夢を追い続けても許される年齢は?
レーナが工房に戻ると、トウコが笑顔で迎えた。
「あ、レーナちゃんお帰り。デートどうだった?」
「どうもこうもなかった」
揉めた、と言えば責められるかもしれない。ぼやかしたつもりだったが……。
「まさか、失礼な態度取って怒らせてはないでしょうね?」
ゼノアに痛いところを突かれてしまう。
「あの人怖いから、できれば機嫌を取っておきたいですよね。いつかみたいに、コラプスエリアの場所も教えてもらえるかもしれないし。レーナさんが良い感じに関係性を保ってくれるといいのですが……」
レーナは黙っていた。下手なことを言うと、二人から「今夜は魔王と電話しろ」と怒られる気がしたからだ。
「明日のことなんですけど」
レーナが黙っていると、ゼノアが数ページにわたる資料を渡してきた。
「ナイトファイブのディープなファンたちのSNSを漁って、タイヨウさんが会場に現れる時間や場所を調べておきました。そのほかの情報もまとめておいたので、目を通しておいてください」
「えええ、ゼノアくん凄い情報収集能力だね」
関心するトウコに「それほどでもありませんよ」とゼノアは自慢げだ。
「さらに、侵入できそうなポイントもまとめてあるので、レーナさんが入り込みやすそうな場所からお願いします」
「了解。それじゃあ、私は下見に行ってくるわ」
そこからは落ち着いた時間が訪れるかと思われたが、レーナが工房を出て数分も経たないうちに、来客があった。
「いらっしゃいませ!」
ゼノアが素早く立ち上がり、笑顔を見せながらも、客がどういったタイプの人間か見定める。黒髪にロングヘアの女性。目つきは鋭く、どこかとっつきにくい印象があり、これはストレスをため込むタイプだろうと勝手に推測した。これは依頼が成立するかもしれない、と思われたが……。
「……すみません。トウコ・ウィスティリアは?」
意外な質問が。
「えーっと、トウコさんなら」
ゼノアが振り向き、トウコの方を見るが……彼女は目と口を丸くして、来客者の女を見つめていた。
「どうしたんです?」
不自然なトウコに、不審に思うゼノアだったが、彼女は何度か口を開け閉めした後、呟くのだった。
「お、お、お……お姉ちゃん!?」
工房に流れる沈黙。そして、ゼノアが絶叫した。
「お姉ちゃん!?」
ゼノアはすぐさま来客者の方に目を戻す。
「確かに似てる!!」
ゼノアが驚くのも無理はない。トウコに比べると長身だが、髪を切ってメガネをかければ、かなり同じ部類の顔だ。ただ、トウコにはない目つきの鋭さが、なかなか二人の関係を結びつかないところだった。
「妹がお世話になっております。姉のレモネ・ウィスティリアです。これ、よかったら」
トウコの姉……レモネが差し出す紙袋は、有名な店で売られている煎餅だったが、トウコの好物なのだろうか、と頭の中で首を傾げながらゼノアは受け取る。すると、奥からトウコが出てきて、姉を工房の外に押し出そうとした。
「お、お姉ちゃん。何の用? 話なら電話で済むでしょ?」
「貴方が工房を開いたって言うから見に来たのよ。ちゃんとやれているの?」
「心配しないでいいよ。最近も大口の仕事が入ったばかりなんだから」
しかし、レモネはトウコの妨害をものともせず、工房の奥へ入ってきた。
「ガードのレーナさんは? 挨拶したいと思っていたのだけれど」
「レーナちゃんは外出したところ。別に挨拶とかいいから!」
トウコの制止をものともせず、レモネは工房を一周した。しかも、目にしたものすべてを品定めするよう、じっくりと。レモネはチェックを終えると、正面からトウコを見つめた。
「なに……?」
「トウコ、いつまでこんなことを続けるつもり?」
その質問で工房に妙な空気が流れた。何だか魔王が工房に訪れたときと似た、重たい空気だ。
「いつまで、って……ずっとだよ。これが私の仕事なんだから」
「もっと安定した仕事に就きなさい。それか結婚よ」
レーナがいたら、ひっくり返ったかもしれない。そんなワードが出たが、レモネは続ける。
「良い人がいれば、工房が上手く行かなかったときも安心でしょ。そういう相手はいるの?」
「そういう相手って……」
トウコはなぜかレーナが座っていた椅子を見るが、そこには誰もいない。精神的にぐらつしてしまいそうだったが、トウコはすぐに反論した。
「お姉ちゃんだって独身じゃん! 人のこと言えないでしょ??」
「私は貴方と違って職も安定しているし、お金もあるの。それに、モテるから結婚なんていつでもできるから」
「わ、私だって……」
何を言おうとしたのか。いつまでも言葉が出てこなかったため、レモネは彼女に言い放つのだった。
「結婚できないなら、この仕事はやめなさい。貴方だって、夢を見ていられる年齢じゃないんだから」
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