別に隠さなくても!
「と言うのも、レーナの件があってから彼女と別れて、最近までほとんど会ってなかったんだ」
「そうなの??」
タイヨウは頷く。
「三ヵ月前くらいだったかな、急に俺のところに転がり込んできたのは。でも、そのときは既にあんな感じだったよ」
「あんな感じって?」
苦い時間を思い出すように、タイヨウは苦笑いを浮かべる。
「なんか常にイライラしていてね。ちょっとした言葉尻をとらえては不機嫌を振り撒いて。なんで俺のところにきたのかも、よく分からなかったかな」
「そうなんだ。じゃあ、デプレッシャ化するほどのストレスを抱えるとしたら、それ以前かもしれないんだね」
「そうだといいけどね」
そのあともミカについて質問を重ねたが、やはり原因と言えるものは掴めなかった。
「せっかくだったのに、役に立てそうにないようだ。悪かったね。他に協力できることがあるなら、何でもやるよ」
その言葉でトウコはもう一つの大きな謎を思い出す。
「そうだ。どうしてあの魔石を大切にしていたの? 調べてみても普通の魔石にしか見えなかったけど」
「ああ、それかぁ……。レーナは何も言ってなかった?」
「それが何も言わなくてさぁ!」
トウコの口調がやや荒くなる。
「私が聞こうとしても誤魔化すような態度なんだよ。どうして秘密にするのかなぁ。タイヨウくんの話になると、急によそよそしくなるから、こっちだって……」
そこまで話して、トウコは穏やか笑みで見守るようなタイヨウの視線に気付く。
「なに?」
「いや、トウコちゃん……少し変わったような気がして」
自分で振り返ってみるが、どこを指しているのか心当たりはない。
「そうかなぁ」
「昔はもっと他人に興味なかったように見えていたからさ。いや、メヂアを作っているんだろうから、人に興味がいないことはないんだろうけど……執着するようには見えてなかったかな」
「うーん……」
「まさか、レーナと気が合うとも思わなかったし」
それは確かに自分でも思う。レーナは同じクラスだったが、たまに会話する程度で特別に仲が良かったわけではない。むしろ、女であれば誰にでも積極的に声をかけてくるタイヨウの方が、会話した回数は多いかもしれないほどだ。
「そうだね、変わったかも。だから、タイヨウくんに振り回されているレーナちゃんを見て、ちょっと嫌な気持ちになっているのかな」
これが自分の素直な気持ちなのだ。トウコはそれを認めてしまうと、次々に言いたいことが出てきてしまった。
「だからレーナちゃんとタイヨウくんを近付けたくないの! タイヨウくんもどうせその気はないんでしょ? 変にちょっかい出さないでね」
何か思うことがあるのか。タイヨウは居心地が悪そうな笑顔を浮かべた。
「なに? タイヨウくんも秘密があるの??」
「いや、秘密と言うか……。二人はどういう関係なのかな、って」
トウコは腰を浮かしながら、テーブルを両手で叩く。
「誤魔化さないで!」
しかし、すぐに冷静さを取り戻したのか、肩を落としてから座りなおした。
「ごめん」
「いいよ。この際だから、思うことを話していったらいい」
少し迷ったが、トウコは感情を整理するようにこぼし出す。
「だって、レーナちゃんは私と一緒にお仕事するって約束したんだよ。それなのに、ちょっとタイヨウくんに優しくされたからなのか知らないけどさ、あんな風にふわふわしちゃって。喋り方まで変わっちゃったんだよ? レーナちゃんが一緒にお仕事してくれたから、最近は楽しく思えていたのに……。また独りになると思うと、怖いよ」
タイヨウは小さくなるトウコに微笑む。
「安心してよ。あいつは……トウコちゃんが思っている以上に、トウコちゃんのことを想っているから」
「どうしてそんなこと言えるの?」
あいつ、って言わないで……って、そこまで言う権利はないよね、と心の中で呟くが、タイヨウはその名の通り眩しい笑顔を見せた。
「あの魔石のことだよ」
レーナが隠していた秘密を、トウコはすべて知ることになるのだった。
トウコはナイトファイブのオフィスを出て、念のため持ち歩いていた魔石を手に取る。
「そっかぁ。これ、レーナちゃんのなんだ……」
別に話してくれればよかったのに。そんなことを考えながら、トウコは大事に魔石をバッグの中に戻した。
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