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私の可能性

「でも、今やっと軌道に乗りつつあるんだよ」


トウコは姉に主張する。


「評判も良くなっているし、有名人から依頼もある。このまま行けば……」



「そんなの、一時のものよ」


レモネは妹の主張を遮るように否定する。


「流行り廃りがあって、いつまでも安定して稼げるものじゃないわ。人生は長いの。安定した生活を目指しなさい。今なら間に合うから」



レモネはトウコを追いつめる。



「貴方自身だって、今は調子が良いかもしれないけど、いつか才能は尽きるわ。今だって自分の身を切るようにして作品を生み出しているのでしょう。そんなのずっと続けられる? 身を切り続けたら、いつかはすり減ってしまうもの。そうなったとき、貴方に何が残るの? 孤独で惨めな気持ちが残るだけなんだから。そうなってしまう前に、ちゃんとしないと。分かるでしょ?」



今にも涙を流しそうなトウコだが、姉は追いうちのように鋭い視線を浴びせる。それでも、トウコは震えながら、自分の気持ちを伝えた。



「でも、あと少しで何かがつかめる気がするの。そしたら、そしたら……!!」


トウコは姉を見る。


「そしたら、なれるかもしれない。お母さんみたいな、錬金術師に」



また、工房の雰囲気が変わった。今まで以上にレモネの圧力が、じっとりと重く変化したようである。そんな彼女はトウコに断言するのだった。



「そんなことは、あり得ないわ」


「わ、分からないじゃない」


「いいえ。才能は遺伝しない。あの人みたいになるなんて、絶対に無理だから。自分でも分かっているはずよ」


「…………」



沈黙に誰もが押し潰されてしまうと思われたとき、レモネが大きく溜め息を吐いた。



「まぁ、いいわ」


そして、踵を返し、出口の方へ。


「今日はもう帰るけど、ちゃんと考え直しなさい。一緒の働いてくれる人に迷惑かける前に、こんな工房も綺麗に畳むのよ」



肩を落としたままのトウコを残し、レモネは姿を消した。


「トウコさん……」


ゼノアはかける言葉を探して迷っていたが、そのタイミングでレーナが戻ってきた。



「私のスマホ、あるよな? いやー、なくしたかと思った。……どうした?」



妙な空気を察したレーナに、ゼノアが一部始終を説明する。



「ふん、姉だろうが、私が半殺しにしてやるぞ。トウコ、どうする?」


「……大丈夫」



トウコは力なく自分の作業スペースまで戻って腰を下ろすと、気持ちを整えるように深呼吸を繰り返した。



「お姉ちゃんはね、お母さんがいなくなってから、凄く苦労して私を育ててくれたんだ」



それは以前も聞いていた。失踪した母に代わって、ずっと面倒をみてくれた姉のことを。



「だから、お母さんとメヂアのことが大っ嫌いなの。私がその道に進むって言ったときも大反対したし、今も反対し続けている。それでも、ずっと心配して私のこと見てくれるから……感謝しているんだ」


「だとしても、顔を合わせたらぶん殴っちまいそうだ」


「あははっ、こないように言っておくね」



トウコは何とか明るさを取り戻そうとするが、どうしても不自然だ。それに気付いたゼノアが温かいお茶を入れて、二人の前に置く。



「大丈夫です」



彼はいつも以上に大きい声を出した。



「トウコさんのメヂアはもっと売れます。工房だって、もっと大きくなるかもしれない。下手したら、オフィスだって広いところに移転して、たくさんの人を雇うことになるかもしれませんよ」


「えー、人を雇うのは嫌だなぁ」



苦笑いを浮かべるトウコに、ゼノアは真っ直ぐな目を向ける。



「それくらい、貴方の才能には可能性があるということです。一緒に働いている僕たちが言うんだから間違いありません。ね、レーナさん?」


「いまさらお前が大声で言うことじゃない。当然なんだよ」



照れくさそうなレーナに、ゼノアは微笑みながら「ほらね」とトウコに目で伝える。トウコもそんな二人のやり取りがおかしくて、少しだけ自然に笑えるのだった。



そして、ナイトファイブのイベントの日がやってきた。

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