初恋
崩落からレーナをかばい、瓦礫と一緒に床へ打ち付けられたため、タイヨウは一瞬だけ気を失っていた。ぱっ、と目を覚ますと、傍らで三角座りするレーナがこちらを見ている。
「無事だったか」
「うん、おかげさまで」
ほっと一息を吐くタイヨウだったが、すぐに慌てて懐を確認する。そこにあるはずのものが、なかった。
「悪いけど、もういただいた」
レーナの手に魔石が。彼女はタイヨウが気を失っている間に、奪い取ったのだ。
「ふっ、こうなったら……仕方ないな」
往生際よく、タイヨウは背中を瓦礫に預け、争う意思はない、という姿勢を見せる。レーナはそんな彼を横目で見ながら、複雑な感情を抱いた。
「しかし……これは出られそうにないな」
タイヨウの言う通りである。瓦礫に囲まれ、完全に閉じ込められたような状態だ。大きな柱があったせいか、押しつぶされることもなく、光が差し込んでいるため視界も悪くないという点では、幸いだった。
「ははっ、高校時代もこんなことがあったなぁ」
「あー、うん。文化祭の準備のとき、タイヨウのクラスのやつらが面白がって、私たちを体育館の倉庫に閉じ込めたよね」
あのときも、暗い密閉された空間で二人きりだった。そして、そこで二人は初めてキスを……。思い出して赤面するレーナ。タイヨウはどんな顔をしているのか、と視線を向けると、優し気な微笑みが。
「へ、変なこと思い出させないで!」
思わず顔を隠す。が、そんな彼女を揶揄う笑い声が響くのだった。数秒の沈黙が流れるが、レーナはずっと気にしていたことを、問いかける覚悟を決めた。
「ねぇ、タイヨウ」
「なんだ?」
「どうして、こんなもの……捨てずに持っていたの?」
彼女は手にした魔石をタイヨウに見せると、彼は輝く夜景でも前にしたように、眩し気に目を細めた。
「お前が初めて俺にくれたものだ。捨てられるわけないだろ」
「……っっっ!!」
そう、この魔石は……高校時代にレーナが加工したものだった。メヂアの形に至るまではなかったが、彼女が必死に手を加えたもの。どういうつもりか、タイヨウが「レーナが作ったものなら欲しい」と言ったため、彼女は照れくささを感じながらも、彼に譲ったのであった。
「で、でも……私たち別れたんだよ!? そんなの、持っていても役に立たないし、捨てればよかったじゃん!! タイヨウはモノに執着しないタイプだし、おかしいよ!!」
「そうかもな……」
わずかに差し込む光を見上るタイヨウだったが、何を思ったのか、すぐにレーナに振り向いて笑顔を浮かべた。
「確かに俺は何かに執着したりしない。だけど……そんな俺にだって、捨てられない未練くらい、あるさ」
「ーーーっっっ!!」
それってどういう意味!?
レーナは必死に言葉を飲み込む。しかし、タイヨウが急に黙って見つめてくる。しかも、手を重ねてくるではないか。これは、やっぱり、そういうこと……??
ゆっくりと近付くタイヨウの顔。レーナは頭頂部から吹き出しそうな火を抑え込みながら、ただ耐えるように目を閉じた……が、突然二人は光に晒される。
「ほう、スバルとやら。なかなかの嗅覚を持っているな」
「いえ、別に。僕は何となくここに先輩たちがいる気がしただけで……」
「レーナちゃん! どこーーー!?」
「あっ!!」
巨大な瓦礫が取り除かれたらしく、二人を凝視する面々が……。
「えーっと、レーナちゃん?」
その中にはトウコの姿も。彼女の視線は、ちょうと二人の間に向けられていた。そこには重ねられた手が。
「ち、ちが! これは!!」
すぐに手を引っ込めるレーナだったが、それだけでは済まない。
「貴様、よくもレーナちゃんを……むっ?」
魔王が再びイノッピーを暴走させるかと思われたが、急に動きを止め、視線をあらぬ方向へ。そこには……。
「信じられない……」
ミカが立っていた。
「信じられない信じられない信じられない!! おかしいよ、絶対に私でしょ! そんな女より、私でしょ!?」
ミカが手の平で顔を覆うと、膝を付いて何やら呟き始める。
「おかしいおかしいおかしい。おかしいよ。だって、私は、私の方が……あれ?」
どこを見るというわけでもなく、顔を上げると、何を見たのか酷く困惑した表情だった。
「おかしいな。雪が……降ってる」
その瞬間、全員が危険を察知し、真っ先にレーナが叫んだ。
「まずい、デプレッシャ化するぞ!!」
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