想い出がいっぱい
レーナとミカはマンションに侵入する。タイヨウの部屋は二十階だ。エレベーターを降りて、右に進むと長い廊下が伸びていて、その突き当りにタイヨウの部屋があった。
「入るわよ」
「はいはい」
ミカが鍵をあけてドアを開くと、自動で照明が付く。そして、広々とした生活感のない空間が。
(すげー部屋。タイヨウと結婚すれば、こんな部屋で暮らすことになるのかぁ)
表情には出さず、無駄な妄想を膨らませるレーナだったが、ミカが躊躇いなくずんずんと奥へ進んだので、現実に引き戻された。まずは一番広いリビングから調べるつもりのようだが、魔石らしいものは見当たらない。一通りチェックした後、ミカは言った。
「部屋は全部で六つ。時間もないことだし、手分けして探しましょう」
「はいはい……」
別の部屋に移動しようとするレーナの背に、ミカは言い加える。
「あ、魔石を見つけても触らないでね。タイヨウの大事なものに触っていいのは、私だけなんだから」
「はいはい!」
苛立ちながら、トレーニング器具が置かれた部屋を調べるレーナ。
(あの女、馬鹿みてぇにマウント取ってくるけど、絶対タイヨウは私の方が好きだし。だって、電話したかった、って言ってたもん。タイヨウだって、私のことを忘れられなかったはずなんだから)
トレーニング室にはそれらしいものはない。次は書斎らしき部屋に入った。本に囲まれたデスクにはパソコンが一台。デスクには引き出しも多いため、ここが一番怪しいかもしれない。
(あ、卒業写真)
ふと見た本棚にあったそれを手に取り、何気なく開く。一生残る写真だと思って、完璧な笑顔で映っている自分。その少し離れたところには……。
(トウコのやつ、ぜんぜんかわってねぇなぁ。このころから無邪気に笑いやがって)
ここまでの道中、少し言い合いになってしまったことを思い出し、苦い気持ちになるが、同時に学生時代からメヂアに打ち込むトウコの姿がフラッシュバックした。
(そうだよな。そういう女だよ、あいつは)
さて、タイヨウの顔も見ておくか、とページをめくると、バラバラと写真が落ちてきた。どうやら、卒業写真の間に、別の写真も何枚か挟んでいたらしい。
(何の写真だ?)
一番上にあった写真を拾い上げてみてみると、自分とタイヨウが映っていた。二人の後ろには、たくさんの同級生が笑顔を見せている。これは卒業式の日、タイヨウに告白され、皆に祝われながら撮った写真だ。
(こんな写真を大事に持っているなんて……タイヨウ、可愛すぎる!! じゃあ、他の写真も私との思い出か??)
手に取ってみるが、どれも別の女と二人で映っている写真ばかり。どうやら、卒業式の日に、二十人以上の女とツーショット写真を撮っていたようだ。これでは、自分と二人で撮った写真も、他の女との思い出に埋もれているようではないか。
(いや、怒るな。タイヨウは私を選んだんだ)
何とか自尊心を保ちつつ、卒業写真をもとに戻して魔石捜索を再開しようとしたが、別の本に目が止まった。
(……おかえり、愛しい人?)
それは分厚い本だった。タイヨウは小説なんて読まないはずだが、背表紙に書かれたあらすじを見る限り、ゴリゴリの恋愛小説だ。
(あいつ、こんなもの読むようになったのか?)
どんなものか中身を確認しようとしてみると……。
「あれ?」
思わず声を出してしまう。なぜなら、分厚い本はダミーだった。中身がくりぬかれ、そこには魔石が一つ。
「……この魔石って」
レーナがそれを手に取ろうとした瞬間だった。
「よっ、本当に会いに来てくれたんだな」
「た、タイヨウ!」
振り返ると、そこにはタイヨウが。いつの間にそこにいたのか、眩しそうに目を細めて、レーナを見つめていた。そんな甘い眼差しを浴びて、ついレーナは頬を赤らめてしまう。
「べ、べつに会いに来たわけじゃ……。っていうか、どうしてここに? 今日はナイトファイブの配信の日って聞いたけど」
「なんとなく、レーナが来てくれる予感があって、な?」
タイヨウがゆっくりと距離を詰めると、手を伸ばしてきた。
「おいおい。それは俺の一番大切なものなんだ。勝手に見られたら恥ずかしいだろ?」
そういって、分厚い本ごと魔石を取り上げてしまう。いつものレーナであれば、手を引くこともできたのだが……。
「ど、ど、どうして……そんなものを」
「なぁ、レーナ」
甘くて低い声で名を呼びながら、タイヨウはレーナの頬に触れた。
「この件から手を引いてくれないか? そしたら、俺たち……」
俺たち……やり直さないか。
もしかして、そんな言葉を??
期待するレーナだったが、書斎に近付く何者かの気配が。
「あああーーー!! ちょっと貴方、なにタイヨウに触ってんのよ!!」
別の部屋を調べていたはずの、ミカだった。
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