隠し事は嫌いです
コラプスエリアに発生に対する面倒な手続きをすべてゼノアに任せ、レーナとトウコは工房に戻った。さっそく作業を始めようとするトウコだが、なにか釈然としないことがあるのか、タイヨウから手に入れた魔石を眺めながら唸り続けている。
「なんでかなぁ。なんでかなぁ……」
そして、唸るたびにレーナの顔色を伺うのだ。これは余計なことを聞かれる気がする、とレーナは参考書を読むふりをして無視を続けたが、トウコが仕掛けてきた。
「レーナちゃん。私、タイヨウくんに会ってくるね」
「な、な、なんで!?」
だんまりを決め込んでいたはずのレーナが、勢いよく立ち上がる。だが、トウコはそっけない態度で工房を出る準備を進めながら答えた。
「ちょっと分からないことがあるし、本人に聞いた方が早いかな、って」
「分からないことって……?」
「この魔石のどこが特別なのか教えてもらわないとなー、って。ミカさんがあれだけこだわっていたってことは、デプレッシャ化した理由もこれにある気がするんだよね」
「別に普通の魔石だろ、どう見たって」
「そうなんだよ。素材も大したことないし、加工も荒いし、どう見ても素人が触った魔石なんだよね」
「むぐぐっ……」
トウコが振り向き、レーナの表情を見る。
「それとも、レーナちゃんは何か知っているの?」
いつものように柔らかい笑顔を見せるトウコだが、明らかに真偽を探るものだった。
「……知らない」
レーナがそっぽを向くと、トウコは半目で見つめながら迫ってくる。
「な、なんだよ」
「本当に何も知らないのかなぁ、って」
「……」
目を閉じて黙秘の意思を表明するレーナに、トウコは溜め息を吐く。
「レーナちゃんが教えてくれないなら、タイヨウくんから直接聞くしかないよね。じゃあね、お留守番よろしく」
「わ、私も行く!」
「結構です。隠し事がある人は信頼できませんから」
「と、トウコぉ……」
情けない声を出すレーナを一人残し、トウコは工房を出て行ってしまった。
トウコはナイトファイブの事務所を訪ねた。綺麗な五階建てのビル、すべてがナイトファイブ関係のオフィスとして使われているらしい。通された応接室で一人待ちながら、トウコは少しばかりヘソを曲げていた。
(なんで私に隠し事するかなぁ)
シンプルに、レーナが魔石について説明しないことが、気に入らなかったのだ。
(タイヨウくんのことになると、調子狂っちゃってさ。なんだかなー)
一人で出かけた理由もこれだ。タイヨウと会って浮つくレーナを見たくなかったのである。
「トウコちゃん、お待たせー」
こっちの気も知らず、軽い調子でタイヨウが姿を現す。室内なのにサングラスをかけているのも、何となく気に入らない。トウコはついそんな態度をあからさまに出してしまうのだった。
「どうも。お時間取ってくださって、ありがとうございます」
それを感じ取ったのか、タイヨウは控えめな笑顔を浮かべつつ、正面に座った。
「レーナは一緒じゃないの?」
「はい。タイヨウくんに会わせると面倒だと思ったから」
眉を寄せるタイヨウ。不機嫌な妹を相手にする兄のようだ。彼は秘書らしい女性を呼び出すと、何やら耳打ちして指示を出す。それから一分もせず、お茶とプリンが運ばれてきた。
「う、うわぁ……」
「確かプリンはトウコちゃんの好物だったよね」
「なんで知っているの??」
「一度会った女性の好き食べ物くらい、覚えていないと男として失格だからね」
どんな人生を送ってきたのだ、この男は。そんな気持ちを抱きつつも、魔王にもらったプリンと勝るも劣らない味に、つい感激してしまう。
「それで、聞きたいことって何かな?」
「あ、うん。ミカさんのことなんだけど。デプレッシャになる理由とか何か心当たりはあるのかな、って」
「うーん……。そうだなぁ」
きっと、タイヨウが鍵を握っている。そう考えていたが、どれだけ会話を重ねても、ミカのデプレッシャ化に関するヒントは出てこなかった。
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