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これはチャンス!だと思ったら…

「まさか、ミナトくんとまた会えるなんて……思わなかった」


「僕もだよ。それに、レーナちゃんが昔と少しも変わらなくて、びっくりしたよ」


 ここはソーサ地区でもトップクラスの高級レストラン。レーナは十年以上ぶりに再会した同級生、ミナトと食事を共にしていた。勤務が終わったら、とミナトに誘われたのである。


「君のように綺麗な人に相手がいないなんて、周りの男たちは見る目がないみたいだね」


 ミナトは微笑みながらグラスを軽く持ち上げる。学生時代の頃は、そこまで目立たないミナトだったが、歳を重ねて大人の魅力が養われたらしい。その余裕ある態度に、レーナは思わず頬を赤らめてしまう。



「そんな、私なんて……。ミナトくんこそ、冒険者として凄い活躍しているみたいじゃない」


「まぁ……そこそこかな」



 鼻にかけず、控えめな笑顔を見せるミナトに、レーナはますます魅了されてしまう。



「ランクもA+だったけど、高難易度クエストをたくさんこなしているの?」


「うーん、自分でクエストに参加するのは、体がなまったように感じたときだけだよ。大体は若い人たちがパーティを組めるように斡旋したり、クリエイタにガードを派遣したり、そんな感じでギルドと連携しながら人材派遣の仕事をしているかな」


「凄い……経営者ってこと??」



 レーナが大袈裟に驚いてみせると、ミナトはまんざらでもなさそうに頷いた。


「まぁね。五年前から初めて、何とか軌道に乗り始めたって感じだけど」


 なるほど。冒険者としての収入だけで800万越え。だとしたら、人材派遣の会社経営も含めたら、1000万を余裕で超えるだろう。


 これは……逃してはならない!



「今日は本当に楽しかった。また誘ってね?」


「もちろんだよ。連絡先、聞いてもいいかな?」


「うん!」



 デートは上々だった。仕事の話だけでなく、想い出話も花が咲き、お互いが笑顔の時間がほとんどだったのだから。


「そう言えば、レーナちゃんって卒業してから、すぐにギルドの受付で働きだしたの?」


 食事を終えつつあったとき、ミナトが禁断の話題に触れてきた。



「確か、卒業と同時にタイヨウと交際を始めていたよね……?」


「何も……知らないの?」


「うん。俺、卒業してすぐ経営について学ぶために留学していたから」



 ミナトは例の事件を知らないようだ。例の事件だけじゃない。自分が血塗れのレーナ(ブラッディ・レーナ)と呼ばれていた時期のことも。


「タイヨウとは色々あって別れたの」


 レーナが少し寂しそうに、ただどこか期待を含んだ笑顔を見せると、ミナトは頬を赤らめた。


「そ、そうだったんだ。……よかった」


 これは行けるかもしれない。すべてが自分にとって、都合のいい巡り合わせでははないか。レーナは夢の結婚生活を頭の中で描かずにはいられなかった。


 しかし、別れ際のこと、ミナトがどこか浮かない顔で一点を見つめていた。その視線の先を確認してみると、大型のビジョンにニュースが流れている。



『リナト地区にコラプスエリアが発生。現在、原因の調査とデプレシャの発生を確認中とのこと』



 コラプスエリア。討伐されたにも関わらず、この世界に残った魔王の呪いだ。


 人々のストレス指数が高い地域に発生し、土地を腐敗させてしまうが、そのきっかけは個人の怒りや悲しみが原因ということが多い。


 そして、その原因となった人物はコア・デプレシャと呼ばれるモンスターに変化してしまうのだが……。


「リナト地区なんて、すぐ傍だね。コラプスエリアが広がったらどうしよう。私、ちょっと怖い」


 百のモンスターに囲まれても臆することないレーナだが、ミナトの前でひ弱アピールをしてみる。が、ミナトは大型ビジョンを眺めたまま、それに気付いていない。



「ミナトくん?」


「え? あっ、ごめん。大丈夫だよ、コラプスエリアの一つや二つ、僕の会社が本気を出せばすぐに浄化できるから」


「えー、凄いんだね! ミナトくんの会社は」


「まぁね。よかったら、今度メンバーを紹介させてよ。みんな良いやつばかりだからさ」



 こうして、二人は解散したのだが、レーナは帰路につきながら考えた。


(悪くない。悪くないぞ! やっと、運命が私に傾いてきたんだ。トウコには悪いが、私はゴールインさせてもらうぜ!)


 それから、二人はデートを重ねた。

 そのたびに二人は笑顔を交わし、親密度を上げて行ったようだったが……。


「あの、シシザカ先輩」


 ある日、後輩に話しかけられる。



「最近、先輩の処理した管理表、ミスが多い気がするのですが、ちゃんと集中して仕事できてますか?」


「はぁ? 私のミスはお前らがフォローすればいいだろう?」


「社員同士で助け合うのは当然ですけど、先輩の場合は度が過ぎてます!」


「うるせえなぁ。この前、合コンで私をハメたこと忘れてねぇからな?」



 横柄な態度に、後輩は頭に血が昇ってしまう。



「あのですね、そんな勤務態度でいつまでもやっていけると思わないでくださいよ? ずっと我慢してきましたけど、そろそろ上に報告させてもらいますからね??」


「はいはい。やれるもんなら、やってみろよ。別に私だって……あ、待て! 黙っておけ! ミナトくんから電話きちゃった!」



 後輩の注意を遮ったかと思うと、急に女の声色になって電話に出てしまう。勤務中なのに平然と私用の電話だ。わなわなと怒りに震える後輩だったが、最終的には呆れて声も出なかった。



「急に誘っちゃってごめんね」


「ううん。今日も楽しかったー。ねぇねぇ、次はいつ会えるの?」



 早退してミナトとディナーを楽しんだレーナだったが、店を出て次の約束を取りつけようとしても、彼は上の空だった。今日も良い感じだったのに、何があったのだろう。ミナトは何かに意識を奪われているようだが……。


 その視線の先を確認すると、いつだかと同じように大型ビジョンにニュースが流れていた。



『リナト地区にコラプスエリアが拡大中。コア・デプレッシャの存在も確認され、騎士団による強制浄化作戦が検討されている』



 またリナト地区のニュースだ。何か思うところがあるのだろうか。



「ミナトくん?」


「あ、うん、ごめん。次の約束だよね。俺の方から連絡するね?」


 こうして、この日は分かれたのだが……三日が経ってもミナトからの連絡は一度もなかった。

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