いくら何でも話くらい聞いてやれよ
ナイトファイブのイベント前日。レーナは魔王と昼食の約束があったため、高級ホテルの上層階にあるレストランにいた。
「ここのチャイニー料理は、なかなか食べれるものではないぞ。レーナちゃん、余に感謝すると良い」
「へぇ」
いつも通り、魔王は黒いスーツで決めてきているが、レーナに関してはジャージにパーカーを羽織り、しかも足元は可愛いキャラクターの絵が描かれた安っぽいサンダルと言う、ディスカウントストア「ドンピッピ」で夜中に見るスタイル。
本来ならドレスコードで断られる格好だが、魔王の顔で入れてもらったのである。レーナと食事を共にする時間がよほど嬉しかったのか、魔王は饒舌だった。
「それで、生意気な客が余に立てついてきたのだ。それで、余は何て言ってたやったと思う?」
「おー、わかんねーわ」
「教えてやろう。余はこう言った。物の価値が分からない俗物に、余の物件を購入する権利はない、とな。そしたら、その客のやつ、どんな顔をしたか分かるか?」
「あー? わかんねーわ」
「…………」
「…………」
食事が始まってから、三十分ほど経過しているが、ずっとこの調子だった。どんなに話しても、レーナはスマホ片手に塩対応。魔王が提供する話題がどうなのだ、という問題はあるものの、レーナの態度は失礼極まりないものだった。
「レーナちゃん、いくら何でも酷くはないか?」
「あー? 何がー?」
「上の空が過ぎるではないか。心ここにあらず。ぼんやりさんだ。何か思うことがあるのか?」
「別にねーよ」
そう言いながら、レーナは吐いた溜め息の音を聞き、魔王は察する。
「まさか、別の男のことを考えているわけではあるまいな?」
「えっ!?」
レーナの瞳の中で星が瞬く。
「そ、そ、そ、そんなわけないじゃない。私が元カレのことを忘れられず、しかも明日会うかもしれないから、こうやって何も手を付けられないとか!!」
これに対し、魔王の頭には稲妻か落ちた。
「……その男、あのタイヨウとかいう中途半端な勇者ではあるまいな!?」
「な、な、なんで……!!」
「なぜだ! なぜあの男に入れ込む! 顔か? 金か?? どちらも余は持っている。なぜ、余ではなく、あの男なのだ!!」
テーブルをひっくり返してしまいそうな勢いの魔王だが、レーナは「いや、お前は魔族だから絶対になしだろ」と冷静に指摘する。
「許さんぞ、タイヨウ! 十年前もやつが邪魔しなければ、レーナちゃんは余のものだったのに!」
「あ、そうだ。てめぇ、あのとき私を騙したこと、忘れてねぇからな!?」
二人の間に何があったのか。それは十年という月日が水に流したとして、魔王はスマホを取り出すと、タイヨウについて調べ始める。
「なるほど、明日のイベントであの男と会うつもりか」
「お前……そんなこと知ってどうするつもりだ!」
魔王は何を企むのか、魔王らしく低く笑った。
「当然、邪魔してやる。ナイトファイブとかいう連中のイベントが台無しになるくらい、めちゃくちゃにしてやるわ!」
「や、やめて! そんなことしたら、タイヨウが……!!」
「知るか! あの男がどうなろうと知ったことない! 邪魔されたくないのなら、結婚だ!」
「……あー、じゃあもういい。お前、ここで殺すわ」
食事中、冷蔵庫の中にあるお茶を取りに行くかのような調子でレーナが立ち上がる。しかし、魔王からしてみると、死の前触れとと言えるような動作だった。
「せっかくのデートがこのような形で中断されるのは口惜しいが、命には代えられん。レーナちゃん、また会おう」
魔王は急に駆け出し、窓ガラスを突き破ったかと思うと、都市の景色へ身を投げ出す。ここはホテルの上層階。魔王とは言え、この高さから落下しては……と思われたが、巨大な鷹らしき怪鳥がどこからか現れ、彼をピックアップしていた。そして、その怪鳥の上にまたがった魔王が改めて宣言する。
「レーナちゃん、明日あの男と会えると思うなよ。余の機嫌を取りたいのであれば、今夜電話してくるのだ。寝落ち通話に付き合うのであれば、許してやるぞ。うわっはっはっはっ!!」
「おい、待て。こら!!」
しかし、あっという間に青空へ消えてしまう魔王。一人取り残されたレーナの横に、レストランの従業員が立った。
「すみません、お代と修理代の方を……」
「知るか。あの変態にツケておけ」
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