定する。そんなところなんじゃないかな」
「へぇ……」
納得してくれたようなので、私はメヂアを仰向けに倒れるミカさんのお腹の辺りに置いた。
「トウコ、それ……」
さすがはレーナちゃん。すぐに気付いたみたいだ。
「お前、どういうつもりだ……!?」
「いいのいいの。ちゃんと彼女を浄化してみせるから、レーナちゃんは大人しく見ていてよ」
私は含みがあるように笑って見せた後、スバルくんに言った。
「スバルくん。私はこれから意識を失うけど、その間はレーナちゃんに殺気を向けちゃダメだからね」
「先輩に殺気を向けたことなど一度もありません」
背筋を伸ばして答えるスバルくんに「よく言うよ……」とレーナちゃんは呟きを漏らす。私はミカさんの顔を見てから、一度だけ大きく深呼吸した。悪くない感じだ。色々心配なことはあったけど、たぶん大丈夫。まだ大丈夫だ。それが、どれだけ先のことかは分からないけど……取り敢えず、私は一人じゃない。息を吐き終え、改めてメヂアを見つめる。
「それじゃあ、サイコロジ・ダイブを始めるよ」
後ろでレーナちゃんが頷く気配があった。だから、私は安心して目を閉じる。
「ダイブ、開始」
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