興味ないやつからの着信
それから、レーナとトウコは魔石を強奪する機会をうかがい、連日タイヨウの家を張ったが、彼が帰ってくる様子はなかった。
「ダメだな」
レーナは双眼鏡から目を離しながら溜め息を吐く。
「私たちの襲撃を警戒して、しばらく自宅には帰らないつもりだな」
「ふーん。自宅に帰らないなら、どこに帰るのかなぁ」
トウコのぼんやりとしたコメントに、レーナは頬を引きつらせるが、何とか気持ちを抑える。
「なぁ、トウコ」
「なに?」
「この依頼、やっぱり断らないか?」
「えー、嫌だよぉ。タイヨウくんが大事にしている魔石がどんなものか気になるし、私たちの工房がさらに有名になるチャンスだよ??」
トウコのモチベーションは高いせいで、レーナも強く出れなかった。しかし、この依頼を通してタイヨウと会える、という自分自身の気持ちも強く否定できない。ただ、例の魔石の正体を知ってしまった今は、この件は放置しておきたい、という気持ちの方が強くなっているレーナだった。
「ちょっと! まだ魔石は手に入らないの!?」
次の日、朝からミカが工房を訪ねてきた。
「申し訳ございません。なかなかタイヨウさんが捕まらないもので……お体のこともあるので、やはり別の魔石をご利用される方針で進めるのはいかがでしょうか?」
ゼノアが対応するが、ミカは引き下がらない。
「いや! 絶対にあの魔石を使うの!!」
「仕方ねぇだろ、タイヨウがどこに隠れているか、分からないんだから!」
言い争いを回避するため、黙っているつもりだったが、つい口を出してしまうレーナ。もちろん、ミカは怯まなかった。
「心当たりはあるわ! 最近人気の歌手、ナナセ・ファーガゾンの自宅よ。いえ、最近人気の女優、セリ・クオリアの自宅。……最近人気のフィギュアスケーター、コマネ・チザキの方かも。それから、それから……とにかく、女の家よ!!」
うわー、間違いないね、とトウコが呟くが、レーナは聞こえないふりをした。
「そんなに候補が多かったら、どうにもならないだろ。もっと確実にタイヨウが現れる場所はないのか??」
口惜しいが、今のタイヨウについては自分よりもミカの方が詳しい。彼女から情報を引き出すしかなかったが、怪しい場所が多すぎて、やはり絞れないようだ。
「確実な場所、ありますよ!」
女二人が煮詰まる中、ゼノアが声を上げる。
「ほら、三日後にあるナイトファイブのイベント! これ、『プロデューサー感謝祭』ってことはタイヨウさんがメインのイベントですよね? 本人が現れるのでは??」
「おおお! ゼノアくん、名推理。あっ、でも……そんなところに魔石を持ってくるかな?」
「持ってくるだろうな」
答えたのはレーナだ。
「あいつは大事なものが狙われたときは、絶対に自分の手元に置いておく。たぶん、イベント中も魔石を持ち歩くだろうよ。まぁ、魔石なんかをそこまで大事にしているかは、わかんねーけどな」
「いえ、持っていくと思う」
今度はミカが自身の実体験を語る。
「いつだったか、タイヨウと喧嘩したときのことなんだけど……私がムカついて、あの魔石を売り飛ばしてやるって言ったことがあったの。そしたら、数日は魔石を持ち歩いて、絶対に私に触らせないようにしていた。だから、今回も……」
どれだけ信憑性があるか分からない。それでも、タイヨウと深い付き合いがある二人の女の経験談を信じるしかなかった。
「じゃあ、決まりね」
ミカは勝手に方針を決定する。
「三日後のナイトファイブのイベントに忍び込んで、タイヨウから魔石を奪い取りましょう!」
これだけ活力のあるミカが、本当にデプレッシャ化するほどのストレスを抱えているのだろうか。トウコは密かに疑問を抱くが、怒らせても仕方がないので、黙っておくことにしたのだった。
さらに次の日。ウィスティリア魔石工房は、割と穏やかな時間が流れていたのだが、一本の電話が入った。
「はい、ウィスティリア魔石工房」
いつもなら、ゼノアが真っ先に電話を取るのだが、その日はなぜかレーナが取ってしまった。そして、その電話の相手は……。
「やっほー、レーナちゃん。余だよ。魔王だよん」
聞きたくもなかった低い声に、レーナは黙って電話を切った。
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