推し活ってやつも大変よ
ミカに関する詳しい情報が集まらないまま、納期が来てしまったため、トウコとレーナはコラプスエリア化したエリアルドームに戻ってきた。もともと白い外観のドームだが、雪が積もったように、より白い景色に変わっている。
「さてと、行くとするか」
全身を鎧でまとったレーナが巨槍を担ぎあげ、横でノートパソコンを抱えたトウコが頷いた。
「よろしくお願いします」
ドームの入口まで進む二人だったが、そこに何者かの影が。さっそくデプレッシャが現れたかと思われたが、そうではない。
「……スバル。何の用だ?」
そこに立っていたのは、ナイトファイブのリーダー、スバル・アイモトだった。レーナは半分呆れながらも、鋭い殺気に警戒心を高める。
「まだ殴られ足りないか? だったら、五秒で済ませてやる」
さすがのレーナも、この執念深さに愛想を尽かせつつあるようだが、スバルの方は懲りずに殺気を放ちながらも、首を横に振るのだった。
「タイヨウ先輩から二人を手伝うよう言われてきました」
「た、タイヨウも来ているの? どこ? どこどこ??」
レーナは何を勘違いしたのか辺りを見回すが、スバルが平坦な声で否定する。
「先輩はきていませんよ。ちょっとトラブルがあったので」
「あ、そう……」
トウコからも睨まれていることに気付いたレーナは、苦笑いを浮かべながら身をすくめたが、すぐにいつもの調子に戻ってスバルに確認する。
「でもな、お前に手伝われたくらいじゃあ、こっちの仕事量は変わらねーよ。むしろ、気が散るから帰れ」
「いえ、必ず役に立ちますので」
口数が少ないスバルだが、異様なまでの主張力があり、結局は同行を許して三人でコラプスエリアに入り込むことになった。そして、タイヨウがスバルを寄こした理由はすぐに判明する。
「ギチギチギチ!!」
デプレッシャが複数体現れたが、どれもスバルばかりを狙う。確かに囮役として十分に機能するではないか。スバルに引き付けられたデプレッシャをレーナが横から撃破し、スムーズに奥へ進められたのである。その原理を真っ先に理解したのはトウコだ。
「そっかー。デプレッシャ化した人の多くは、ナイトファイブのファンなんだ。だからスバルくんを見ると興奮して追いかけてくるんだね!」
「なるほどなぁ。思ったより役に立つじゃねぇか」
単純に評価したつもりのレーナだったが、なぜかスバルから凄まじい殺気が返ってくる。
「褒めたのになんで私を殺そうとするんだ!」
納得いかず罵るレーナだが、スバルはより殺気を放ってしまう。
「殺そうと思ってません。一度たりとも」
「じゃあ、この殺気はなんだよ……」
黙って表情を硬くするスバル。それを見たトウコは「もしかして……」と思うが、余計なことは言わない方がいいかもしれない、と口を閉ざした。そのあともデプレッシャが次々に現れる。
「グッズ、ダシスギ―!」
「スパチャ、スルーサレター!!」
「モウオカネナイヨー!!!」
スバルに押し寄せるデプレッシャたちの異様な雰囲気に、レーナは思わず呟く。
「何を言っているか分からないが、とんでもねぇ怨念の塊ってことは分かるぜ……」
「推し活ってやつも、ストレス溜め始めたら終わりだねぇ」
二人がそんな話をしている間に、どんどんデプレッシャが増えていく。どうやら、イベントの開催前から開場の外でグッズ販売が行われていたらしく、そこに並んでいたファンがかなりの数いたらしい。
「おい、スバル。ここは任せたぞ! お前なら一人でなんとかなるだろー?」
「……はい、レーナ先輩の信頼に応えて見せます」
デプレッシャを蹴り飛ばしながら、スバルがぎこちない笑顔を見せ、レーナは頬をひきつらせた。
「うわぁ……。すげぇ怒っているぞ、あいつ」
大量のデプレッシャを押し付けたのだ。これだけの殺気を向けられるのも仕方がないだろう。そうレーナは感じたようだが、トウコは無表情で感情表現が不器用な男に同情してしまう。
「あれは、たぶん本心だと思うけどなぁ」
「そんなわけねぇって。親の仇かってくらい恨んでるぞ」
それから、数体のデプレッシャに遭遇したが、レーナの敵ではなかった。となると、残るはコア・デプレッシャのみ。彼女はナイトファイブのイベントのために作られてた舞台の上に立っていた。
「こっちを……見てやがる」
コア・デプレッシャとなったミカは、真っ直ぐとレーナを見据えていた。
「あれこそ、恨まれているって感じがするね」
トウコの言う通りかもしれない。レーナは小さく頷くと、巨槍を構えてコア・デプレッシャの攻撃に備えた。
感想くれくれー!




